SIDE-B-02
九月七日。
今日の夫は残業になったらしい。
さっきメッセージが送られてきた。
きっと仕事が忙しくなったのだろう。
夫が帰ってくるまで起きて待っていよう。
いつものルーティンを終え、食事の準備も終わり、あとは帰りを待つだけだ。
それでもまだ時間が余っている。
そういえばそろそろ家に溜まったゴミを捨てるために、荷造り用の紐がないのだった。
私は近くのホームセンターに車を走らせ、買い物をすることにした。
購入したのは、荷造り用の紐、庭の雑草のために除草剤、最近やけに切れ味の落ちた包丁を研ぐつもりで砥石とついでなので新しい包丁を買うことにした。
どういうわけか、最近、我が家の包丁の刃がかけてしまっていて切れなくなっていた。
何か固いものを切ったということはないはずなのだけれどどうしてだろうか。
そろそろ夫を待つのにいい時間だったので、帰宅し夫を待つことにした。
夫が帰ってきたのはそれから五時間を過ぎたころだった。
どうやら、二宮くんのお兄さんと会って、しかもそのお兄さんが夫の友人だったらしい。
珍しく夫が気落ちしていて、元気がなさそうだった。
私の作った料理で少しは元気を出してくれるといいのだけど・・・・・・。
「僕、あいつの力になってやりたいんだ。今すごく寂しいらしくて、何かいい方法はないかな」
元気のない夫はほそぼそとその言葉を口にした。
「お兄さんも、二宮くんと同じところに連れてってあげるわけにいかないものね」
「おい。そいうことは冗談でも言っちゃ駄目だろ」
夫の目が怒っている。
夫を怒らせるようなことを言ってしまって申し訳ない。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。少しでもあなたに元気を出してほしくて。でも言っていいことと悪いことがあったよね」
でも、夫がこんな顔になるなんてかわいそうだと素直に思った。
そして、どこか心の底がざわつく感じがした。
少し心を落ち着かせて、私も夫の力になりたいと思った。
きっと二宮くんのお兄さんが元気になれば、夫も元気を出してくれるのではないかと思ったのだ。
「また話そうって雄太と約束してるから、それまでに何かあいつの元気が出ることを考えてやりたいんだ」
そういう夫は少し前向きな目をしていて、やる気が出ているという雰囲気だった。
一般的な人間関係なら、落ち込む原因の元を断ってしまえば解決することも多いけど、今回はそういうわけにもいかない。
何をしてあげればいいのだろうか。
「あいつ、弟と代われるなら代わってやりたいって。すぐにでもそばに言って声をかけてやりたいって言ってたんだよ」
それは無理な話だ。死んでしまった人間の代わりはできないのに。
私はさらに頭を混乱させながらどうしようという気持ちを抑えて夫に言った。
「私も考えてみるから、次に雄太さんに会う日は前の日に教えて。それまで考えたことをあなたに伝えるから」
夫は一言ありがとうと言って寝室に行ってしまった。
私も、夫の力になれるように頑張らないと。