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堕落

※本作品は、日本航空123便墜落事故を元にしたファクション作品です。登場人物の名前は全て仮名であり、実際の人物にあった出来事とは異なるストーリーで構成しています。


美羽家の望夢は、受験に失敗した事と、友達を失ったショックで、堕落した生活を送ってしまう。

そんな望夢を心配した母親が、気分転換にディズニーランドに行こうという提案をする。

あまり気が進まなかった望夢だったが、その場所で望夢は、大きな感動を得る事になる。

 そして高校生になると望夢は、精神状態を回復させるため、通信制の高校に通う事になった。


 それと同時に、友達の信之介が、父親の仕事の都合で引っ越す事になり、それを伝える電話が美羽家の元に入った。


母親から電話を代わり、望夢が信之介からの報告を受け取るのだが、受験に失敗した直後の報告であったため、望夢の事を更に追い詰める報告だった。


信之介はその電話で「二週間後に福岡の方まで引っ越すから、もう会えないかもしれない」と望夢に伝えた。


望夢はその言葉に悲しみをぐっと抑え「分かった。じゃあ当日になったら、見送りにそっちの家に行くよ」と信之介に伝え、その電話は終わった。


電話が終わると望夢は、酷く落ち込んだ様子でベッドに入り、信之介の前で流す事のなかった涙を、一人で流していた。


 そして二週間くらいが経った頃、信之介の家の前に、クラスメイトが集まり、これから信之介を見送る準備をしていた。


その時望夢の頭の中では、あの時玄関先で、父さんを見送った事がフラッシュバックしており、もう二度と帰らない人を見送るような気がして、信之介の事を、笑顔で見送る事なんてできなかった。


他のクラスメイトが「今までありがとう」といった言葉を伝える中、望夢が代表して花束を信之介に渡すのだが、その時に望夢の頭の中にとっさに浮かんだ言葉「これから何があっても、決して諦めないで戦い抜いてほしい。たとえ諦めそうになっても、自分の努力を自分で裏切るな」という、あの時父さんが、望夢にかけてくれた言葉を信之介に掛け、花束を渡した。


信之介は花束を受け取り、望夢の肩に片手を乗せ「おう」と一言だけ望夢に伝え、車に乗った。


すると信之介は、車の窓を開け「望夢、その言葉、これから心に刻んでいくよ。ありがとう」と真剣な眼差しで望夢に伝えた事を最後に、車は発車し、信之介の事をみんなで見送った。


 そしてその後、望夢は受験に失敗したショックと、友達を失った事で、一人ぼっちになり、部屋に引き籠るようになった。


ご飯も、家族で食べる事は少なくなったので、部屋に前に、母さんと望愛が作ったおむすびが置いてあった事があったのだが、涙の味で、そのおむすびがさらに美味しく感じた。


学校には時々行くようにしていたが、周りに誰も知っている生徒がいなかったので、あまり馴染めず、望夢が期待していた青春は、ことごとく打ち砕かれてしまった。


テレビでは、受験に合格して喜んでいる家族の姿や、学校生活を楽しんでいる人の姿が流れていて、望夢にとっては、あまりに眩しくて、羨ましくて、屈辱的だった。


自殺した人のニュースが流れても、望夢はその事に同情できなかった。

なぜなら、その人にとっては、死ぬ事よりも、この世界で生き続ける事の方が残酷な事なのかもしれないと思ったからだ。


母さんが言っていた通り、単に駄目だったのと、自分にできる事をやり尽くして駄目だったのでは違う。

だから、最後の希望が無くなるまで、手を尽くした上での結果であれば、自殺はむしろ、最後まで諦めずに手を尽くした上で、命を奪われた結果であるという考えが望夢の頭の中にはあった。


そして生きたかった人が命を奪われるだけではなく、自殺によっても人は命を奪われる。

その自殺によって奪われた命は、あの時の事故の救助隊のように、周りが懸命に助けようと尽力すれば、救われた命もあったのではないか。


死にたい人が生きていて、これからの人生に希望を持った、生きたかった人が、あの事故によって亡くなった。


僕が死のうが、大切な人を失おうが、世界は何食わぬ顔で回っていく。

この感情は、あの事故の遺族の方々と同じような気持ちであり、この世界は、分かりやすいほど非情な世界だった。


人よりも頑張っていれば、報われると思っていた。幸せになれると思っていた。

しかしそこに待っていたのは、それとは真逆の最悪の結果だった。


雨で濁った川のように、日々心を叩く雨によって、望夢の心は濁れていった。


ただ、母さんと望愛とは別れなくない。だから死にたいのではなく、もし人生がやり直せるとしたら、もう一度母さんのお腹の中に戻りたいのだ。


悔しい、悲しい、寂しいといった感情が頭に浮かぶ。


学校に行っても、あいつは落ちこぼれだと、馬鹿にされているような気がして、陰口を言われているような気がして、その頃の望夢は、世界の全てが怖かった。


ただそんな理不尽も、自分にとっては、まだ幸せな事のように思えた。

なぜなら、あの操縦が効かない操縦桿を握らされてるパイロット達の事や、これからの人生に希望を持っていた人達の人生が理不尽に奪われた事と比べたら、自分の理不尽なんて、まだ幸せな事であるかのように思えたからだ。


だからそんな中でも、望夢の心がナイフを握りしめる事はなかった。


勉強と、病気の治療の際にやっていた、朝散歩や運動も続けている。

これまでにやってきた事をやめてしまうのは、どうも気持ちが優れなかったのだ。


その努力の甲斐もあってか、体調も良くて、気分もそれほど落ち込む事は無かった。


ただそれ以外の時は、部屋に引き籠るような生活が、1年以上も続いていたのだ。


この時望夢は、積み上げた過去が全て崩されていくかのような感覚の中で生きていた。


 そんな望夢の精神状態を復活させるにはどうすれば良いかを、母さんは望愛と話し合う事にしたのだが、望愛はそれに対し「いつもお兄ちゃんの部屋の前に置いているご飯に、お兄ちゃんの元気が出るようなメッセージを込めてみたらどうかな」と言ってきた。


母さんが「それはどういう事?」と問いかけると、望愛は「私に良い考えがある」と言い、その日の晩御飯はオムライスにする事にした。


 そして完成すると、望愛がオムライスにケチャップでなにやら文字を書き、そのオムライスを望夢の部屋の前に置いた。


ドアをノックし「今日の晩御飯置いとくね」と望愛が伝え、その場を去ると、少し時間が経ってから望夢は部屋から出てきた。


するとそこには、ケチャップで「きっと大丈夫」と書かれたオムライスが置いてあり、望夢が心が温かくなった。


部屋の机の上にそのオムライスを置き、スプーンで少しずつ崩しながら食べていくのだが、それは本当に美味かった。


そして、その心温まる言葉を現実化するため、大丈夫ではない今の現状を何とか打開しなければという気持ちになったのだ。


 そして母さんからもアイデアを出し、気分転換に家族三人で、ディズニーランドに「どーんと行こうや!」と言い出したのだ。


望愛は、この事に乗り気だったが、望夢は、あまり気が進まなかった。

それでも、青春を楽しんでいる人達の姿を見て、自分も楽しまないとという気持ちから、行く事にした。


 当日の天気は晴れで、現場には車で向かう事にしたのだが、三人でドライブをするのは久しぶりだったので、みんな新鮮な気持ちだった。


 そして到着すると、そこには現実の悲しみとか、苦しい事なんて、全て忘れさせてくれるような、夢の世界が広がっていた。


しかし、ここへ来た帰りにあの飛行機に乗って、最期を迎えた人もいるんだ。そう思うと、胸が締め付けられ、その事だけは望夢にとって、忘れてはいけない事だった。


いろんなキャラクターや、面白い格好をした人が沢山いて、小さい子供から、大人まで、沢山の人で賑わっている。


いろんな世界観が楽しめる乗り物や、望夢にとって、初めてのジェットコースターにも乗ってみたが、あれは怖かった。

望愛だけは楽しそうな様子だったが、小さな子供でも乗れるようなジェットコースターでもこんなに怖いのに、あの飛行機に乗っていた人はどんな思いだったのだろうかと考えると、また心が痛くなった。


同じ乗り物でも、楽しいと感じたり、怖いと感じたりする人がいて、人は皆違うという事だけは、皆同じなのだ。


そして売っている食べ物やグッズも、ユニークで可愛いものばかりだ。

望夢は、ショップで棒付きの飴を購入した。


 そしてパーク内のレストランでお昼ご飯を食べ、いろんな乗り物に乗り、思いっきり楽しんだ。


 すると乗り物に並んでいる時だった。望夢が買ったのと同じ、棒付きの飴を地面に落として割ってしまい、泣いている子供を見つけたのだ。


すると望夢は、迷わず「自分の飴と交換してあげるよ」と言って、自分の飴を差し出したのだ。


望夢は、苦しい時も、楽しい時も、優しい人だった。


その子の親御さんからは「本当にありがとうございます」と感謝された。


しかしこの時、人間としての本当の強さは優しさであるが、優しさで人に勝つ事はできないんだという思考が望夢の頭の中に思い浮かんだ。


望愛が望夢の姿を見て「優しいのね」と声を掛けると、望夢が、新たな人生観を語り始める。


「やっぱり、苦しい時こそ、他人に優しくする事を忘れないようにしないとね。人間って苦しい時に、どうしても他人に対して冷たくしてしまったり、攻撃的になってしまったりするものだけど、そんな時こそ、人に優しくしていれば、必ず分かち合える仲間が見つかる。ほぼ確実に報われる努力とは、他人のために尽くした努力であると、僕は信じてる。だから苦しい時にこそ、人に親切に。受験に失敗した時は、感情任せに怒号を浴びせたりして悪かったよ」


その言葉を聞いていた母親は「確かに、苦しい時にこそ、人に親切にできたら良いよね!あの時の事は、普段見せない望夢の姿に、私もびっくりしたけど、そんな事今思い出さなくて良いのよ!さあ、まだまだ時間はあるから、もっと沢山遊びましょ!」と言って、また三人は、ディズニーランドを遊びつくすのであった。


 そして夜になり、ナイトパレードが始まった。音楽に合わせて、いろんなキャラクターや、キラキラした乗り物が、次々とやって来るのを目の前に、これまで真っ暗だった自分の心もキラキラしているような気がして、涙が溢れた。


最初は気が進まなくても、覗いてみると最高の世界が広がっている事もあるのだと望夢は思った。


自分の悲しみや、苦しみを、全て受け入れてくれて、慰めてくれるような、最高の夢の世界だった。


 時間はあっという間に過ぎ、もう帰る時間だ。また誰かと来たい。そう思った望夢は、明日からの学校や、勉強の事も、頑張って行こうと思えたのだ。

読んで頂き、本当にありがとうございます。

520人の命と、4人の生存者、そして遺族の方々と、関係者の方々の犠牲や尽力があった事を元に、こちらの【ラストメッセージ】を届ける事ができたという事を忘れないで下さい。

どうかよろしくお願い致します。

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