3話 自己紹介
・ソロン
冒険者になった少年
父とホームレス生活
・アテナ
冒険者になった少女
弟とホームレス生活
ギルドを出た頃にはもう夕暮れ。
一度家に帰り、冒険者になったということを父やアテナの弟のビリー君に発表することにした。
「えぇ!?姉ちゃん冒険者やんの!?危ないし割に合わねえって言ってたの姉ちゃんじゃん!!」
「気が変わったんだよ!それにもうわかってると思うが、そこにいるボケっとしたおっさんとアタシの手下がここに住むことになった!
お前の手下でもあるからな!ちゃんと面倒見るんだぞ!」
「犬猫じゃないんだよ!もう!元いた場所に返せなんてもう言えないし……あれでしょ!?どうせ何かやらかして金を失った馬鹿な人たちなんでしょ!?
"ざまあみろそのままどっか行け!"っていっつも追い出してたじゃんか!」
「こいつは頭が良さそうだろ?実際すげー物知りなんだ。
それに冒険者になるメリットもたくさんあるってタダで教えてくれた。悪いやつじゃねーからさ」
「そうやって何回騙されたんだよ姉ちゃんの馬鹿!俺は騙されないからな!えっと……名前は何だ!?」
「ぼ、僕はソロンです……あっちは父のダニエルです。すみません、勝手にお邪魔してしまっていたようで……
でもここに住まわせてください!僕たちも必死なんです!お願いします!」
「うっ……そ、そこまで言われたら断れないじゃんか!卑怯だな!
そっちのダニエルっておじさんがやらかしたんだろ?憎くないのか?お前、元々もっと良い暮らししてたんだろ?」
「……良い暮らしができていたのも父のおかげ。だから父が一度失敗したくらいで憎むなんてないよ。
それに父は元々聡明な人なんだ。だからきっとすぐに立ち上がってくれるはず」
「ソウメイ……?ソウメイって何?」
「あー、えっと、とても頭がいいんだ。たくさんのものを売ってたくさんのお金をやり取りしてたんだ。
だからきっと、立ち直ってくれればまたお家を持った生活だって可能なはずだよ」
「そうなのか!?その時になって俺たちだけ捨てていくなんてよしてくれよ!?俺たちは俺たちの家を貸してやってるんだ!
その時は一緒だからな!な!!」
「もちろん、助けてくれたお礼は絶対にする!恩はちゃんと返せって父さんに教わってるから!」
「よっしゃ!いい拾い物したな姉ちゃん!」
「だろ!?」
ビリーとアテナさんはハイタッチをした。
仲の良い姉と弟らしい。
父さんはこちらのことをぼーっと見ているだけで反応はほとんどない。
……でも大丈夫。きっと僕が父さんのこと立て直させてあげるから!
「なあソロン!早速明日ダンジョンに行こう!こういうのは早いに越したことはねえ!
ダンジョンってどこにあるんだ?どういうところなんだ?」
「落ち着いてアテナさん!
ダンジョンはこの街の近くに2つあるんだ。その2つはいずれも攻略済みのダンジョンだから魔物の数は元々少ないはずだよ」
「攻略済み?攻略ってなんだ?」
「ダンジョンの一番奥にある秘宝を手に入れた人がいるってこと。ダンジョンの魔物はその秘宝の力を使って強い攻撃をしてくるんだ。
その秘宝を手に入れた人は魔物が使っていた力を手に入れることができる。それはスキルとかギフトとかって呼ばれることが多いよ」
「秘宝!すごいお宝の予感……!つまりすごい力が手に入るってことだよな!」
「十数年前に攻略し、秘宝を手に入れた人たちは電気を自在に生み出す力を手に入れたって本に書いてあった。
電気はエネルギーだから莫大なエネルギーを手に入れたに等しいことなんだよ!そのギフトがあれば、ほかのダンジョンの攻略も楽になる!
だからダンジョン攻略者っていうのは特別強い冒険者たちのことなんだ!」
「莫大なエネルギー……それを金に換算できれば………っ!
すげー話だな!ダンジョン攻略!アタシたちもダンジョンを攻略してすごい力を手に入れればそれで一発儲けられるってわけだ!」
アテナさんは興奮しきって拳をブンブン上下に振っている。
もっと話せ!と言わんばかりに目が爛々と輝いていた。
しかし水を刺すようにビリーが口を挟んだ。
「でも、この街にあるダンジョンは攻略済みなんだろ?行って何か良いことでもあるのか?」
「攻略済みダンジョンこそ、初心者や中級者にとっての稼ぎ場なんだよ!ダンジョンは魔力のエネルギーがすごく満ちている場所だから自然と魔石や宝石が生成されたり、魔物もたくさんいる。魔物を倒せば素材が手に入るし大きな魔石も手に入る!魔石や素材はギルドで買い取ってもらえるからすぐにお金になるよ!」
「宝石が手に入るのか!すごいなダンジョン!でも魔物って危ないんだろ?姉ちゃん勝てるの?」
「馬鹿言うなよ!勝てるに決まってる!アタシの魔力量はすごいんだって今日証明されたからな!」
「へえ!姉ちゃん魔力量すごいのか!じゃあそっちの手下は?」
「僕は平均並みだそうです……」
「知識以外は使えないなぁ」
「すみません……」
そんなことより!とアテナが話を切り替える。
バッと僕の方を見て、どっちに行く?と解答を求めてきた。
「群青の洞窟の方がここから近いね。それでも歩いて数時間くらいだけど……
そこで浅い場所で小さな魔石を探したり、どんな場所か散策してみよう!」
「確かあまり奥にいっちゃダメなんだよな。でもなんでダメなんだ?」
「ダンジョンには異質な魔力が満ちている。だから体が慣れないうちに奥まで進もうとすると体調不良を引き起こすんだ。
だからどんな冒険者でも最初は浅い場所で一度体を慣らしてから奥へ進んでいくらしいよ」
それに……と僕は言葉を続けようとしたが、今の僕たちには関係のないことだと気づき、口を閉じた。
「それに……なんだよ?」
「ナンデモナイデス……」
「本当か?」
「はい!もちろん……」
「ふーん……ま、いいけど」
"ダンジョンの奥に長時間居過ぎると、体が変質して魔物になってしまう"
なんて……まだ浅い層を探索する僕たちには必要のない情報だ。
魔物になってしまうと、ダンジョンの外に出られなくなり、いずれ人間性も失われ、完全な魔物となってしまう。
だからダンジョンの奥に潜るときは、避難所と呼ばれる横穴を掘ったり、魔力を通さない布で作られたテントの中に入って、体に蓄積した魔力をある程度放出してから再び挑むのがセオリーだ。
「楽しみだな!ダンジョン!」
「うん!」
「いいなあ姉ちゃん。俺ももうちょっと大きくなったら冒険者やろうかな〜?」
「あと6年後だな!アタシは今18だから24歳になってる頃か〜」
「アテナさん18歳だったんだ!通りで僕より年上だと思ってた!」
「ソロンはいくつなんだ?」
「16になったばかり。ちなみに父のダニエルは38歳だよ」
「うちの一番の大人がまともに口も聞けねえ腑抜けとはなぁ。ま、そのうち良くなることをアタシらも願ってるよ。
稼ぎ頭は多い方がいいからな!」
「本当にありがとう。何もできない父も一緒に仲間に入れてくれたこと、本当に感謝してもしきれないよ」
「気にすんな。困った時は助け合い!そもそもアタシとビリーも血は繋がってない。あろうことかアタシの縄張りに捨てられたガキンチョだったんだ。
……ま、今は立派なアタシの弟だけどな!」
「俺ももっと大きくなって、姉ちゃんをもっと助けられるようになってやる!見返してやるから覚悟しとけよ姉ちゃん!」
「おう!楽しみにしてる!」
夕日が沈み、街が夜の気配に包まれていく。
そんな中でも、彼女達といると、とても明るく暖かな気持ちになれた。
3話目です。
いまのところダニエルは役に立ちません。
妻に出て行かれたショックや破産したショックから立ち直れていません。ビリー君は姉に似て思ったことを素直に言っちゃう系男子。