SIDE-B-03
八月三十日。
スマホが壊れてしまった。
私のスマホの画面が割れてしまい、四年間使っていたお気に入りのスマホが使用不能になってしまったのだ。
「今日スマホの機種変更に行ってくるね。だから夕飯はもしかしたら、ありあわせか総菜になっちゃうかも」
そう夫に告げたところ、二つ返事で了承してくれた。
何なら、いつも家事を頑張ってくれているんだから、たまには夕飯の支度なんて気にせずゆっくりした方がいいと言ってくれた。
私にはもったいない夫だと思う。
だからこと、夫に何かあったら全力で力になってあげなければいけないと思った。
機種変更を済ませて、メッセージアプリを再度インストールした。
アカウントに紐づけた連絡先が再度表示された。
結婚したときに、夫のためを思って異性の連絡先はすべて削除していたけれど、新しいスマホで復元したら過去削除した相手まで復元されてしまった。
少し驚きはしたけれど、ふと目に留まった名前になつかしさを覚えて、久しぶりとだけメッセ―ジを送ってしまった。
夫は、私が異性の連絡先を削除する時にそんなことをする必要はないし、異性との連絡を断つこともしなくていいと言ってくれていたので、少しぐらい懐かしい相手とメッセージのやり取りをしても許されるだろう。
それに私は、夫一筋なのだから問題ない。
すぐに相手からも返信が帰ってきて、ここ最近の近況などを教えてくれた。
どうやら、私が最後に会話したときに付き合っていた彼女とは別れてしまっているらしく、彼女募集中とのことだった。
会話を続けていくうちに、なぜか私に会おうとする誘いのメッセージが多く送られてきた。
私は夫一筋なのだ。
そういう言葉を投げかけられても靡くつもりもないし、正直困るのだ。
私から話しかけておいてとは思ったが、また機会があったらと適当に濁して会話を終わらせることにした。
そういえば、私が会社にいるときも、彼は短い期間で彼女が変わるような人だったなと思い出した。
夫に隠し事をするのは気が引けるので、夫が帰ってきたら今日のことは報告しておこう。
夫が帰宅して、夕食が終わった後に、夫に今日のことを打ち明けた。
「今日、スマホを機種変更してメッセージアプリをインストールしなおしたら、昔消した人まで復元しちゃったの」
「そうなんだ。せっかくなんだからそのままにしておきなよ」
「ありがとう。それでね、前に会社にいたときに仲の良かった二宮くんに久しぶりって連絡しちゃって・・・・・・。そしたら、会いたいって言われて、断ったんだけど、なんだか申し訳なくて」
「気にすることないよ。二宮くんってあれでしょ。彼女がちょくちょく変わるっていう」
「そう。その二宮くん。悪人ってわけじゃないし、なんだか懐かしくなって」
話をする間、夫は一瞬も怒った素振りを見せたりはしなかった。
それどころか、話してくれてありがとうと言ってくれた。
なんて、優しいのだろうと思ったし、なんて申し訳ないことをしたのだろうという自責の念が膨らんだ。
もしかすると、私は、この人を苦しめる何かがあった時、その解決策が殺人でもできてしまうのではないだろうかと思った。