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祝福の鐘?


今朝のことがあってから、天堂は妙に俺に絡んでくるようになり、毎度のように白木に振られ昼休みに昼飯を一緒にしながらその訳を聞いてみると


「ん?なんか、海道くんと一緒にいると女の子たちが僕に来なくてね。なんでだろうね、はははっ」


「今度は女除けか...」


いや、知らんのかよ。と彼女自身もよくわかっていない様子で、久留米の男除けとはまた違った効用が彼女にもたらされているのは確かだとは思うが、今度は女除けとして使われているのは少々癪だった。


「ん、嫌だったかい?」


彼女はおやつ抜きを突きつけられたゴールデンレトリバーのような切なそうな表情でそう聞いた。


「....構わねぇよ。」


今までは上手く行ってたとはいえ、今朝のような冤罪や女子生徒たちの暴走など、なまじ芝春を通して似たような事を対処した経験か、彼女の苦労を察して甘んじて受け入れる事にした。


「っ....ははっ...君は、優しいんだね。」


言葉数は多くなくとも此処にいて良いと、彼の広い優しさに触れた彼女は彼にしか見せない女の子らしい仕草で頬に手を当てて微笑んでいた。


「別に俺は....・・」


その後もたわいも無い話をして、昼休みの峠を越えた頃、飲み物が切れたため買いに行って、屋上に戻ると天堂は誰かと話し込んでいる様子だった。


「....私、ずっと前から。天堂くんの事が好きでした。付き合ってください!」


「......(早めに帰るか)」


「魚住さんの気持ちは素直に嬉しいよ。」


取り込み中だったのと、ハンバーガーセットが昼食だった彼は大した荷物もなかったため少し早いが教室へ戻ろうとしたが、事態はあらぬ方向へと向かっているようだった。


「本当っ?!私も!」


「ん?あー、その....」


やんわり断るための前置きを肯定的な意味と捉えられたのか、天堂は壁に追いやられてどう彼女を傷つけないか方便を考えていた。


「天堂くんっ、私....もっと、天堂くんを....」


「え...ぁ、ちょっ.....」


しかし、彼女の気持ちはそれだけでは収まらないようで、色々とおっぱじまりそうだったが、一応は男性としての立場にいる天堂は押し退けるかどうかあぐねており、天堂の秘密がばれかねない程の距離まで追い詰められていた。


ーーーードンっ!


その時、ドアが勢い良く開き、二人だけの時間は粉砕された。


「......ん」


「......あ」


「...え?」


良い噂を聞かない男が屋上に現れ、取り込み中の彼女らは一斉に彼の方を向いた。


(....こっから、どうすっかな)


事情を知っている彼は取り敢えずはそれを阻止したものの、ここからどうするかは即興で考えるしかなかった。


「....天堂、俺とは遊びだったのか?」


「....えっ?!は、うぇっ?!」


海道くんの爆弾発言に、女子生徒は学園の王子様の新情報に驚きのあまり、天堂から素早く離れて口を手で覆っていた。


「っ....いや...これは、君は遊びなんかじゃっ!」


腹を括った海道の助け舟を理解した天堂は、妙に様になっている演技で安っぽい昼ドラに乗っかった。


「良いんだ。天堂が、そうなら....」


「違うっ、僕は初めからずっと....」


海道は切ない表情で顔を逸らし諦観的な事を言うと、天堂は彼にしがみついて顔を埋めた。


「....あ、えっと....ごゆっくり....」


完全に海道と天堂だけの空間になったのを感じた女子生徒は、若干頬を赤めながら立ち去っていった。


「「......」」


「....行ったかい?」


階段を下る音が聞こえなくなった所で、天堂は彼に顔を埋めながらそう聞いた。


「あぁ.....ふぅ、もう離れていい。」


「っ、あ...そうだったね。はは....」


一向に彼から離れなかった天堂は、名残惜しそうにゆっくり彼から離れ、それを誤魔化すように切なさを滲ませながら微笑んだ。


「....(流石は王子か)」


ちょっと目を離した隙に、まぁまぁなピンチに遭遇していた彼女もまたイベントごとには事欠かないようで、本当に自分がスタンドのように女除けとして機能しているのだと実感した。


「んぅ、なんか失礼な事考えてない?」


王子とはいえ女の勘は備わっているようで、真っ白な頬袋を膨らませながら不服そうにまんまと彼の考えを言い当てた。


「それよりも、そろそろキツいだろ」


「ぐっ.....まぁ、そうだよね。」


今年一年、彼女の男装は完璧で俺と一人?位しかわからなかったが、今朝のようなイレギュラーや今回迫られた事も、本来ならば事態を覆すには真実を話す必要があった。


「そも、そうまでしてやる必要があるのか?」


「あー、そういえば話してなかったね。このしきたりは天堂家代々の続くものでね。初めは・ーーー」


彼女が言うには、武家人時代にどうしても女子しか生まれない年があり、男系継承主義も相まってか世継ぎが決まらない事態に陥ったらしい。しかし、それでも当主を決めなくてはならないため、名目的に男として長女を当主にした。


すると、どういう訳か数多の戦場で武功を挙げるようになり、多大な領地を獲得した結果、今では不動産業を基盤として多種多様な分野への事業投資を積極的に行なった事で今の天堂家があるらしい。


「・・ん、ゲン担ぎって事か?」


話を聞く限りでは、そういう解釈に至った。


「うん、まぁ.....それでなんだけど、それを始めた当主はその後、豪傑な武将を婿養子に迎えてさらに繁栄したとかで.....」


彼の解釈は合ってるには合っているが、彼女が言うには強き男になる事で更なる強い男を縁結びするという意図があるようだった。


「....そうか、まぁ頑張れ」


「っ.....」


『ーーー・・飛鳥、わかってるな?』


嫌に色々と合点はいったものの、皆まで聞きたくなかった彼はその場を静かに去ろうとするが、彼女に止められてしまった。


「君は、なぜそんなに何でも持っているんだい?」


「ん?」


彼女は顔を伏せながら放った言葉は、俺には似つかない文言だった。


「知力も、膂力も、夏の期間だけで僕を遥かに上回るまで至った。それに、父さんからも認められて.......15年間積み上げてきた僕は君に負けた。」


「あ?」


いきなりなんの話かと思えば、彼女はぽっと出の俺に負けた事をつらつらと話し始めた。


「..何か秘密があるのかな、教えてくれるなら...僕は何でもするよ。さっき助けてくれたお礼と、勝利報酬もあるからね。」


「おい、それはこの前の質問でチャラじゃないのかよ。」


借りるのはともかく、貸しをつけるのも貸し付ける相手によってはリスクになるのだと今更ながら痛感した。


「そんなの父が許すわけないよ。何でも言って...僕こう見えて結構...」


彼女は普通の男子高校生だったら歓喜狂乱しそうな甘い言葉を囁きながら、壁を背ににじり寄って来た。


「は?.....ちょっと待て、俺はただ...」


明らかに雰囲気が変わった彼女は王子というよりも、主人公を惑わす妖艶の魔女のようで、彼女の甘く切ない毒牙が鼻腔を通いつつも、大層ではない答えを躊躇いなく話そうとした。


「ただ?!」


すると、彼女はサラシ巻き越しに胸を押し付けながら節操なく身を乗り出してきた。


しかし、彼が持つ答えは、普遍的で黄金律に最も作用する因子で、劇薬的なものではなかった。


「運が良いだけだ。」


「.........え?」


「っと....俺はジィさんの遺伝子を色濃く受け継いだだけで、俺自身の人間性は特筆した物はない。その点、お前は十二分に俺より勝っている。」


きょとんとしている彼女の華奢な肩を掴んで引き離しながら、彼は名目上のステータス値よりも人間性の方が評価されるべきとらしくない事を豪語していた。


「....そうか」


先までの彼女が納得できるような回答ではなかったが、彼女は妙に大人しくなり、顎に手を当てて神妙な面持ちを浮かべていた。


「.....(とりあえず収まったか?)」


「.....わかった。」


彼女の顔色を窺っていると、何か腑に落ちたのか一転して晴れやかな表情で、蒼く澄んだ海のような瞳が彼を射抜いた。


「っ....そ、そうか、じゃ....」


「待って」


「?」


射抜いた者を全て呑み込んでしまうような彼女の瞳を逸らしつつ、とりあえずは場が収まったとしてその場を離れようとするが、彼女はまだ終わっておらず、彼女は彼の前に跪いた。


「....なら、僕と結婚しよう。」


ーーーードーンっ!


「「「「ダメーっ!!」」」」


王子様さながらのプロポーズをされた途端、彼が飲み物を買いに行った時から付けていた久留米やソフィア、青鷺らがドアを突き破って異議ありを申した。

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