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123便墜落

※本作品は、日本航空123便墜落事故を元にしたファクション作品です。登場人物の名前は全て仮名であり、実際の人物にあった出来事とは異なるストーリーで構成しています。


垂直尾翼の6割と、油圧を失った事で、操縦不能な状態に陥った123便の機体を、懸命にコントロールしていくパイロット達。しかし、その努力も虚しく、123便は墜落してしまう。

これまでに想定されていない緊急事態の中で、パイロット達、管制塔、乗客乗員は、どのように戦っていたのか。

 操縦不能に陥った123便はこの時、ダッチロールと呼ばれる左右の横揺れに加え、フゴイド運動と呼ばれる、上下運動も始まっていた。なぜ、このような上下運動が起こるのか。飛行機は降下する時、滑り落ちるようにスピードを上げ、降下していく。そしてスピードが上がると、今度は揚力が増し、上昇していくが上昇が激しくなると、今度は失速するように、降下していく。それを繰り返していたのだ。そして4つの油圧も失われていたため、どんな技術をもってしても、機体をコントロールすることができない状態に陥っていたのだ。機長は管制塔に、アンコントロール(操縦不能)と伝え、その声も、かなり焦燥しているように聴き取れたため、管制官も、これはただ事ではないと感じていた。

機長「気合を入れろ!ストール(失速)するぞほんとに」

機長「ディセンド(降下)」

すぐにでも墜落してもおかしくない状況で、パイロット達は、懸命に機体の姿勢を立て直そうとする。通常、航空機と管制塔とのやり取りは、原則英語で行われるのだが、この時は機長の負荷を考え、日本語で話しても大丈夫であると、管制塔は機長に伝えた。

 そして123便は、羽田空港へ向け、機体を右に旋回させていた。なぜ、操縦不能な機体に、それが可能だったのか。123便の機種である747型機には、エンジンが4つ、左右に二つずつ搭載されている。そしてこの時の123便は、左側のエンジン出力を、右側のエンジン出力よりも少し上げる事で、機体を右側に旋回させていた。これは、パワーコントロールと言われる、左右のエンジン出力の差を利用する事で、機体を旋回させる事ができたのか、もしくはこの様な緊急事態で、計器を見ながら操縦する余裕がなく、手の癖などで、左右のエンジン出力のアンバランスが生じ、偶然にも機体を右に旋回させる事ができたのかもしれない。そして航空機関士が、新たな提案を伝える。

航空機関士「ギアダウン(車輪を降ろす)したらどうですかギアダウン」

ギアと呼ばれる車輪を降ろし、空気抵抗を増やす事で機体を降下させるというのだ。しかし、油圧が全て失われているため、車輪は降りない。そこで航空機関士が、更にこう提案する。

航空機機関士「オルタネート(代替装置)でゆっくりと出しましょうか」

オルタネートと言われる代替装置で、電動でロックを外し、車輪自体の重さで降ろす方法だ。その結果、車輪は降りた。そしてこれまで、ダッチロールやフゴイド運動を繰り返していた機体が降下し、安定し始めたのだ。

機長「羽田に戻ろう」

機長は、このような言葉をクルーにかけ、524人の乗員乗客を、羽田空港へと生還させたい。3人はその一心だった。

 その頃客室内では、すでに沢山の乗客が気を失っている様子だった。泰地家の幸大は、意識を保っていたのだが、その時、隣にいる女の子の手を握り「頑張ろう!頑張ろう!」と声を掛け、励まし続けていたのだ。しかし、空港で飛行機に乗る事を不安がっていた勝山家の詩音は、気を失っている。そしてその隣で裕太は、激しく揺れる機体の中で、隣にいる家族、そしてクラスメイトに向け、手紙を書いていた。その中の一枚に、美愛(みあ)という名前の女の子に向けて、その想いを伝えようと、手紙を書き残していた。

 その頃コックピットでは、管制塔の呼びかけに答える余裕も無くなっていた。管制塔は、123便と個別に交信するために、周波数の変更を要請するが、それに対する応答がない。

機長「頭下げろ!(機首を下げろ)そんなのどうでもいい!」

そこで管制塔は、逆に123便を除く全機に対して、その周波数を変更するよう要請した。そしてその頃、羽田空港へ機首を向けていた123便は、右に60度ほど傾いたり戻ったりを繰り返しながら、右に急旋回し、円を描くように一周していた。

機長「重たい」

壮絶な状態にある機体を必死にコントロールする為に、常に操縦桿を動かしていた事で、相当な疲労状態であった事が伺える。

管制塔「現在コントロールできますか?」

機長「アンコントローラブルです」

しばらくすると、機体は水平飛行に戻り、その先には、横田基地と、羽田空港があった。横田基地からは、コックピットにも無線が入り、緊急着陸の受け入れ準備を行っていた。このまま直進すれば生還できる。そう信じたいところだったが、この時南西に吹いていた影響か、もしくは、機体をコントロールすることが難しい状況である以上、地上での二次被害を避けるためであったのか、機体は左へ急旋回。羽田空港からも、横田基地からも、遠ざかってしまう。そしてここまで、操縦不能に陥った機体を懸命にコントロールしていた機長だったが、ここへきてついに、重たい言葉が発せられる。

機長「これはだめかも分からんね」 

これまで家族に前向きな言葉を掛けていた機長が一変して、この時相当な追い詰められた状況だったことが分かる。

 そして123便は、2000メートル級の山岳地帯へと進んでいく。山に激突する可能性があったが、それでもパイロット達は、懸命に機体をコントロールしていく。

機長「山だ!コントロール取れ右、ライトターン!」

副操縦士「ライトターンですね」

機長「山ぶつかるぞ!」

機長「レフトターン今度は、レフトターン!パワー(エンジン出力)ちょっと絞って、あー右、頭下げろ!山行くぞ」

 そして少しでも高度を上げようと、エンジン出力を最大にしたその時だった。機首は39度まで上がり、速度は200キロまで落ちて、失速警報が作動した。

機長「あーだめだ、終わった。ストール。マックパワー(最大出力)マックパワーマックパワー。ストール。はい高度落ちた」

壮絶な状況の中、副操縦士は、パニック状態に陥っていた。しかしその時、機長が励ましの言葉を掛ける。

機長「どーんと行こうや!頑張れ頑張れ!」

そんな励ましの言葉を掛けると、その励ましの甲斐もあってか、機体は安定し始めた。そしてパイロット達は、新たな提案を伝える。

機長「パワーでピッチはコントロールしないとだめ」

航空機関士「パワーコントロールでいいです。パワーコントロールさして下さい」

この提案は、エンジン出力を調節する事で、機体を上下に安定させるというものだった。そして更にこう提案する。

航空機関士「フラップ下げましょうか」

機長「降りない」

航空機関士「いや、オルタネートで」

フラップと呼ばれる、翼の後方が空気抵抗を受ける事で、スピードを落とした状態でも、揚力を上げる事ができる装置を降ろすという提案だ。これがこの時のクルーにとって、最後の希望だったことであろう。そして客室乗務員は、緊急着陸へ向けて、機内アナウンスを始める。

客室乗務員「高度はだいぶ降りています。もうすぐで酸素は要らなくなります。赤ちゃん連れの方、背に頭を、座席の背に頭を支えるような形にして下さい。赤ちゃんはしっかり抱いて下さい。ベルトはしてますか?テーブルは戻してありますか?確認してください」

客室内の母親は、赤ちゃんや自分の子供を抱いたまま、自分の子供を絶対に生還させたい。その一心だった。勝山家の父も、息子である裕太の事を、懸命に励ます。

「裕太しっかりしろ!」

 その頃コックピットでは、山岳地帯で、現在位置がどこなのか、分からない状態になっていた。そこで航空機関士が、管制塔にコンタクトする。

航空機関士「123便リクエストポジション(現在位置を教えて下さい)」

管制塔「熊谷から25マイルウエストの地点です。どうぞ」

そして横田基地は、いつでも緊急着陸可能な状態になっていた。しかしその時だった。降ろしたフラップがどういう訳か、左翼のフラップだけが降りていたのだ。それにより、機体の左側だけが揚力を増すような状態になり、機体は大きく右に傾いた。すぐにフラップをあげるように機長は声を掛けたが、機体は最大で、80度右に傾き、真っ逆さまに急降下。この時、急降下した事と、機首を上げるべく、エンジン出力を最大にした事で、スピードは最大で630キロにも及んでいた。最大で3Gもの負荷が掛かりながら、山にぶつかる直前で機首を上げたが、すでに高度は1500メートルまで落ちており、ついに最後の時を迎える。

機長「フラップとめな!」

機長「パワー!フラップ、みんなでくっついちゃだめだ!」

副操縦士「フラップアップ、フラップアップ、フラップアップ」

機長「フラップアップ」

副操縦士「はい!」

機長「パワー!パワー!フラップ!」

副操縦士「あげてます!」

機長「ストールするぞ!」

機長「頭上げろ!頭上げろ!パワー」

警報音「PULL UP」(上昇せよ)

機長「もーだめだ!」

機体は、一番右側のエンジンが山の木に接触し、脱落。その直後に、右主翼、垂直尾翼、水平尾翼も破壊された。この時、200トンという衝撃が発生していた。そして機体は真っ二つに折れた状態で、機体後部は山の下に滑り落ち、それより前の機体は、真っ逆さまに山に激突した。この時のスピードは480キロほどで、わずかに減速していたが、数百Gという衝撃を受け、墜落した。

午後6時50分、123便は、群馬県の御巣鷹山へ墜落した。

乗客達の苦しみは想像を絶するようなものであったと伺われ、その事故に、日本中の誰もが心を痛めた事であろう。

読んで頂き、本当にありがとうございます。

520人の命と、4人の生存者、そして遺族の方々と、関係者の方々の犠牲や尽力があった事を元に、こちらの【ラストメッセージ】を届ける事ができたという事を忘れないで下さい。

どうかよろしくお願い致します。

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