SIDE-A-02
九月七日。
昨日の話題があって、会社はまだ混乱しているようだった。
表面上は通常業務をしているようだが、複数のいろいろな人が会社に出入りしている。
たかが人一人死んだぐらいでなんでこんなに騒ぐのかわからないという思いだった。
昨日妻は少し落ち込んでいたようだし、やはり同期の死は重いことなのか。
今日は、何か喜ぶものを買って帰ろうかな。
午前の仕事は順調だった。
というより、本当に別日に変更できない打ち合わせ以外は、上司たちが捕まらない状況になっていて、会議という会議が延期になっていたのだった。
僕の仕事は、システムエンジニアだから何かしらの決定をする会議さえしっかりと実施していてくれさえすれば、作業が止まるということもない。
上司からの無理難題を言われる機会が減って、何ならいつもより平和とさえ思えてくるのだ。
そんなことを考えている時に、会社に来客があった。
どうやら二宮くんのお兄さんとのことだった。
そこそこ大きな会社に勤めている僕だが、来客が応接室まで移動する間に来客とすれ違うこともたまにある。
驚いたことに、僕は二宮くんの兄と知り合いだったのだ。
「雄太?」
すれ違う時声をかけられた。
顔を見ると、大学時代の友人だった。
「晶?」
驚いて僕も声を発した。
それにしてもおかしい。
雄太の苗字は二宮ではなかったはずなのだけれど・・・・・・。
一言二言言葉を交わして、この後少し話をしたいと言われた。
僕としても、久しぶりの友人との会話が楽しみだったので了承し、昼休みの時間に話をすることになった。
昼休みになり、雄太と連れ立って近くのカフェに入ることにした。
お互いにアイスコーヒーを頼むことにした。
「久しぶりだよな」
雄太の声はひどく暗く、弟が亡くなったことを誰でも感じられそうな声だった。
「おう。久しぶり。弟さんだったんだな。苗字が違うから気づかなかったよ」
僕の声は、どこまでも平坦で、上りもしなければ下がりもしない声だったと思う。
「子供のころにな、親が離婚して、それぞれ別に引き取られたから苗字が別なんだよ」
「そうだったのか」
少し沈黙が続いたあとに、雄太は言った。
「弟は殺されたんだ。誰にやられたのかはわからないけれど、刃物でめった刺しだったらしい・・・・・・。なんであいつがあんな目に遭わなきゃならないのかわかんないよ。代われるなら代わってやりたいし、すぐにでもそばに言って声をかけてやりたいけどそれももうな・・・・・・」
ところどころ声を詰まらせながら話す雄太に、素直に辛そうだなと思った。
「つらいな」
思っていたことがそのまま口を出た。
「普段から、そんなに話す方ではなかったんだけど、病気とか事故とかそういうのじゃなく、突然殺されましたっていわれると、急に寂しくなるんだ。会いたい、話したいって」
僕の心はここで大きくざわついた。
そうか、雄太は寂しいのか、と。
雄太とはかなり大学の頃から仲が良くて、それこそ普段から同じ講義を受けたりしていた。
就職後は気づいたら疎遠になっていたけど、辛い表情で話す雄太を見ると、どうにかして救ってやりたい、力になってやりたいという感情が溢れてきた。
何をしてあげれば雄太のためになるのだろう。
そうこうしているうちに昼休みの時間も終わってしまい、また話そうという約束をして別れることになった。
そこまでに二人とも二杯のコーヒーを飲んでいた。
なぜかふと、妻の淹れたコーヒーの方が何倍も美味いなと思ったのだった。
そのあとの仕事は頭が雄太のことでいっぱいで、とても捗るような状態ではなく、僕は若干残業をすることになった。