18話 魔物同士の縄張り争い
ソロン
大切な人達を守りたい冒険者の少年
アテナ
家族を守りたい冒険者の少女
ソル
大好きな人を守りたい冒険者の青年
「今回はとっておき、俺様が秘宝を手に入れた場所まで連れて行ってやる」
「それってダンジョンの最奥ですよね?時間がかかるんじゃないんですか?」
「なーに、2日もあればいって帰って来れる。そのための食材も持ってきてるし、約束しただろ?俺様がお前らに傷一つ負わせねえって。
だから安心してついてこい」
「ダンジョンに長居しすぎると魔物になっちまうってルナさんが言ってたぞ!ここのダンジョンはどうなんだ?」
「このダンジョンは10日くらい潜ってたら魔物化すると言われてんな。俺様も肌が緑色っぽくなってきた時は慌ててダンジョンを出たぜ。
あの時はひやっとした」
あんな不細工になってたまるか。とソルさんは言い捨てる。
やっぱりダンジョン攻略ともなると、魔物化とのリスクの戦いなんだろうな……
どこにあるかもわからない。来た道を戻れるかもわからない。そんな環境の中、ダンジョンの最奥を目指すなんて正気の沙汰とはいえないだろう。
「お、見えてきた。ほら、こっちきてみろよ。」
ソルさんが小走りで僕たちを誘導する。
僕たちも小走りでついていくと、そこにはぽっかりと開いた空間があった。
群青の洞窟ほどではない。小さな小屋がそのまま一つ入りそうなくらいの小さい空間だ。
「グォオオオオオオッ!」
「ガァアアアアアッ!」
そこではオーク同士の激しい戦闘が繰り広げられていた。
どっちも傷だらけで、今にも倒れてしまいそうだ。
「あれじゃこっちに気づく余裕もねえだろう。あれがオーク同士の縄張り争いだ。
オークは群れない。自分以外の生物は皆敵だと考える。だからああやって同族同士で争いが起きるんだ。」
「群青の洞窟の魚人達は群れて生活してたみたいだから、こんなことなかったです」
「なあ、勝負がつきそうだぜ!」
棍棒同士がぶつかり、激しい衝撃の中。片方のオークが先に膝をついた。
それを見逃さず、もう片方のオークが棍棒を振り上げオークの頭に向かって振り下ろす。
__思わず目を瞑ってしまった。
その後に広がっていた景色はひどく無惨で、肉片が粉々になって辺りに飛び散り、殴られたオークはそのまま地に伏していた。
だが、勝った方のオークも重症で、片膝をついて肩で息をしている。
もう戦える体じゃなさそうだ。
「いくぞ。あいつならお前らだけで倒せるだろ?」
「ああ!いくぞソロン!」
「あ……ちょっと待ってアテナさん!」
「なんだよ!」
「戦いの後、ボロボロになってるのにそこを追い打ちなんて……なんか可哀想じゃない?」
「はぁ?お前はオークをもう一体殺してる。なのにそんなこと言うのか?
戦いはどんな状況でも最後に生き残っていた方が勝ちなんだよ!」
「で、でも……!」
「アテナの言うとおりだ。ソロン。
最後に生き残っていた方が勝者。その言葉通りなんだよ。だからお前も行ってこい!師匠命令だ」
「っ……はい」
満身創痍のオークは僕たちを見つけて、その重い体を持ち上げた。
戦う気のようだ。彼らに逃げるという選択肢はないのだろうか?
「やあああ!」
オークが棍棒を振り上げるより前に、アテナさんがオークに飛びつき、胸をナイフでぐさりと刺す。
それが致命傷になったのか、オークは叫び声と共にその場に倒れ、動かなくなった。
「いいぞアテナ!お前の素早さを生かしたいい戦法だった!」
「だろ!あんな体じゃもう早く動けねえと思ったから先制攻撃できると思ったんだ!
ソロンも見てたか!?アタシもやったぞ!」
「あ……うん、見てた」
「なんだよ!もっと喜んでくれよ!アタシもお前と同じだ!これで一体!
次はどっちがトドメを刺すのか勝負だな!」
「うん……そう、だね」
僕が目指していたものと、何か違うと感じていた。
だから素直に喜べなかった。
__"私の夢は、ダンジョンに住む魔物と交渉と取引で付き合って行くこと。無駄な血を流さず、取引でお互いのためになる交易をする時代を作ること。"
ふと、ルナさんが以前に言っていた言葉が脳裏をよぎった。
ああそうか。僕は今、このオークの流した血を、無駄な血だと思ってしまっていたんだ。
そんなことはない。進むためには必要な犠牲だった。
………だけど、僕らはなんで先に進んでいたんだっけ?
「ソロン!ほら、早くいくぞ!秘宝のあった場所まで後半分くらいだってさ!」
「そうなの?うん!わかった!今行くよ!」
ダンジョンの秘宝
それは、人に魔法という不思議な力を与えてくれる。
人々はダンジョンの秘宝を目指し、未知のダンジョンを探し求める。
「……未知は楽しいものだけど、一方的に奪うなんて……本当にいいのかな?」
ポツリと、僕はそう呟いた。
きっと2人には届いていないだろう。
___________
「今日はここをキャンプ地とする!!」
「おー!」
「本当にここでするんですか?ここ袋小路で逃げ道がないじゃないですか!」
ソルさんが荷物を下ろし、そう宣言したのは縦2mギリギリで横が3〜4mほどの小さな行き止まりの小部屋のような場所。
確かに入り口は僕らでもしゃがまないと入れないくらい小さな穴だったけど……入ってこないという保証はできない。
こんな狭い場所で襲われたら……と考えて身震いがした。
「入り口は狭くてオークじゃ入ってこれねえし、ここに来るまで3体のオークをやっつけた。
しばらく近くにオークはいねえだろ。あいつらも夜行性じゃねえからそろそろ寝る時間だ。だから俺たちも寝る。
いいな?」
「こんな洞窟なのにオークは昼に起きて夜に眠るというリズムがあるんですか!?」
「ああ。まあダンジョンの不思議の一つだな。あいつらはこんな陽の光が関係ない場所でも昼間に起きて夜に寝る。そのリズムを崩さねえ。
まあ、ダンジョン自体が大きな生物説もあるくらいだ。今は気にするこたぁねえ」
ソルさんが持ってきていた持ち物は小さなテントだったようで、それを広げて設置してくれる。
テントの中に入ると、少しひんやりしていて落ち着く空間だった。
「これ高かったんだぜ?魔石が組み込まれててダンジョン内の魔力を遮断する効果があるテントだ。この中にいればダンジョンの魔力に当てられることはない。安心して寝な」
「すげー!アタシたちも買えるかな!?」
「あんな路上暮らしのお前らに買えるわけねえだろ。しばらくは我慢しとけ」
「ちぇっ!」
「それよりほら、今日の戦果だ。受け取っとけ!」
そう言って僕らに投げてきたのは拳代の魔石が3つ。
3つ……そうか、これがオークの魔石!?
「ど、どうやって取り出したんですか?」
「お前らがちょっと話してる間にちょちょちょいっとな。
基本的に体のどこに魔石があるのかはどの魔物も共通してる。だからこのナイフで取り出したってわけだ」
「アタシはちょっと横目で見てたぞ!オークの体に手ェ突っ込むのはちょっとやだな……」
「大体1時間もあればダンジョンが死体を処理して魔石だけが残る。それを拾えばいい。
でも魔物から魔石を取り出す方法は知っといて損はねえと思うぞ」
「うわぁ………でも、そういうことも覚えていかないとなぁ」
魔物とはいえ生物の死体に手を突っ込んで楽しむような趣味は流石にないので、僕もアテナさんもあからさまに嫌な顔をした。
それを見たソルさんはま!最初はそんなもんか!とケラケラ笑っていた。
「とはいえ、お前らの戦闘センスはなかなかに筋がいい!流石俺様の弟子と言わざるを得ない!
だがアテナ、お前はやや突っ込みすぎだ。思い切りがいいのはいいことだが、ひどいカウンターを喰らえば最悪それだけで死だ。
突っ込む前に周囲を確認して、踏み込みすぎないように調整が必要だな」
「えー!いけると思ったからいったのにー!」
「お前の"いける"の勘も大事だが、その勘がまだ間違ってる可能性があるってことだ。ちゃんと頭を使え。
その点ソロンは頭を使って囮になるっていうのはまた度胸の座った作戦だと思ったが、逆だな。お前は敵に突っ込む度胸が足りねえ。
だから先行を取られるんだ」
「う……まあ、確かに……僕自分から戦いに行くのは少し苦手かもしれません……」
「苦手を分かってんならいい。でもナイスアシストだった。後は男らしい度胸を身につけるだけだ。
後は2人ともに共通することだが経験値がまだまだ少ねえ。相手がどんな動きをするのか、自分がどこまでできるのかがまだ全然分かってねえ。
だからオーク相手にそれを練習するぞ」
「そーだな。オークは魚人よりも手強いし、いい練習相手になりそうだ!」
「あ、アテナさんがやる気なら……僕も頑張るよ」
「ソルはアタシに突っ込みすぎだっていうけど、アタシがやばくなってもソロンがいる!だからアタシは思いっきりできるんだ」
「!……そうだったんだ」
「ああ!ソロンならなんとかするだろ?頼りにしてるんだぜこれでも!
ソロンは後ろでアタシの手助け。アタシは前で魔物を倒す。それならソロンは安全でアタシは魔物を倒せる!いい案だろ?」
「でもアテナさんが危ない目に遭うじゃないか!僕は後ろで見てるだけなんてできない!僕も一緒に隣で戦えるようになる!」
「ん〜……でも」
「でもじゃない!僕がアテナさんを守るんだ!僕は男でアテナさんは女の子!
僕が守らなきゃ、立つ瀬がない!アテナさんは僕に住む場所をくれた。一緒に冒険者になってくれた。たくさん助けてくれた。
だから、せめて魔物からは僕が守らなきゃダメなんだ!!」
捲し立てて言ってしまった後に後悔した。
アテナさんの思いなんて二の次の自分中心のことを口にしてしまった。
アテナさん、怒ってるだろうか?とそろりと視線をあげてアテナさんの顔色を伺う。
「っ……お、女の子だからってアタシは弱くないし!アタシがソロンを守るんだ!だからこれでいいの!
分かった!?」
「〜〜わかんない!」
「じゃあ勝負!お互い好きにやればいい!アタシがソロンを守るのかソロンがアタシを守るのか、勝負だ!」
「え?」
「アタシはアタシの戦いをする!だからアタシを守りたければ止めてみろよ!ソロンが強くなってさ!
アタシは止まんない。止まりたくない!だからソロンも止まるな!アタシを守りたければ止まらずちゃんとついてこい!いいな!」
「う、うん……」
むず痒いような、なんとなくきまずい空気の中僕らはテントの中で眠りについた。
そばで見守るソルさんは、まるで遠くを眺めるかのような目で僕らを見ていた。
こんにちは、ななみんです。
なろうの他作品を見て、自分と同じ文字数でめちゃめちゃ評価されている作品がたくさんあることを知り、若干落ち込み気味です。更新頻度を増やして対抗していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。