12話 魔物の力
ソロン
冒険者になった少年。知的好奇心が高め
アテナ
冒険者になった少女。戦闘意欲が高め
ルナ
群青の洞窟ダンジョン攻略者。魔物との交渉意欲高め
ティナ
人魚の少女。声の戦闘能力高め
それから何度も、群青の洞窟に潜った。
油断なく、それでいて気楽に行けるくらいには僕たちは成長できたと思う。
「やあああ!」
ぶしゅっ
ばたっ
「よし!よくやった!当初の目標達成じゃねーか!」
僕1人でも、魚人の魔物を倒すことができるようになった。
これは大きな進歩だった。最初は魔物を見るだけでビクビクしていた僕が、成長したもんだと自分でも感じる。
アテナさんに至っては、複数の魚人が現れた時だって、対応できるくらい成長していた。
「これなら噴煙の火山のダンジョンにも行けそうだな!」
「うん!ここで稼いでいくのもありだけど、でもやっぱり、次のダンジョンにも行ってみたいよね!」
何度も潜り、何度も魔物を倒したことで魔石も溜まった。
溜まった魔石は換金屋で換金してもらった。父を連れて行くと、正当な価格で取引してくれたので、僕たちは家なしとは思えないほど綺麗な身なりをして、お腹いっぱいご飯を食べられている。
「あ、歌が聞こえる!ティナも来てるみたいだよ」
「ちょっと顔出しに行ってくるか。あいつにも随分世話になったからな」
いつもの通りに群青の洞窟の大きな空洞から伸びる横穴。
その奥に行くと、ティナが水面から顔を出してこちらに手を振っていた。
しかし、今日は先客がいたようで__
「ルナさん!お久しぶりです!」
「久しぶり。ティナから聞いたよ。色々取引してるんだって?」
「えへへ……はい!おかげさまで美味しいご飯や綺麗な洋服を買うお金にできています」
「見てくれよ!新しいナイフも買ったんだ!大きくて強そうなやつ!」
「よかった。ティナも新しい友達ができて嬉しそうだし、私も魔物と取引ができる冒険者が増えることはとても嬉しいよ」
今日ティナに持ってきたのは、花柄のハンカチだ。
ティナは海や水に関係する場所でしか生息できない人魚の魔物だから、花というのは珍しいんじゃないかと思って花柄にした。
ハンカチなら多少の耐久性もあるし、人魚は知性が高い魔物だから道具として僕らと同じように使ってくれるんじゃないかと思って持ってきた。
「ティナ、今日持ってきたのはこれ!花柄のハンカチだ!
お前、花畑とか見たことないだろ?花畑には連れていってやれないけど、これが地上に生えてる花だ!」
「僕とアテナさんで選んだんです。気に入ってくれると嬉しいんですけど」
ティナは差し出されたハンカチを手に取ると、キラキラした目で広げて見て、嬉しそうに頬擦りする。
そして一旦水中に潜ると、手のひらいっぱいの真珠や珊瑚のかけらを持ってきてくれた。
「やった!お眼鏡にあったみたいだぜ!」
「相当嬉しかったんですね!この前スプーンとフォークを持ってきた時なんて、真珠4粒くらいだったのに!」
スプーンとフォークは意外と海などに捨てられていることも多いらしく、錆びた物をわざわざ持ってきて見せてくれた。
持ってるけど、新しいのは嬉しいから真珠4つね!と言わんばかりにコロコロっと僕の手の上に真珠を乗せてくれたのを覚えている。
「真珠は人魚の中でも装飾品として扱われてるんだ。でも手軽に手に入る物だから地上ほど高値でやり取りはされてないみたいだよ」
「人魚間でも取引とかあるんですか?」
「私はあると思ってる。実際に見たことがあるわけじゃないからわからないけどね」
だって、人魚は人間と同じくらいの知能を持つ生き物だから。とルナさんはティナの頭を撫でた。
ティナも嬉しそうにしている。
「人魚達はもちろんだけど、同じ魔物同士の間には共通の言語があると私は予測している。
知能のない魚人だって口をパクパクさせているだけに見えるけど、本当は会話をしている可能性もあるんだ。
人間がそれを解析して、翻訳できれば魔物との会話だって成立することがあるかもしれない」
「すごいですね!魔物と会話ができるってことはティナとも会話が成立するかもしれないってことですよね!」
夢のある話だ。
魔物と会話ができるようになれば、出会い頭に戦闘!なんてことにならなくなるかもしれない。
会話の余地があれば、交渉の余地ができる。
交渉ができることはお互いのメリットになるはずだ。
「ふんっ……そんなことできるわけねーだろ。ティナだって結構な付き合いになるけど、いまだに何言ってるかぜんっぜんわかんねえし」
「__?」
名前がティナであること以外、彼女の言葉は分からなかった。
キュルキュル。クルクルと人が出せない特殊な声帯で言葉を発しているのだ。
それが言語であることは僕たちもなんとなく察していたが、音の違いすら分からない。
「……まあ、そうなんだよね。結構難しいっていうのが現状だ。でも魔物と友好的に接して、言葉がわからなくても取引できることは君たちもティナとの取引で分かってるはずだよ。そういう魔物は少数だけど各所に存在する。実際私も他の魔物とも取引してるから」
「他の魔物!?どんな魔物ですか!?」
「妖精の森に住むエルフとか。天岩山に住む天狗とか。どっちもまだ攻略されてないダンジョンだけど、どっちも魔物の知能が高いんだ。
だから身振り手振りで攻撃する意図はないと伝えると、取引に応じてくれたよ」
「すごい!ティナ以外でも取引ができるのであれば、ルナさんの夢の実現も近づいてきますね!」
「うん。私の夢は、ダンジョンに住む魔物と交渉と取引で付き合って行くこと。無駄な血を流さず、取引でお互いのためになる交易をする時代を作ること。………まあ、なかなか難しいんだけどね。いつかそんな時代がやってくればと、願わずにはいられないんだ」
ルナさんがそう語った直後、僕らのいる横穴の入り口に魚人の大群が現れる。
魚人の大群が襲ってくるなんて、僕ら2人でダンジョンに潜るときは一度もなかった。
やっぱり、ルナさんがダンジョンを刺激しているのか!?
「私が__って、ティナ?ティナが倒してくれるの?
………わかった。2人とも、強く耳塞いで!」
耳の中に指を突っ込んで完全密封する。
するとそれでも鼓膜を破ってきそうな高音の爆音が衝撃波となって魔物達に直撃した。
魔物達は目や口から血を流し、その場に倒れていった。
「……びっくりした……今の声……ティナがやったの?」
「__♪」
「改めて人魚って強い魔物なんだな……敵に回したくねえ」
「ティナはこれでもまだ大人の人魚じゃないんだよ。君たちと同じくらいって前言ったでしょ?
大人のハミングはこれ以上だよ。一度聞いたことあるけど、やばかったね……」
心臓止まるかと思ったし、鼓膜がおかしくなったから一時撤退したんだ。とルナさんは陽気に語った。
「そこに倒れてる魔物達の魔石は君たちの手柄でいいよ。私は間に合ってるから」
__と、カバンの中にある大量の魔石を見せてくれた。
本当にいらないみたいなので、僕らがもらうことにしよう。
「私はそろそろ行くね。これ以上ダンジョンを刺激するわけにもいかないし」
「はい!僕らももうちょっと散策してから帰ろうと思います!」
ルナさんは荷物を背負い直し、僕らに背を向けた。
しかし、一二歩歩いたところで、思い出したかのように僕らに振り返った。
「あ、そうそう。噴煙の火山のことなんだけど……近いうちに行く予定ある?」
「はい!そろそろ僕らも噴煙の火山にチャレンジしてもいい頃合いだと思うので!」
「あそこ、今ソルっていう冒険者がいるから、話しかけてみるといいよ。
やっぱりダンジョンに最初に潜るときは先輩についていったほうが良いと思うし、ソルは君たちみたいなやる気のある冒険者大好きだから。
私からも話通しておくから、よかったら付き合ってあげて」
「ソルさんっていう冒険者さんですか?」
「ソルは赤毛だからすぐわかると思う。年は私と同じで、前回見たときは髭ははやしてなかったかな?
自分のことを俺様とか言っちゃうやつだから、合わせてあげて」
「詳しいんだな。そのソルって冒険者のこと。もしかして知り合いか?」
ルナさんは少し視線を下げて、"家族なんだ"と呟いた。
「家族?」
「私にレンマって師匠がいるって話、前にもしたよね?私とソルはレンマ師匠に育てられたんだ。
だから兄妹みたいな感じ」
「へえ〜!じゃああんたも両親いねえのか?」
「昔のことはあんまり覚えてないんだけど……私とソルはどうにもダンジョンで発見された子供だったらしくてさ。
身元不明なの。だからレンマが引き取って育ててくれなかったら、今頃どうなっていたことか……」
「じゃあソルさんとは仲良しなんですね。でもなんで別々で活動を?」
「昔は一緒に活動してたんだけど………私が余計なことをしちゃってさ。それで嫌われて別々で行動するようになったの。
本当は昔みたいに仲良くしたいんだけど……私、白い化け物なんて呼ばれるようになっちゃったし……」
笑みを作りながら話しているが、今にも泣き出してしまいそうな声色だった。
それほどソルさんとの別れは、ルナさんにとって悲しい出来事だったんだろう。
「ごめんね、変な話しちゃって……直接会うのは無理だけど、連絡は取り合えるから私から伝えておくよ。
ソルのこと、よろしくね」
「わかりました!ソルさんに会ったら、ルナさんが仲直りしたいと思ってるってことも伝えておきます!」
そういうとルナさんは照れたような顔をして笑った。
「ありがとう。そうしてくれるととても嬉しい。
__それじゃあ、またどこかで会おうね!」
「おう!それまでルナさんもどっかでくたばったりするなよ!
ソルってやつにはアタシからも言っておいてやるからよ!」
「ルナさん、またどこかで!」
こんにちは、ななみんです。
今旅行先から投稿しています。スキーを楽しんだんですが、後日の筋肉痛が怖いです。