表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

生死を賭けた戦い

※本作品は、日本航空123便墜落事故を元にしたファクション作品です。登場人物の名前は全て仮名であり、実際の人物にあった出来事とは異なるストーリーで構成しています。


激しく揺れる機体の中で、生き残るために戦ってきた乗客乗員だったが、墜落後の生存者は、救助隊が駆けつけるまでに、更なる生死を掛けた戦いが始まる事となる。しかし、誰もが懸命に生きようとする中、一人の男だけは、訳が違った。

 その直後、123便が管制塔のレーダーから消えた事をメディアでの速報で報じられる事となったが、そのニュースが飛び込んできたとき、123便に自分の息子である幸大が乗っていると知った泰地家の母親は、パニック状態に陥っていた。


航空会社からの電話でも、その事が伝えられ、群馬県の小中学校が待機所になっているので、そこまで来て下さいと伝えられた。


自分の子供が乗った飛行機が墜落したということが、信じられない状態になっていたが、母親は、幸大の服や食べ物、持ち物を全て鞄に詰め、ゆうちゃんと車で待機所へと向かう。


もし、幸大が生きているのなら、宇宙の彼方にでも迎えに行ってあげたい気持ちだった。


「ママが今助けに行くからね。きっと幸大は生きてる」


幸大の妹であるゆうちゃんには「お兄ちゃんを迎えに行くよ」とだけ伝えた。


まだ6歳であるゆうちゃんに、ショックを与えたくなかったのだ。


しかし、墜落現場がまだ特定されていないため、幸大を迎えに行く事ができない。

そのため幸大の母親は、いち早く現場が特定される事を待機所でじっと待つしかなかったのだ。


 一方でその頃、この事故の生存者達は、ここから更なる生死をかけた戦いが始まる事となる。


 気を失っていた勝山家の詩音は、おばあちゃんのぬいぐるみを抱きしめたまま、全身打撲を負い、全身の激しい痛みと共に目が覚めた。


周りは薄暗く、星になった123便の乗員乗客が涙を流すように、雨が降っている。


壊れた機械のような異臭が漂っており、ここがどこかも分からない。

すぐ隣に母親がいた事が分かったが、呼び掛けても意識がない様子で、返事がなかった。


 一刻も早い救助が必要だったが、その頃本部では、墜落現場を特定するのが困難な状況に陥っていた。

墜落したのが、あまりに山奥だった事と、すでに日が落ちた暗闇の中であったため、墜落現場を特定する事ができない状況にあったのだ。


群馬県と長野県と埼玉県の3県をまたぐ山奥へと、自衛隊機や米軍機、その他、およそ1000人の救助隊員が足を踏み入れていく。


調査では、墜落現場から10キロ離れた長野県の山奥であるという情報や、墜落現場から4キロ離れた山奥であるという誤情報も相次ぎ、当時GPSもなかった時代であったため、墜落現場の情報が錯綜していた。

 

 墜落現場では、山奥を焼く黄昏が沈む頃、自然鎮火と雨により、炎上した機体の火も消えていた。

まるで焼け付くような夕日が辺りを焼いていたかのように。


 すると墜落現場に、救助隊のヘリが飛んでいる音が聞こえてきたのだ。そのヘリは、事故現場を目撃する事に成功していた。


このまま自分達を見つけてくれれば助かる。詩音はそう思ったのだが、どんなに心が叫んでも、体を動かす事ができず、大きな声を出す事もできない状態であったため、自分達を見つけてくれるのをただ待つしかなかった。


行かないで、行かないで。そんな心の叫びも届かず、ヘリの音が少しずつ聞こえなくなって行くのをただじっと聞いていた。無情にも、自分達の事を見つけてもらえないまま、ヘリの音は消えていった。


そのヘリは、事故現場を目撃する事はできたものの、当時GPSもない時代だったため、事故現場の報告に誤差が生まれ、またしても捜査が困難な状況になってしまったのだ。


 もうだめなのだろうかと絶望し、涙を流していた詩音だったが、その時すぐ隣から、意識を取り戻した母親の声が聞こえてきた。


「詩音、詩音」


そんな母親の問いかけに詩音は「生きててくれたんだね」と返事を返す。すると母親は、振り絞った声で、詩音を懸命に励まし始めた。


「詩音、こんな所で眠っちゃ駄目。必ず助けが来るから。これから詩音は、いろんな夢を叶えて、困っている人に手を差し伸べて、いろんなを救って、立派になるんだ。詩音が産まれた時に聞かせてくれた泣き声ほど美しい歌声を私は聴いた事がなかった。だから、どんなに苦しくても、期待した事の全てが裏切られても、最後の希望が絶たれても、決して諦めないで。一緒に最後まで投げ出さずに生き延びようね」


 母親がそう伝えると、詩音はさらに涙が溢れた。母親の言葉が響いたのか、全身の痛みと恐怖、そして母親との死別を想像してしまったのかもしれない。


「詩音負けないで。絶対に負けないで」


そんな母親の言葉に、詩音は励まされた。


 そして勝山家を含む他の生存者達も、助けが来ることを信じ、懸命に励まし合っていたのだ。周囲からは、泣き叫ぶ子供の声が聞こえてくる。


 幸大と、隣の女の子が握っていた手は、墜落の衝撃で離れてしまったが、墜落してからも、まだ意識があり「僕は頑張るよ!君も一緒に生き延びよう!ここを乗り越えれば、またママとパパに会える」と10歳とは思えない心強い言葉で隣の女の子を励ましていた。


「私も生き延びられるように頑張るよ。本当に君に出会えて良かった。すごく励まされてたし、飛行機に乗ってからずっと一人じゃないって思えた。私からも何かしてあげたいんだけど、何もしてあげられなくてごめんね。本当に一緒にいてくれてありがとう」


隣の女の子が幸大にそう伝えると、まだ聞いていなかった事を、隣の女の子に聞く事にした。


「君の名前は、何?」


幸大がそう尋ねると、隣の女の子がこう答える。


「私の名前は美雨(みう)この雨を美しくできるように、そして美しくなれるように、この名前が付けられた」


「素敵な名前だね。僕の名前は幸大。ここまで生き延びてくれてありがとう。たとえ、君だけが生き延びても、生まれ変わっても、僕の事を忘れないでね」


幸大がそう返すと、美雨は頷いた。


そして二人は、手を握ったまま、眠りに就いた。


 そしてその頃、二人の頭の中では、それぞれの過去が、走馬灯のように流れていた。


美雨の頭の中では、昨日母親と、てるてる坊主を家に吊るした時の思い出が、回想されていた。


「お母さん、私が作ったてるてる坊主。明日が天気になるように、このてるてる坊主を吊るそうよ。私、手が届かないから、お母さんが吊るして」


「あら、よくできたね!貸してごらん」


「お母さん知ってる?てるてる坊主って、雨を止ませるために、首を吊ってるんだよ」


「え!?そうなの?どこで聞いたのそんな話……」


「私もてるてる坊主みたいに、振っている雨を止ませられたらいいな」


美雨が、そんな願い事をつぶやくと、てるてる坊主を吊るし、その会話は終わった。


一方幸大の頭の中では、前日ゆうちゃんと喧嘩をした時の事を回想し、仲直りの言葉を述べていた。


「はい、リモコン」


「良いの?」


「うん、ただ、お兄ちゃん勉強してるから、音量を小さくして見てね」


「うん!ありがとう!お兄ちゃん」


「それじゃあお兄ちゃんいって来るからな、ママの言う事をちゃんと聞くんだよ」


「行ってくるってどこに行くの?」


「誰もが一度見ているのに、誰も知らないところだよ」


その言葉を掛けると、幸大はゆうちゃんを置いて、光の方へ進んで行った。


「お兄ちゃんどこに行くのー?」


ゆうちゃんが幸大を引き止めるも、幸大は戻ってこなかった。


 一方他の生存者達は、夜の暗闇の中、救助が来るのを待つしかない状況だったが、生存者達は、耐えがたい全身の痛みで、今を生き延びるだけで限界の状態の中、誰もが懸命に生きようとしていたのだ。


 しかし、勝山家や幸大と同じ、機体後部の座席に座っていた、この男だけは訳が違った。


寺田功(てらだいさお)36歳、この男は、過去に部下への暴力事件を起こしており、その後仕事のストレスでうつ病を発症。仕事を退職せざるを得なかったため、一度大阪の実家に帰る事にしたのだが、その時に搭乗したのが、この時の123便だった。


きっとあの時に暴力事件を起こした事が、今の自分に降りかかってきているのだろう。

そして満席の123便で自分が席を取ったのなら、誰かの代わりに自分がこの飛行機に搭乗して、死にたかった自分が死ぬ事ができる。この男はそう考えたのだ。


ただでさえ、生きる気力を失っていた精神状態であったため、この状況の中、もはや生きようとする気力など残されておらず、生きたくても生きられなかった命の傍に、死にたくても死ねなかった命がここにあった。


 そんな中、すでに意識を失っている乗客達も増えていた。


中には、赤ちゃんや子供を抱いたまま、亡くなっている母親の姿もあり、詩音の隣にいた母親も、意識を失っていた。


「お母さん、お母さん」


詩音が声を振り絞った呼び掛けにも応答がなかった。


 そして墜落してから数時間が経った頃、雨も一層強くなり、雷雨に見舞われる事になった。

夜の暗闇と雷雨の中、詩音はついに一人ぼっち。

静寂を切り裂く稲妻の音に怯える中、抱いているおばあちゃんのぬいぐるみが、その寂しさを慰める。


「君は一人じゃない」なんて歌の歌詞が頭の中に思い浮かんだのと同時に、寂しさで涙が止まらなかったが、そんな涙も夜の雨が洗い流す。


季節は真夏。喉が渇いていたので、その雨水を飲んで生き延びる事にした。

そういった点では、雨が降った事と、墜落したのが夜であったことは幸いだったのだろうか。


 その時、体の傷口当たりに痒みを感じた。傷口にハエが集ってきたのだ。

このまま死んでしまえば、傷口から蛆が湧き、無数の虫達の餌になるだろう。強いものが生き残り、弱いものが餌食になる世界。虫がどんなに尽力しようと勝てない動物でも、死んだら最期、虫の餌食となるのだ。


このまま誰にも発見されずに死んでいく自分の様子を想像してしまう。


人間にとって本当に辛いのは、歩く事でも、走る事でもなく、何もせずただじっとしている事なのだ。


しかし、母親の励ましの甲斐もあってか、その頃詩音はまだ、生きる希望を捨ててはいなかった。

上空にヘリが飛んでいるのであれば、明日、日が昇り、明るくなれば見つけてもらえると考えたのだ。


しかし、このまま眠るのは危険であると考えたので、できるだけ起きている事にした。


出来れば、家族全員で生還したい。しかし、母親の意識も恐らくなく、父親と、お兄ちゃんはどこに行ったのか分からない。


ただ時間だけが過ぎていく。今がもう何時かも分からないが、ついに意識が朦朧としてきた。

目を瞑ったら死んでしまうのではないかと思ったので、何とか起き続けていたが、もう限界だった。


そしてこれから死ぬのだろうかと考えながら、ついに意識を失った。


 その頃詩音の頭の中では、おばあちゃんとの思い出が回想されていた。


詩音が小さい頃、おばあちゃんと散歩に出掛けたのだが、その時に詩音が転んでしまったので、おばあちゃんがおんぶして家に帰ろうとしていた時の事が思い浮かんでいた。


 そして帰った後、おばあちゃんとお風呂に入ったのだが、その時の会話が思い浮かんだ。


「おばあちゃんは子供の頃何になりたかったの?」


「それはね、おばあちゃんは子供の頃、ピアノの演奏家になりたかったの。だけど両親に反対されて、夢を諦めないといけなかった。だけど、今思えば、詩音と一緒に暮らしている事で、成功する事なんかより大切な事があったんだと思っているよ」


そんなおばあちゃんの温かい言葉を最後に、その回想は終わった。


 すると、向こうに光が見え、その光の方へ進んで行くと、父親と裕太の姿が見えたのだ。走って追いかけると「こっちに来るな!」と父親は叫んだ。


「眠った時にこっちに来てるだけで、詩音の肉体はまだ墜落現場で生きてる。ここは死後の世界だ。すまん詩音、僕ら二人は死んだ。俺は、一家の大黒柱として、家族を守ってあげられなかったんだ。だからもう、詩音と僕等はお別れなんだ。本当にすまん。だけど詩音はまだ生きてる。眠った時にこっちへ来ただけで、詩音の肉体は、まだあの墜落現場で生きてるんだ。だから今から戻ればまだ間に合う。虫のいい話だが、僕等の分まで詩音が生きてくれ。絶対に、絶対に生き延びてくれ。僕等と詩音は、ここでお別れだ」


「そんな……嫌だ!私は、お父さんと、お兄ちゃんと一緒に生きていきたい!」


「すまん……本当にすまん!あの壮絶な機内で気を失いながらも、詩音は生き延びて、今も全身の痛みに耐えながら生きている。本当に奇跡的に、よく耐えて生きてくれている。人は必ず死ぬから、死んだ後に会うのは、必ず叶う。だけど、詩音が今生きてるのは奇跡なんだよ。本当に君たちのお陰で、僕はここまで生きて来れた。本当に感謝の気持ちでいっぱいなんだ。だから僕と同じように、これから生きていれば、詩音の事を大切にしてくれる人がいる。だから母さんと詩音の二人で、必ず幸せになるんだ。詩音、絶対生き延びろよ!頑張れ頑張れ!」


そう伝えると、父親と裕太は手を繋ぎ、光の方へ、詩音はその逆へと走った。


 そして夜が明け、朝の5時頃、ついに墜落現場が特定されたのだ。


雨は上がり、夏の朝日が墜落現場を照らしていた。


その頃、詩音は再び意識を取り戻していた。しかし、自分が生きているのか死んでいるのかさえ分からなかった。


するとその時「詩音、詩音」と母親の声が聞こえて来たのだ。


その声は、昨日の夜に話した時よりも、遥かに小さく、かすれたような声だった。その声が聞こえた時、自分と母親が生きている事を認識できた。母親は何度も意識を失っては、意識を取り戻していたのだ。


「生きていてくれたんだね」


母親がそう口にすると、二人は笑顔を浮かべながら、涙を流していた。


しかし母親は、機体の残骸で肋骨を長時間圧迫されていた事で、血反吐を吐いた。


そして昨日の夜、詩音の事を励ましていた母親だったが、ついに重たい言葉が発せられる。


「詩音、私はもうだめかもしれない、詩音を産んだ時、私が絶対この子を守るんだって誓った。だけどもう、意識を保っているのが精一杯で、どこまで生きて行けるか分からない。詩音、本当にごめんなさい、私はもうだめかもしれない。死にたくない……詩音のために生きて行かないといけないのに、神様どうか助けて下さい。せめて詩音だけでも助けて下さい」


そう母親がつぶやくと、詩音はこれまでに見せた事のない母親の姿に、返す言葉を失った。


すると母親は「これから助けが来るからね」つぶやいた。


 そして母親のそんな言葉は、これから現実になろうとしていた。


 その頃、救助隊のヘリと陸上自衛隊の3000人が、地上から墜落現場に向かっていた。

道路も敷かれていないような、真夏の山道を4時間かけて登っていくのだ。


そしてヘリからの救助隊が現場にたどり着いた時、これまでに見た事のないような惨状を目にする事となる。


そのあまりの惨状に、救助隊は息をのんだ。


尾根筋がえぐれ、木々がなぎ倒されている。

火災は昨日降った雨と、自然鎮火によって収まっているのだろうか、そこに機体の残骸が無数に散らばっていた。


 テレビのニュースでも、その様子がヘリから放映されており、その様子を目にした泰地家の母親もあまりの惨状に頭が真っ白になった。

もしも幸大が生きているのなら、今すぐにでも助けに行きたいところだが、ご家族の方は、決して墜落現場には行かないで下さいと伝えられているため、助けに行く事ができない。


 新聞では「全員絶望か」といった文字が綴られている。


 ここから救助隊による、生存者捜索が始まるのだが、生存者がいるような気配は全く無かった。

あまりに絶望的な地獄絵図が広がっている中、救助隊は機体の残骸をかき分け、生存者を懸命に探していく。


しかし、二人が生きている事に誰も気付く事ができなかった。

なぜなら勝山家が座っていた客室は、墜落時に機体が二つに分かれ、山の下へと滑り落ちてしまっていたからだ。


ただその頃、地元の人でも足を踏み入れる事のない山道から、二人の元へ近付いていた救助隊がいた。


そしてついに、機体の残骸が山の下に落ちているのを発見したのだ。


するとそこから、何かが動くのが見えた。

何か他の動物だろうと隊員達は思っていたのだが、近付いてみると、生きてる人間の手が、機体の残骸の隙間から、助けを求めていたのだ。


「生存者だ!」そう叫んだのと同時に、隊員達が駆け寄っていく。


墜落から16時間、全員絶望かと思われていた現場から、初めて確認された生存者だ。


4人が座っていた機体後部は、それより前に比べて衝撃も少なく、火災も起きていなかった事が生存の理由だと考えられる。


「ほら、助けがきたんだよ。信じていた事、正しかったね」


母親の言葉と、助けが来たことで、詩音も安堵している。


「君は一人じゃない」なんて曲の歌詞も正しかった。


「子供から先にお願いします」と母親が言うと、救助隊が、機体の残骸をかき分け、二人を救出する。


その近くにいた寺田は、もうこれから自分は死ぬのだと思い、眠っていたのだが、救助隊の助けがきたときに目が覚めた。


勝山家の二人と、寺田功を含む、4人がこの場所から発見された。


しかし、まだ救出には至っておらず、ヘリで救助する際に、二次被害を避けるため、4人をを山の上まで運び上げなければならない。


二人を担架に乗せ、男達が生存者を救出したいという心を一つにし「せーの!せーの!」という掛け声とともに、一歩ずつ山の上へと進んで行く。


「もう少しだからな、せっかくここまで諦めずに生きて来たんだ。頑張れ頑張れ!」と生存者達を励ます。


生きる事を諦めようとしていた寺田の前にあったのは、懸命に自分達の事を救出しようと尽力している男達の姿だった。その姿を目にした時、寺田目からは涙が溢れた。どんなに人が信じられなくて、人の事を憎もうと、こんないざという時に限って、助けてくれる人がいるんだと、寺田はその時思った。


「どうして俺みたいな底辺を、助けようとするんだ。友は病気の俺を見捨て、誰も俺の事なんか助けようとしかなったのに、こんないざという時にだけ俺の事を助けて、人間ってひどいもんだなあと思いまして……」


その時、寺田の心は戦っていた。人助けにおける、人の心は信じられないが、自分の事を全力で助けようとする男達の姿を見て、本当は信じていたかった。自分の事を助けてほしかった。という心の奥に眠っていた感情が湧き上がってきたのだ。そんな事を泣きながら語る寺田に対して、救助隊の一人がこのように伝えた。


「何があったか知らねぇが、俺等は目の前にいるのがどんな人間であろうが、助けるのが使命だ。俺等だって、こんなに懸命に助けようとしてるんだから、どうか懸命に生きてくれ。いざという時以外、誰も助けてくれないんだったら、あなたが人の事を助けられる人間になるしかないんだ。そして自分の想いを、誰かに伝えてやってくれ。その事を伝えられるのは、あなたしかいないんだ」


「せーの!せーの!」


その言葉を聞いた時、寺田は絶対に生きる事を諦めないと心に誓った。


 そして山の上に着いた時、救助隊のヘリが要請され、発見から更に2時間が経過した頃、ようやくヘリで救出される。


その救助の瞬間がメディアで放送された時、日本中に感動を与える事となった。


 そして勝山家のおばあちゃんも、その放送を病室から眺めており、呆然とした表情で、涙を流していた。孫の顔を忘れてしまっても、心の中に消えずに残っているものがあったのだろうか。涙の正体は、誰にも分からない。


 戦ったパイロット達、そして救助隊と、生きることを諦めなかった乗客乗員全員が力を合わせて奇跡的に救出された4人の生存者達だった。 

読んで頂き、本当にありがとうございます。

520人の命と、4人の生存者、そして遺族の方々と、関係者の方々の犠牲や尽力があった事を元に、こちらの【ラストメッセージ】を届ける事ができたという事を忘れないで下さい。

どうかよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ