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篠蔵。お前なんなんだよ。

季節は冬を迎え、12月初旬の寒風は登校中の彼らを心から冷やしていた。


「うぅ..寒っ...」


「もう一枚着てきた方が良かったねー」


「さみぃよ...東雲っ!」


「おいっ、くっつくなよ!気持ち悪りぃ」



「....。」


 一方で、朝のゴッドサウナとヨガを終えていた彼は、むしろ涼しいくらいで、程よい外気浴に近く割と快適な天候であった。


「...おはようございます。海道くん。」


 冬将軍に冷やされた外気に気分よく身を任せていると、いつものようにどこからともなく久留米が現れた。


「...はようさん。」


 いつものことで、彼はすでに慣れてしまっていた。


「...今日は寒いですねー」


「ん?...結構、暖かそうだが..」


そういう割には、彼女自身高そうな白のダウンジャケットを着こなしており、下はあったかそうな厚めの黒タイツを着ており、そこまで寒そうな感じはしなかった。


「いえ、寒いので...あっためて下さい。」


それを言いたくて、どうしてもそういう事にしておきたかったようだった。


ピッ


「...ほい。」


また、冗談めいたからかいだと思った彼は、丁度通りかかった自販機に立ち止まってホットティーを買って彼女に渡した。


「..えっ..あ、ありがとうございます...ふふっ..」


 そういう事ではなかったのだが、彼女は彼のそつない優しさが嬉しかったようで、結果オーライのようだった。


「...兄さん。」


彼女らの仲睦まじい姿を見ていた芝春は、どこか複雑そうな表情をしながら未だ届かぬ兄を呼んだ。



「ーー・・うぅ..まだ、さみぃな..」


「....あったけぇ。」


「ちょ場所変われよっ」


 学校へ着くと、職員室によるらしい久留米と別れ、教室へと一足先に着くとストーブの前で、何やらクラスの男たちが談話していた。


「やっぱ、久留米さんだよな。」


「あーわかるわ、淑やかで誰にでも優しい、理想的な女性って感じ!」


「俺は青鷺さんだな」


「梅原!良いとこつくな」


「へへっ、だろ?」


「僕は虎野さん。」


「「「っ?!」」」


「...お前、正気か?」


 この学校では楢崎、虎野は相当な美人ながらも、あの気の強さと面倒さから例外的な存在だったで敬遠されていたが、彼は違うようだった。


「うん。僕をいじめてくれそう...ぐへへ..」


「お、おう...」


「まぁ、そういうのもあるか..」


篠蔵たちは若干引いてはいたものの、そういうものあるかと腹に落としていた。


「お前らな」


「おっ、海道!お前はどんな女子だタイプなんだ?」


 流石に知ってるやつが変な想像に巻き込まれているのは、見逃せなかったので諌めようとしたが、逆に話をふられてしまった。


「...思いつかねぇ。」


虚を突かれたかのように、そういえばと考えてもいなかった事を思案した。


「はあ?嘘つけ、この学校ありえんぐらい美女が揃ってんのによっ、それはないだろ....」


「で、この学校の女子だと誰がいいんだ?」


楢崎服装事案から、海道くんは無駄に同性からの親しまれているため、彼らから妙に興味を持たれていた。


「そうだな.....」


「「「.....」」」ごくりっ


彼は周囲から怖い印象を持たれているが、それを覆す程、実は異性からの支持が強く、そういった彼の好みというのは興味がそそられるもので、なぜか教室内では変な緊張感が漂っていた。


(....前の世界でも、芸能人とかアイドル、有名人とかを見ても大してピンと来なかったしな....今だって、そいつら以上に顔やスタイルが整った奴らはいるが、まだ本気で手に入れたいとは思わないしな....)


「....あ」


一方、彼は前の世界も含めて考えを巡らせていると、ちょこんと場に混ざっていた白木と目が合い、答えが降りてきた。


「....白木。」


「ぅぇっ?!」


「「「?!」」」


突然、名前を出された白木は顔を好調させながら赫く綺麗な目を見開き、信じられないといった様子で口を押さえていた。


「え?!白木は確かに可愛いけどよ....男だぞ?」


「「「うんうん」」」


「今は、性別は関係ないからな。」


篠蔵の正論に他の男も同意していたが、海道はそう言いながら、先よりもどことなく距離が近くなった隣ちょこんと居る、満更でもなさそうな白木の華奢な体を自分の元に寄せた。


「うぅ..んぅ...ちょ...海道...くん...」


白木は恥ずかしさを滲ませながらも、抗えぬ何かに身を任せ、一杯一杯に赤くなった顔を彼の胸元に埋めた。


そうして、半ば冗談まじりに白木を娶っていると、後ろの方から誰かが座り込む音が反響した。


バタンっ


「え...なーちゃん?!」


「やっぱり、何かおかしいと思ってたんです....グスッ..」


「いや、あれは多分...」


「..あいつら」


ーーーーキーンコーンカーンコーン


 そこには座り込んでしまった青鷺を慰めている久留米の姿があり、おそらく盗み聞きしていたであろう彼女らの元へと向かい話しかけようとしたが、いつもタイミングよく鳴るチャイムにかき消されてしまった。


空調が完全完備なこの学校は、教室の室温は年中快適な温度に保たれており、朝ごはんを食べ寒空の中登校して、暖かい教室で単調な授業を受けるとなると、ご覧のような有り様になっていた。


(.....3分の1は寝てるな。)


成績に全く関係のない教養の時間で、ただ昔の映画を見るだけの授業というのもあってか、ほとんどの生徒が夢見心地に寝ていた。


普通であれば、非常勤らしい先生が注意すべきであろうが、その非常勤の女も前髪で目元を隠しながらガッツリ寝ていた。


(....俺も寝るか。)


「......。」


映画の内容も、高校バスケの話で王道漫画のパクリみたいな内容だったため、早速アイマスク代わりの帽子を取って寝ようとしたが、妙に食い入るように見ている篠蔵が目に入った。


「....そんな面白いか?」


特に声をかける必要はなかったのだが、退屈のあまりかつい彼に話しかけてしまった。


「っ...あー、ちょっとな。」


すると、彼は目を外す事なく、どこか気恥ずかしそうにそう答えた。


(....そういや、こいつ中学はバスケ部だったような、でもここでは帰宅部だったような....)


朧げながら、中学でよく壇上で優勝の旗を持っていた憧憬が頭に浮かび、それに加え、今はバスケどころか、部活にすら入っていないのを思い出した。


「......。」


一向に、映像から目を離そうとせず真剣そうに視聴しているその瞳は、俺にはない何かに没頭できる人間特有の熱さが滾っていた。

それこそ、夏休みに数日だけトレーニングの一環で関わった、アメフトの代表選手と同じ熱さが感じられた。


彼が部活に入っていない訳には、バスケ関連だから、膝か、あるいは致命的な腰に取り返しのつかない怪我を負ったか、それともイップスのような精神的な要因か...


まぁ、聞けばわかる事ではあるが、そういったデリケートな部分にここ最近話すようになった程度の俺が、踏み入ってはいけないという分別は持っているつもりだ。


だが、仮に怪我だとしたら、この前屋上でサボってた時に、ぼんやり校庭を眺めていたあの時にフィールドをぶった斬るようにサッカーで無双していた篠蔵への説明がつかない。


ということは、イップスという線が考えられるか.....


とういうか、こいつ。ゲームの時もなんか変だったな....関係性はあるにしても、主人公に対して献身的すぎるというか、仮に現実の今のこいつとゲームのこいつが同じ人格だとしたら、できれば距離を取りたいくらいあまり関わりなくない程、病的に主人公に協力的過ぎる。


今は、主人公である芝春は桜楼一筋ルートをクリア?してるから、篠蔵の役割は特にないから、そんな気がないと言えるから、そこまでゲーム程のキモい献身さはないのだろうが、


しかし、だったら、なんで....


横目で篠蔵の様子をチラ見しながら邪推していた、海道は到底素人では立ち入れない領域に仮説が飛んでしまい、ますますその訳を聞けずにいた。


(....情報が少ないな、少し癪だが久留米に聞くか)


それでも、篠蔵に直接聞くのは気が引けるため、後で何でも知ってそうな久留米から聞く事とし、整理のついた彼は夢の世界へと沈んでいった。


「ーーー・・きて...起きて、海道くん。」


そうして、2時間半の映画分寝た彼は側頭部あたりから、聞こえる甘く優しい声に起こされ帽子を取ると、そこには白髪緋瞳の天使がいた。


「...ぁ、天使。」


「なっ....もう、その....もうお昼だよ。」


思ってもなかった言葉に、顔を赤ながら顔を逸らす天使こと白木は昼休みになった事を教えてくれた。


「そうか、悪いなわざわざ。」


「あ、うん.....というか.....お昼一緒食べよ?」


良い睡眠が取れスッキリした頭で、礼を伝えると白木はモジモジしながら本来の要件を話した。


「っ!...あぁ。行こう。」


「うんっ!」


色々と起きた彼は立ち上がって、白木との時間を一分たりとも無駄にしないようにいつもの屋上へ向かうと、途中で久留米と青鷺と会ったため久しぶりに一緒にお昼を取ることとなった。


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