16話 守る
ソロン
ソルの弟子になった少年。知的好奇心豊富。
アテナ
ソルの弟子になった少女。戦闘意欲豊富。
ソル
2人の弟子を抱えた冒険者。噴煙の火山のダンジョン攻略者。
「よっしゃ来たぜ!ダンジョン!!」
「おう!いい意気込みだ!」
「僕だけついていけてない、このテンション……」
馬車を使って半日程度。
あたりはすっかり夜だが、やってきた噴煙の火山。
高く聳える山の火口からは煙が上がっており、活火山であることが窺える。
もしダンジョンに潜っている間に噴火なんかしたら………と考えると身震いしてしまう。
「ビビるなソロン!この活火山はもう何十年も噴火してない!噴火の頻度は数百年に一回程度だ!
よって俺様達がダンジョンに入っている間に噴火する可能性は限りなくゼロに近い!」
「何十年もってことは……何十年か前に噴火したんですか?」
「古い手記には大体80年前に小規模の噴火があったと記されてたな。まあそんな話はどうでもいい!
今!目の前に!ダンジョンがあるんだぞ!?おい!お前もなんか意気込んでみろ!」
「え!?そんないきなり………だ、ダンジョンだーー!って感じです!」
「よし!その勢いで中に入るぞ!」
ソルさんからもらったヘルメットを被り、火山の下にある洞窟に足を踏み入れる。
群青の洞窟でも感じたあのゾワゾワとした感覚がここでもある。
群青の洞窟と違うのは、気持ちを昂らせるようなふわふわとした感覚と汗が吹き出すような熱気。
まるで真逆の感覚だ。
「スッゲーー!あちぃ!銀の防具なんて着てくるんじゃなかった!」
「そうだよアテナそれ!エレナさんが昔つけてた鎧じゃね?どこで手に入れたんだ?」
「エレナさんって誰だ?これは昔の伝説の女騎士がつけてたすげえ防具だって言われたぞ」
「伝説級の冒険者で現女騎士の方がつけていた防具らしいです」
アテナさんが言ってることが色々と混ざって間違っていたので訂正しつつ伝える。
するとソルさんはほぅ。と顎に手を当ててじっと見つめた。
「その伝説級の冒険者で今は女騎士やってるのがエレナさんって人だ。俺の面倒見てくれた師匠みたいな人だな!」
「そんなすごい人が師匠なんですか!?ルナさんといい、すごいなぁ」
「馬鹿お前、お前らも十分凄い冒険者が師匠じゃねえか。この俺様、ダンジョン攻略者のソル様が師匠なんだから、お前らも凄いんだよ!」
「は、はぁ……」
「それはさておき、確かに俺様とルナはレンマとエレナさんに育てられた孤児だ。だが、俺様はあいつに尽く負けてる。
先に冒険者になったのもあいつだし、一騎打ちで勝てたことねえし、ダンジョン攻略もあいつの方が早かったし、ダンジョンで明かした秘密の数も負けてる。だからこそ、あいつに一つくらい何かで勝てなきゃ、俺様もお前達も拍が付かねえ」
そこでお前ら__と僕たちは肩を掴まれる。
「お前らを一流の冒険者に育ててあいつに見せつけることで、後輩育成に関してはあいつより格上だって見せつけるんだ。
お前らは俺様を師匠と呼べ!そしてルナに思い知らせてやれ!ソル様にはこんなに優秀な弟子がいるんだと!!」
「でも僕らが初めてダンジョンに入った時に同行してくれたのはルナさんですし、魔物を倒せるようになったきっかけをくれたのもルナさんです。
どっちかっていうとルナさんが僕らの最初の師匠って感じなんですけど……これじゃ共同の弟子ってことになりません?」
「シャラァプ!!お前らは冒険者としてひよっこだ!あいつは卵を温めてひよこにしたに過ぎない!!
俺はお前らを立派なドラゴンに育てるんだよ!」
「ひよこはドラゴンにはならないです……」
「お前は強くなりたくねえのか!?」
「ええっと……?」
「アタシは強くなりたい!ソロンやビリー、親父さんだって守れるくらいにずっと強くなって、アタシが大黒柱になるんだ!
もう家族を失わないように、ビリーを泣かせないように!」
アテナさんは琥珀色の瞳をこれでもかと輝かせてソルさんに吠えた。
ソルさんはそうか!とアテナさんの肩を強く叩く。
「任せとけ!俺様が育ててやる!ソロン!お前はどうなんだ!?強くなりたいか!?」
「ぼ、僕は……知らないことを知るのは楽しいし、冒険者は続けたいと思ってるから、強くなりたい……
けど……そんなドラゴンを倒すみたいになれるとは思えなくて……」
「それでいいのかてめえは!女の子がお前を守るって言ってくれてんだぞ!
違う!俺が守るんだ!くらい言えねえのか!」
「!」
怒号に近いくらいに詰められて、僕はハッとした。
そうだ。僕は守られるだけじゃなくて、本当はアテナさんを守りたいと思ってたじゃないか。
アテナさんが強くなるなら、僕だって強くならないと……!
「つ、強くなりたいです!僕だって、アテナさんを守りたい!!」
「よし!よく言った!!
それじゃあお前らはこれから俺様の弟子だ!たっぷり扱いてやるから覚悟しとけ!」
ソルさんは威勢よく吠えた。
だが、次の瞬間にはスッと元のテンションに戻り、僕らに諭すように言葉を続ける。
「とはいえ、ここの魔物は群青の洞窟の魚人どもよりも凶暴でデカくて強い。出会したらまず今のお前らじゃ敵わないだろう。
だから出会したらお前らが前衛で戦い、俺様がサポートしてやる。どんなにダメダメな戦いをしても、トドメはお前らが打つんだ。いいな?」
火山の熱気で噴き出した汗を拭いながら、ソルさんは言った。
その言葉を信じ、僕らは同時にうなづく。
「本格的にダンジョンを攻めるのは明日だ。今日はそのための慣らしだってことを忘れるな。
お前らも感じてるだろ?ここのダンジョンは闘争心を駆り立てるような魔力に満ちている。浮き足だって奥まで行きすぎるんじゃねえぞ」
「おう!でもぱっと見だけでも壁にキラキラしたのがたくさん埋まってるな!
これ全部魔石の結晶だろ?すげぇ!」
「粉塵の火山の魔石は細いのならそこらじゅうにある。ここのダンジョンだけ攻めてても食いっぱぐれることはねえ。
だが、冒険者ってのは未知を探求し、力を求める生き物だ。新しい場所はワクワクしないか?もっと見たい。もっと知りたいって気持ちが冒険者の原動力よ!そのための力が、知恵が、経験が必要となってくる。俺様はその全てをお前らに与えてやる!」
ソルさんはフンスと威張った。
それにしてもこの洞窟は小さな光源だけでも魔石が光を乱反射してキラキラと明るく輝く。
僕たちも見やすくていいけど、敵に見つかりやすくなるというリスクもあるな……
「あ……この魔石表面だけだ。ほらソロン見てみろよ。表面に米粒くらいの魔石はついてるけど、その下はただの岩だぜ」
「本当だ。たくさんあるように見えて表面だけ魔石がこびりついてるって感じなんですね」
「この辺は初心者冒険者が頻繁に出入りしてこまめに魔石を取っていくからな。大した大きさの魔石はねえのさ。
でも奥に行くとなかなかでかい魔石もお目にかかれるぜ。ダンジョンの最奥の方で拳くらいの大きさの魔石が自然に転がってるのを見たことがある。」
「拳くらいの大きさの魔石ってことは魚人を倒した時に取れる魔石よりも大きいのが自然に転がってるのか!?すげえな!」
「だろ!?群青の洞窟よりこっちの方が断然魅力的なんだよ〜!お前らにも余すことなくここの魅力を伝えてやるからな!」
そのあとはダンジョンの奥ではあんなことがあるだとか、魔物の倒し方やソルさん自身の武勇伝を聞いて、初日のダンジョン訪問は幕を閉じた。
しかしこれでこのダンジョンの魔力に体が馴染んだので、明日から本格的にダンジョン攻略ができるということになる。
「楽しみだな。ソロン」
「うん!ソルさんもいい人そうでよかった。でもあんな素直そうな人なのにルナさん相手になると空回ってばかりなんだよね」
「素直っていうより多分バカなんだろうぜ!聞いてもない話を一方的に聞かせてきたり、ほとんど自分の自慢話ばっかりだったじゃねえか。
アタシは最後の方はもううんざりしてた」
「あはは……でもきっと頼りになる人だよ。明日はソルさんの言うことをきちんと聞いて、無事に帰ってくることを目標にしよう」
「それじゃあいつが満足しないんじゃないか?ルナさんにすげーライバル意識持ってるから、絶対アタシ達に無茶させるぜ?」
「それもそうかも。そこはちゃんとNO!と言えるようにしよう」
「危険すぎたらそうするか。でもアタシはできると思ったらやるぞ。アタシは早く強くなりたいからな」
家(路上)に戻る帰り道で2人そんな話をする。
ソルさんは地元の酒場に戻ると言っていた。多分お酒を飲むんだろう。明日の朝に集合予定だが、ちゃんと間に合うんだろうか?
「僕はアテナさんに守ってもらうことが多いけど……でもきっといつか、アテナさんを守れるくらい強くなってみせるから」
「アタシだって負けねえよ?アタシがソロンを守りたいんだからな!」
「まるで競争ですね。勝てるかなぁ……」
「ふふん。きっとソロンがアタシに勝てる日なんてやってこない!アタシの方がやる気もあるし強いから」
「僕だって諦めないよ」
そんなくすぐったい会話も交え、僕らは家へと帰った。
こんにちは、ななみんです。
もうちょい投稿頻度を上げたいと思いつつそれができずにもやついてます。
ほぼ壁打ちのつもりで書いてますが、評価していただけると励みになります。
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