表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

父さんとの別れ

※本作品は、日本航空123便墜落事故を元にしたファクション作品です。登場人物の名前は全て仮名であり、実際の人物にあった出来事とは異なるストーリーで構成しています。


美羽家は、望夢が受験に合格できたことを、すぐにでも父さんに伝えたくて、御巣鷹山への慰霊登山を行う。そこで望夢と詩音は、父さんへのラストメッセージを伝える事ができた。

その後の入学式で、望夢は新入生代表の言葉を、みんなの前で述べる事になっているのだが、そこには亡くなったはずの父さんの姿があった。

 そして美羽家は、受験に合格できた事を、すぐにでも父さんに伝えたくて、墜落現場となった、御巣鷹山への慰霊登山を行う事にした。


詩音には、あの時のパイロット達に伝えたい事があったのと、父さんによって救われた生存者の姿も見せたくて、詩音も一緒に登る事にした。 


 登山口から現場まで、およそ800メートルの山道を登っていく。

天気もよく、温かい春の太陽に恵まれた、登山日和だ。


かつて、地元の人でも足を踏み入れる事のなかった山奥だったが、今となっては、山道が敷かれている。

その脇には川が流れており、そこに温かい春の木漏れ日が射しこんでいた。


 その山に上る途中、123便墜落事故の遺族の方が声を掛けてきた。


美羽家はその時、何を言われるのか不安だったが「本当にあの時のパイロット達は、最後まで諦めずに戦ってくれました。本当にありがとうございます」と伝えてくれて、美羽家はそんな温かい言葉に救われた。


 そして登山口から30分くらい歩いたところで、その墜落現場である、御巣鷹の尾根にたどり着いた。山肌がえぐれ、一面焼け焦げていた場所は、今となっては緑に包まれている。


その先には、コックピットで懸命に戦ったパイロット達の墓標があり、ついに父さんの元へたどり着いた。


望夢は、詩音の手を握り、一歩ずつ、父さんの墓場に近づいていく。母さんと望愛は、後ろからその姿を見守っている。


「父さん、やっと会いに来たんだよ。父さんとの約束を果たして、会いに来たんだよ。父さんが応援してくれていた受験にも合格できて、父さんが救ってくれた詩音っていう本当に素敵な彼女も連れて来たよ。父さんが戦ってくれた時のボイスレコーダーも聴いたよ。父さんがもう帰ってこないのは本当に寂しいけど、あの時父さんが残してくれた言葉が、僕に生きる勇気を与えてくれた。どんなに遠く離れても、父さん想いはいつだって僕の元に届いている。あの時父さんが投げ出さずに戦ってくれた事で、救われた命があって、僕と詩音も、それに救われて、父さんにはポラリス賞が授与されたよ。そして僕も、父さんの事を見習って、最後まで投げ出さなかった事で、報われたから、もう安心して、成仏しても良いんだよ。僕はこれからも、父さんみたいになれるように、頑張るからね。もし生まれ変わっても、僕等の事を忘れてしまっても、父さんには幸せでいてほしい。どうか幸せでいて下さい。それこそが僕からの、一番の願いです。これで父さんに想いを伝えられたから、また前を向いて生きて行ける。会いたいです。もう一度会いたい。会いたいね……」と望夢は、泣きながら、父さんへの想いを伝えた。


そして詩音も、これまでパイロット達に伝えたかった想いを語り始める。


「あの飛行機に私が乗っていた時、私は気を失っていましたが、最後まで懸命に戦って下さったことで、私を救って下さり、本当にありがとうございます。私を救って下さり、望夢を育てて下さった方として、どうか誇りを持って、眠って下さい。そして、戦ってくれたパイロット達を責める人など居ませんので、安心して眠って下さい」と詩音も、泣きながら、静かに感謝の言葉を送った。


その時父さんは、望夢と詩音からのラストメッセージを受け取った。


 そして月日が経ち、蒼彩大学の入学式の日が来る。


その入学式の、新入生代表の言葉を、望夢がみんなの前で発表する事になっているのだが、その時の望夢は、とても自信を持ったような様子でステージの上に立ち、その言葉を述べ始めた。


「新入生代表の言葉。僕達はこれから、蒼彩大学での新しい大学生活が始まります。皆さんは今日に至るまで、それぞれの悲しみや困難を乗り越え、この場所にたどり着いている事だと思います。しかし、そんな悲しみや困難の中にも、誰かの応援や、労わりの言葉に支えられたこともあったはずです。だからこそ、僕等はこれから、どんな悲しみや困難の中でも、仲間として支え合い、共に、楽しいや事や嬉しい事だけではなく、悲しみや困難も一緒に乗り越えて行けるような、仲間になれたら嬉しいです。僕は、中学生の時に、123便墜落事故で、父さんを亡くしました。その時父さんは、パイロットとして、キャプテンを務めていたのですが、本当に最後まで諦めずに、乗客乗員全員を、生還させようと、全ての手段を尽くし、戦い抜いてくれました。そんな父さんと、僕はもっと一緒にいたかったし、寂しかったです。受験に合格して、この学校に入学する事にも、父さんは、ずっと応援してくれていました。そしてその夢を叶え、父さんとの約束を果たす事ができました。今の僕の姿を、父さんにも直接見せたかった。遠くから、今の僕を見てくれていますか。父さんとの約束を果たし、今、蒼彩大学に入学する事ができました。今日は、暖かな春の中、僕達のために、この様な素晴らしい入学式を開いて下さったことを、心から感謝しています。ありがとうございます」


その言葉に、母さんが涙を流していると、その後ろには、パイロット制服を身に纏った父さんの姿があった。


父さんは、望夢が目標の学校に入学して、代表の言葉を述べる姿を一目見ておきたかったのだろう。

父さんにとってその光景は、どんなに美しい風景よりも、心に重くのしかかる美しさがあった。


母さんがその気配に気づき、後ろを振り向くと、父さんはその姿を隠すように、消えていった。


 そして墜落した時と同じ8月12日になると、その現場を空からも一度見ておきたいという遺族の思いから、慰霊飛行が行われた。


それに美羽家も参加し、ヘリから墜落現場を一度見ておくことにした。


墜落現場に到着し、望夢がヘリの窓から御巣鷹の尾根を眺め下すと、墜落時のパイロット達の声と、墜落していく飛行機の機体が、走馬灯のように目の前に思い浮かんだ。


機長「パワー!パワー!フラップ!」

副操縦士「あげてます!」

機長「ストールするぞ!」

機長「頭上げろ!頭上げろ!パワー」

警報音「PULL UP」

機長「もーだめだ!」


その時望夢は、まるで叫び声をあげるように嗚咽した。


この事故によって、520人もの人が死という運命に立ち向かう事となったが、この事故に限らず、事故や災害で亡くなった人達は皆、最後の最後まで生き延びようと最大限の努力を尽くしていたのではないか。


そして状況は違えど、我々一人一人が死という約束された運命に向かって今を生きている。


その語られる事のない想いを受け取った時、人生において、何事にも諦めないための力となり、大切な人との時間をどう過ごすべきかを考える機会となるのではないか。


この事故の遺族の方の言葉に「一日一日を大切に生きれてほしい」という言葉があるのだが、その答えのない問いに、我々生きている人間が答え続けていかなければならない。


その答えと問いを、犠牲になった520人の命が与えてくれる。


犠牲になった520人の命と、4人の生存者、そして遺族の方々と、その他の関係者の方々と共に、それらの想いを届けるため、僕等はこれからも戦って生きて行く。

読んで頂き、本当にありがとうございます。

520人の命と、4人の生存者、そして遺族の方々と、関係者の方々の犠牲や尽力があった事を元に、こちらの【ラストメッセージ】を届ける事ができたという事を忘れないで下さい。

どうかよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ