19話 師匠同士の情けないすれ違い
ソロン
魔物を倒せるようになってきた初心者冒険者。
アテナ
魔物を倒せる初心者冒険者。
ソル
ルナと絶賛すれ違い中の師匠。
「肌の色は緑になってねえな?異様に腹が膨れてたりしてねえな?
よし!出発だ!」
「「おー!!」」
テントを片付け、時計を見ればもう7時。
支度を済ませて再びダンジョンの奥へ進む準備を整えた。
「もう後少しで最奥だ。だがこのルートはあくまで最短ルート。
俺様がこのルートを作れるまで2月以上かかった。このルートを除けば後2ルートだけがダンジョンの最奥へ行ける唯一のルートだ」
「確か10日ここにいると魔物化するんだったよな?10日以内にダンジョンの最奥に行けるルートが3つしかねえのか?」
「ああ。このルートは俺様がヤケクソになってダンジョンの秘宝があると思われる場所に向かってほぼ直線に掘り進めた特殊なルートだ。
だから若干狭いし、オークが出づらい」
「掘り進めた!?ダンジョンの最奥がどこにあるのか分かってたんですか?」
「ああ。オークがどこからやってくるのか。ダンジョン全体の大きさ、深さを計算して炙り出した結果。ここから20m先斜め下に向かって直線上に掘ればダンジョンの最奥だと分かっていた。だがそこに繋がる道が全然見つからなくてな。だから掘った」
「ここの壁とか床とか全部岩ですよ!?」
「ツルハシが何本犠牲になっただろうな……それでも2週間くらいで貫通したぜ。途中オークとの戦闘もあったし、早い方だろ」
なんていうゴリ押し戦法……と戦慄しながら狭い道を進む。
この道掘ったという事実にドン引きしながら壁に手を当てた。ボコボコしているが確かに人工的に掘られた跡だと分かる。
「ほら、ついた。こうしてくるとあっさりしたもんだがな。ここに辿り着くまでの俺様の苦労はそりゃあとんでもなかったんだぜ?
こうしてダンジョン初心者を連れてこれるまでになったのは全部俺様のおかげだからな!」
「ここにダンジョンの秘宝があったのか?ただの広場にしか見えないぜ?」
「ここの中央になんか光ってる赤い球みたいなのが浮かんでたんだよ。
見た瞬間ピンときたぜ。これがこのダンジョンの秘宝だってな」
「秘宝でどんな力を手に入れたんですか?一度も見せてくれないですけど……」
「このダンジョンの秘宝のくせにこのダンジョン内では使えねえ能力なんだ。一旦外に出てから教えてやるよ。
帰り道はもうわかるだろ?駆け足で帰るぞ」
「駆け足でバタバタ走ったりしたらオークが気づいて襲ってくるんじゃ……っ」
「ばーか、オークと戦うのも練習の一つだ。俺様がいるうちに戦闘にはガンガン慣れてもらわねえとな!
ほら行くぞ!」
「おう!行くぞソロン!ちゃんとついてこい!」
「わあ!?2人とも待って!!」
帰り道オークと遭遇したが、僕が注意を惹きつけ、アテナさんがトドメを刺すという戦法で無事倒すことができた。
それとやりたくはなかったが、ソルさんに教えてもらいながら魔物のどこに魔石が埋まっているのかを教わり、死体から魔石を取り出す作業もした。
まだ生暖かく、血が吹き出すその体はさっきまで生きていたという証拠のようにキラキラと輝く魔石がとれた。
拳くらいの大きさのキラキラとしたその魔石は魔物の心臓のようなものらしい。これが体の中に生成されるとダンジョンの外では生きていけなくなるのだとか。
「外だーー!」
「もう真っ暗ですね……丸2日ダンジョンに入ってるなんて初めてだからなんか変な感じだ」
「その変な感じ忘れるなよ。ダンジョンに長く入ってると、ダンジョンの中の魔力に慣れちまう。外に出たくない、外に出るのが怖いと感じるのが魔物化の初期症状だ。外に出たくなくても出ろ。大抵その症状が出てる時に外に出ると体調を大きく崩すが、それでもだ。外の空気に触れさせてちゃんと人間に戻してやれ。じゃなきゃ、魔物化はどんどん進む。
忘れるなよ。ダンジョンは魔物を生み出す場所だ。中にいる生物はみんな魔物になっちまう」
中にいる生物は……ということは、元はあのオークたちはただの動物だったのだろうか?
それとも、元は人だったオークもいたのだろうか?
「腹へった〜!なあ、ソルさん、なんか奢ってくれよ」
「はぁ?なんで俺様が……」
「ルナさんは奢ってくれたぜ」
「よーし!俺様とっておきの店があるんだ!特別にお前らを連れて行ってやる!
いいか?お前らは俺様の弟子だから特別に奢ってやるんだからな!」
「「はーい」」
___________
「って……ここ、前に来たうまいもん出す店じゃねえか!」
「なんだ。ルナもここに来てんのか。にしてはここで会った事ねえな」
慣れた様子で案内してくれたのは、ルナさんと一緒に来たうまいもん出す店だった。
中に入ると、前来た時と同じように元気のいい挨拶が返ってくる。
「あれ?ソルじゃねーか!後ろの2人はなんだ?」
「俺様の弟子だ!ルナのやつもたまに来てるみたいだな。今日はいるのか?」
「ルナさんはうちの常連だよ!だが今日は来てねえみたいだな。そっちのやつらも前に一回見たな。
うちの店、気に入ってくれたかい!?」
「おう!ここの爆盛りデンジャラスにもう一回挑戦してやる!」
「僕は肉丼……お、大盛りで!」
前来た時は普通盛りだったけど、体を大きくして強くなるためには食べることも大事だ。
だから大盛りで頼むことにした。
「ソロンはいつものでいいんだな」
「おう。
……ちなみにルナはいつも何頼むんだ?」
「魚定食だよ。お前そんなことも知らねえの?幼馴染だろ」
「うるせえ!あいつとは今勝負中なんだ!あいつに勝てねえうちは俺様からは会いに行ってやらねえ!」
「勝負中?ルナさんはそんなこと言ってませんでしたけど……」
確か、自分が余計なことを言ってしまって、ソルさんを怒らせてしまったからと言っていたはずだ。
ソルさんの中ではどういうことになっているんだろう?
「ああ?俺様が勝手に勝負ふっかけて逃げてるだけだ。あいつ、自分と付き合うなら自分より強い男がいいなんて言いやがったんだ。
だから俺様はあいつに勝負をふっかけた。あいつに相応しい男にならなきゃ、あいつに出す顔がねえ」
「あー……ここでもすれ違いがあったのか……」
ルナさんはソルさんに嫌われたと言っていた。
だけどそれは全くの逆で、ソルさんはルナさんに認めてもらうために自己研鑽のためルナさんの元を離れてた。
2人とも自ら会おうとしないから誤解は解けないままなんだ。
2人ともお互いのことを思ってるのに、会いたいと思っているのにこんなすれ違いがあるせいで会えない。
なんだか可哀想にも思えてくる全貌だった。
「なあ、この2人完全にすれ違ってるよな?アタシらでなんとかできるんじゃねえの?」
「うん。まずこの2人を引き合わせないと。せめてルナさんにソロンさんはルナさんのことを嫌ってるわけじゃないって伝えた方が良さそうだね」
「なーにこそこそ言い合ってんだ?師匠の前で内緒話なんて失礼だぞ?」
「あはは、ごめんなさい……」
ご飯が運ばれてきて、僕はそのボリュームにちょっと怖け付きながらも頑張って食らいついた。
アテナさんは爆盛りデンジャラスに夢中にかぶりついている。あの量があのお腹に入るんだろうか?はち切れないか不安である。
そしてソルさんの"いつもの"で運ばれてきたのは、まさかの爆盛りデンジャラス。
これにはアテナさんも目を丸くした。
「あんたこれ毎回食べてるのかよ!?」
「おうよ!冒険者は体が資本だ!食って寝て運動して、そうやって俺様のように逞しい体になっていくのさ。
だからお前らも食え!食って体をデカくしろ。力をつけろ!」
「おう!」
「んむ……はい!」
食べてる途中で口にご飯が入ったまま返事を返した。
ソルさんも爆盛りデンジャラスに食らいつき、僕が肉丼の大盛りを食べ終わるちょうどそのタイミングで食べ終えた。
アテナさんは悔しそうにそれを眺めながら残りのチキンライスを頬張る。ちょっと苦しそうだ。
「なあ、お前らつい最近ルナにあったんだってな。なんか言ってたか?」
こんにちは、ななみんです。
更新遅れました!すみません!
言い訳すると、風邪をひいてしまいまして昨日37、8度の熱が出たんですよ。
昼間は平熱なんで多分普通の風だと思うんですが、様子見といったところです。
皆さんも気をつけてください!