SIDE-A-03
八月三十一日。
妻が、僕の知らない間に男に言い寄られたらしい。
とても困っているようだった。
相手は、同じ会社の人間だというではないか。
妻が辛い表情を浮かべながら僕に話してくれた時に僕は、ちゃんと話を聞いてあげられていただろうか。
正直言うと、僕の心の中は穏やかではなかった。
妻が異性を会話することは構わない。
僕だって、異性と会話なしなで生きていくなんて不可能だ。
それが、昔の彼氏であっても構わない。
けれど・・・・・・。
妻を苦しめるのは違うのだ。
僕だけの妻を苦しめるのは赦さない。
どうにかして、彼を妻から遠ざけないといけない。
方法はどうしたらいいだろうか。
会社で直接話す?
いやいや、それをすると妻にまたくだらないメッセージを送る口実にさせてしまう。
いっそ殺してしまうというのはどうだろう。
いやいや、それをして、警察に捕まらないなって保証がどこにあるんだろうか。
僕の頭の中はぐるぐると渦巻いて答えが出ない。
そういえば、今日の朝のコーヒーも美味しかったな。
そう思うとさらに、相手が憎らしく思えた。
こんなに僕を思ってくれる妻を苦しめるなんて・・・・・・。
ひとしきり考えた後、やっぱり答えは出なくて、それを忘れるように僕は仕事を再開した。
仕事をしている最中も、キーボードの横に置いたスマホで、復讐、方法、バレない、などと検索している自分に気が付いた。
こんなことをしていては、よくないと反省して仕事を再開する。
ずっとそんなことを繰り返して、一日が過ぎてしまった。
家に帰宅すると、妻はいつも通りの食事を用意してくれていて、僕はホッとした。
「どうしたの?今日は元気がなさそう。もしかして昨日のことで悩ませてしまったのだったらごめんなさい」
妻は唐突に僕への心配と気遣い、それに昨日のことを謝ってきた。
ホッと落ち着いた僕の気持ちは一気に戻ってしまった。
二宮くんは、僕の愛する妻に言い寄り、僕をこれだけ悩ませ、さらに妻にここまで気を遣わせた。
そう考えてしまう。
その後珍しくお酒を飲んでみても、風呂に入ってもその気持ちは膨らみこそすれ、治まることはなかった。
どうしたものか。
その時ふと思ったのだ。
これまで考えて考えて、また考えないように考えないようにしていた答えが出た。
「そうだ。処分しちゃえばいいんだ」