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ジングルベル。



一方その頃、家に帰って一息ついていた海道の元に紫髪の黒いニット女が感情を露わにしていた。


「うぇぇえぇん....クリスマスすぐなのに..今年も一人ぼっちだよぉ...」


「.....は、はぁ」


ソファーの上で泣きつかれながら、彼は心内で悪態をついていた。


ーーーはっきり言って彼女に合鍵を渡してしまったのは間違いであった。


ーーー合鍵ちょーだい!


経緯としては、家を購入した際に鮎川さん名義で借りた手前、なんとなく承諾してしまった事が発端であった。


その後というものの、余った料理や親父からの土産品を食いに週に一回はうちに来ており、度々鮎川さんと家で飯を食った際に置いていった積み酒を飲んでは、ゲストルームで寝泊まりして五臓六腑に染み渡る優しい朝食を食べて帰っていくのがいつものフローであったが、今回はどこか様子が違った。


「...清澄はさ....彼女とかいるの?」


いつもよりも塩らしいというか、頭に引っ提げている二つのお団子も萎れているせいか、いつもの明るいカレンとは離れた、髪をかく仕上げて妙に色気を感じる仕草でそう聞いてきた。


「いねぇよ。なんだ急に」


とはいえ、こういった彼女は初めてではないため、何度目かわからない問いにいつもの答えを呟く。


「まぁ、その....色々変わっちゃったし」


夏休みの間、かなり熱中して自己研鑽していた彼を見ていた彼女は変わっていく彼が少し寂しく思う数少ない人であった。


「あー....女との関わりは分かりやすく増えたが、今の俺は超人血清打ったヒーローと変わらんからな、中身に関してはそれとかけ離れてるのもあって、あまり自分の力だとは思えない。」


実際、この肉体が潜在的に持っていた遺伝子が帳尻合わせに来たって言っても過言でなく、中身は完全別として、スペックと経緯だけで言えばそれこそどこかのキャプテンと大差なかった。


(まぁ、俺にその資格があったかといえば、ないだろう。そこがキャプテンとは決定的に違う点か...)


前の世界でもこの世界でも、変わらず至誠たる道を全うした彼と自分とではそもそも比べるまでもないかと、例えで彼を引き合いに出したのを後ろめたく思い、視線を横へと逸らした。


「え...それは違うよ。清澄は夏の間必死に頑張ってたじゃない、それは誰でもできることじゃ...」


先までの塩らしい彼女とは一転し、真っ直ぐと紫衣に澄んだ瞳をこちらへと向ける。


「っ....俺は環境と人に恵まれただけで、俺自身は健康になって長生きしたいってのが根本にあって、それ以上の効能は期待してなかったからな。(まぁ、男は坊主にして格闘技に全振りすればどうとでもなるってのがあったし...)」


彼女がそういえばそれが真実になるかのように、真摯で曇りのない彼女の言葉に同調しそうになるが、強すぎる理性がそれを抑えて、そもそも顔が良くなりたかった訳ではないと話した。


「....清澄は冷めてるねぇー」


昔からカレンの父鮎川謙信に可愛いがられ、旅行時やスポーツ観戦時などはVIP待遇が日常だった彼が驕らずにいられたのは、根っこから冷静な聡さを持っているからのだと改めて感心していた。


「まぁ、事実を陳列してるだけだからな」


洗った皿を棚に陳列するのに感情が要らないように、彼自身それは大したものだとは思っておらず涼やかなキリッとした顔でそういった。


「....っ...やっぱ、清澄....女出来た?」


彼の余裕粛々の振る舞いにカレンはそう思わざるおえなかった。


「いねぇよ。」


これまでも余った料理と積み酒を飲食いしに来る度に女の有無を聞いてきており、今回も同じ答えだった。


「....うーん、その...遊んでる...子も?」


「あのなぁ....線引きくらいはハッキリさせてる。」


そして、毎度の問答に加え、今日はこそばゆそうに一歩進んそう聞く彼女であったが、彼の答えは似たようなものだった。


「っ...ふーん...そっ..か..」


直接的な言い方をしなくとも、根っこは真面目で優しい彼はそういう半端に女を泣かす真似はしないのだと、またもやカレンは勝手に感心していた。


「そういうカレンはどうなんだ?カレンならよりどりみどりだろ」


「なっ...うーん。まぁ、そのアプローチくらいはぼちぼちされるけど....」


防御力は低いカレンは顔を逸らし、チラチラと横目でこちらを見ながら微妙な反応をしていた。


「...?」


そんな彼女を彼は別に大した投げかけじゃないのにタジタジしているのを不思議に思っていた。


「その...家のご飯が一番美味しいから、外食する必要がない...と言いますか...」


「ん?あー...まぁ、分かる。」


付き合いが長いためかふんわりとした例えでも、彼は野球中継から目線を外してどこか腑に落ちた表情を彼女へ向けた。


「っ...清澄...」


何か一つでも自分の気持ちが伝わっていると思った、カレンは野球中継をのんびりと見ている彼の涼しい横顔ににじり寄る。


「俺も芝春周りを除けば、親父と母さんに母方、父方のジィさんバァさん、謙信さんにカレンと周りの人に恵まれ過ぎてるからな....」


「っ....なんで私が最後なのよ」


カレンは彼が言う中に自分の事が入っているのに感極まりそうになったが、順番が気に入らずに頬を膨れていた。


「あ?まぁ...なんだ、心理学的には最後に出た人が一番....」


うる覚えの知識から適当に流そうとしたが、話しているうちにその知識を鮮明に思い出してしまい、気恥ずかしさに喉が詰まる。


「...一番?」


その続きを聞きたくてその先の言葉を決して聞き逃さないために、彼女は彼の眼前にまで詰め寄り上目遣いで見上げる。


「.....」


流石に野球中継が頭に入ってこない距離にまで詰められ、彼女の紫衣の澄んだ瞳が彼を離してくれない。


「っ....は」


「っ...ぅ」


久しく合っていなかった彼の清く澄んだ瞳と入り交じり、互いの息遣いが鼻先に触れる。


ずっと、ずっと....一歩前へ進めば、彼の全てが手に入るのに


....あと一歩は、自分から行ってはならないと、黄金律がそう叫ぶ。


だから、私は先にどんなものが待っていようと、目を瞑って先立つ思いを留める。


「...カレン。」


「んっ...ぅ」


清澄の重く低く、優しい声が体の芯に響く。


「っ...ぅ」


頭のお団子髪を避けて、彼の大きくて温かい手のひらが彼女の頭を優しく撫でる。


いつもの一方的などさくさに紛れてするスキンシップとは違い、彼から優しく触られるのは抗いようなく私を底なしの彼へと溺れさせる。


今日、この日のために私は異性と距離を保ってきた。


そう、ずっとこのまま、清澄と....


頭に添えられた彼の手はゆっくりと、彼女の耳元へと移り、彼の息がゆっくりと近づ



ーーーーーピーンポーン。


...かなかった。


最高のタイミングでピンポンがなってしまい、リビングの時間は止まる。


『やっほー、霧雨ママが遊びに来たよー』


そして、数秒後になぜかハイテンションの彼の母がインターホン越しに話し始めた。


「ぁ....」


「っ....今、開ける。』


思いがむき出しになりそうだった彼は母という最強の気付薬に戻され、行き場を失った手でカレンの頭を優しく撫でてから、母の対応へと向かった。


「....って、あらー!カレンちゃん!いらっしゃい!」


「....き...キリさん!久しぶりですー!」


親父の出張見上げを色々持ってきた霧雨ママは、リビングのソファーで半ば放心状態になっているカレンを見てテンションを更に上げて、カレンはそれに合わせるように気を取り直していた。


「.....(俺は、何をしようと...)」


女どものはしゃぎ声を傍に、彼女らに少しでもこぼれないようにと彼は口を抑えながら心の内にそう呟いた。


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