合格発表
※本作品は、日本航空123便墜落事故を元にしたファクション作品です。登場人物の名前は全て仮名であり、実際の人物にあった出来事とは異なるストーリーで構成しています。
望夢と詩音が、蒼彩大学への受験勉強に取り組んでいくのだが、その結果はどうなってしまうのか。
そこには、あの時のパイロット達と、望夢の人生を繋ぎ合わせるような、感動の結果が待っていた。
そして受験まで、一カ月を切ると「最後だから、自分の出せる力を二人で出し切ろう」と望夢が、詩音を激励する。
望夢にとって、受験に挑戦できるのは、これで最後のチャンスだと思っていたので、最後まで諦めるなという言葉の、その最後を目の前にした時、そこまで諦めずに来れた自分がいる事に気が付く事ができた。
自分の責任で操縦している飛行機が、墜落すれば最後であり、チャンスは何度でもなんて無いんだという点でも、あの時の父さんと同じような気持ちで戦っているような気がして「気合を入れろ!」というあの時の父さんの言葉が、この時の二人にとって、ふさわしい言葉であるように思えた。
この時だけはと思い、二人とも懸命に、最後の力を振り絞っていく。
そして望夢は、報われるよう、神に祈るのはもうやめた。
なぜなら、あの事故で神に祈っても助からなかった人がいるのに、夢を追っている自分が、神に祈って報われたら、それは不公平な話ではないか。
だから神に祈るのではなく、自らの力で未来を切り開いていくのだと、己に誓ったのであった。
そんな日々を乗り越え、いよいよ受験本番の日がくる。
すると望夢は「いよいよだね。一緒に未来を掴む時だ。どうか、最後まで諦めなかった僕等だからこそ、叶えられる願いがあると、そう信じてほしい。どうか、絶対合格すると、一緒に信じよう」と詩音を励ました。
すると詩音も「私も信じるよ。そして合格したら、お祝いにまたディズニーランドに行こうね!」と言ってくれた。
すると望夢が、夢を追う事についての、自身の考えを語り始める。
「僕等が夢を追っていられる事に感謝しよう。事故や災害で、自分よりも若くして亡くなる方もいる中で、僕等がこうやって夢を追っていられるのは、幸せな事なんだ。僕は元々、夢を持っている事は不幸な事だと思っていた。なぜなら夢や憧れを実現できる人はほんの一部の人だから。だけど、夢を持ったまま亡くなった人の事を思うと、自分が生きて夢を追っていられる事は幸せな事だと思うし、山登りをするのは、山に登る事が楽しいからであって、頂上に登った時の喜びを得るためじゃない。努力して幸福を手に入れるんじゃなく、努力する過程の中に幸福を見出すんだ」
その考えに対し詩音は「確かに、結果が全てじゃないって思えれば、気持が楽になるかも。望夢と夢を追っていて、少しずつ、夢を追う事の素晴らしさが見えてきたような気がするよ」と言ってくれた。
そして試験が始まると、二人とも懸命に問題を解いていく。
そして自分達ができる全ての事をやり尽くし、その日の試験は終わった。
そしてこの時の望夢には自信があった。
次こそは合格できると思う。
そんな事を周りの応援してくれている人に対して語っていたが、詩音は、あまり問題が解けなかったと語っており、少し自信がない感じだった。
すると望夢が「もし合格しても、そうじゃなかったとしても、僕は詩音の味方だから、出会えて良かったと思っているから、どうか最後まで上手くいくと信じよう。詩音があの事故を生き延びてきたのは、絶対に間違いじゃなかった。僕等が出会えたのがその証だから」と、前向きな言葉を掛けた。
望夢の前向きな言葉に詩音は、少し不安が解けた様子で「ありがとう。私、望夢のお陰でここまで来れたから、沢山助けられたから。望夢と一緒にこんな経験ができて、私は幸せ者だよ。私があの事故を生き延びて来れて良かったと思えたのは、望夢のお陰でもあるんだよ」と言ってくれた。
そして合格発表の日がきた。
望夢と詩音は、お互いの番号を伝え、今度こそ、今度こそという思いで、二人は合格発表の現場へと向かう。
現場に到着しても望夢は、詩音に笑顔で声を掛け「大丈夫大丈夫」と不安そうな詩音を落ち着かせていた。
桜が降る道を、二人手を繋いで歩き、いよいよその時がくる。
覚悟を決め、恐る恐る合格発表の掲示板を見る。
するとそこには二人の番号が書いてあり、二人とも合格だった。
その瞬間、できる事をやり尽くしたけどだめだった。から、できる事をやり尽くしたから報われた。へと変わり、美羽家と勝山家はその時、これまでに見た事のない光を感じる事ができた。みんな大喜びだった。
失敗を経験せずに成功するより、失敗を経験して成功した方が、その喜びが大きくなるのだ。
もう、いつかなんて言わせない。海のように深い絶望から、空のように高い希望を掴み取り、確かに報われた今がある事を実感できた。
だから、自分が感じてきた理不尽は、あの飛行機の中に乗っている人達の事を思えば、幸せな事だったし、もうだめだと感じた事は、あの飛行機が墜落する瞬間の「もーだめだ!」という父さんの言葉に比べたら、本当は駄目なんかじゃなかったと、その時望夢は思った。
だけど望夢は、少し寂しかった。
たとえ、もうだめだと思っても、あの時の父さんと同じような気持ちで、もっと戦っていたかったのだ。
望夢の心の中には、大きな喜びの奥底に、少しの寂しさがあったのだ。
そして望夢が家に戻ると、望愛は「父さんは、最後まで投げ出さなかった事で、二次被害も出す事なく、4人の生存者を出す事ができた。そしてお兄ちゃんは、あの時、蒼彩高校に進学できないと思っていても、最後まで投げ出さなかった事で、その後も勉強を継続する事ができ、合格を掴み取る事ができた。そして詩音さんを救う事にも成功した。もう無理だと分かっていても、そこで諦めずに最後まで力を尽くせば、その後の人生が変わる事だってあるんだ。だから父さんとお兄ちゃんは、本物の親子だよ」と望夢に伝えた。
その言葉に望夢は「ありがとう、ありがとう、みんなありがとう」と言い、嬉しくて、嬉しくて、生まれて初めて、嬉しくて涙が止まらなくなった。
あの時、全てが崩されたと思った過去は、決して望夢の事を裏切る事はなかった。
自分が感じている幸せは、誰かが過去に、自らを犠牲にして願った未来であり、幸せとは、軽視されすぎている義務なのだ。その想いは、事故の記憶と共に、受け継がれていく事であろう。
そしてあの事故の後、123便の機体の状況を再現したシミュレーターも開発されたそうだが、あれほど長く飛ばし続けられたパイロットはおらず、たとえ着水しても、生還できる確率はほとんどないと結論づけられ、そのシミュレーション結果により、最後まで最善を尽くしてくれた3人のパイロットには、民間航空に関係する賞の中で最高位に位置するポラリス賞が授与された。
読んで頂き、本当にありがとうございます。
520人の命と、4人の生存者、そして遺族の方々と、関係者の方々の犠牲や尽力があった事を元に、こちらの【ラストメッセージ】を届ける事ができたという事を忘れないで下さい。
どうかよろしくお願い致します。