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その反応は娘に向けるものとしては不自然に思えた。彼女が言うように、本当にこの家では彼女の存在を黙殺しているのだろうか。彼女の両親の様子をそれとなく伺うと、二人はチラリと扉の外の気配を気にしていた。それから、ほっと胸を撫で下ろし、ようやく口を開いた。
「そう、友達なのね……いらっしゃい」
母親の方から言葉が発せられた。その声は優しげであったが、どこか機械的でもあった。
「こんにちは……」
僕はぎこちなく頭を下げた。
「ゆっくりしていってください」
母親はそう言うと、再び口を閉じた。
「ありがとうございます」
僕は礼を言うと、彼女に促されるままにリビングを後にした。背後から「ごめんなさい……」という囁くような謝罪の声が聞こえた気がしたが、気づかないふりをした。
僕達は二階にある彼女の部屋へと向かった。部屋の造りはシンプルだったが、可愛らしい小物がたくさん置いてあった。女の子の部屋だ。
僕は少し落ち着かない気分になった。
「どうぞ、座ってください」
彼女はベッドの端を軽く叩いて言った。僕は言われるまま腰かけた。すぐそばにいる彼女の香りが鼻腔をくすぐる。なんだかドキドキしてきた。変に緊張しているのを隠したくて、僕はつっけんどんに彼女に問いかけた。
「それで……どうするんだ?」
「まずは……」
彼女は考え込む素振りを見せた後、今後の方針を語り始めた。彼女の計画は、お兄さんの目の前で僕たちが仲の良い兄妹のふりをするというものだった。
「今更だけど、お兄さんの前で僕たちが兄妹を演じるというのは不自然なのでは?」
「きっと大丈夫です。まぁ、再現ドラマのようなものだと思っていただければ」
彼女の瞳には強い意志が感じられた。僕は彼女の決意が本物であることを悟った。
「……わかった。やろう。君の言うとおりにする」
僕がそう答えると、彼女は心底ほっとしたように詰めていた息を吐き出した。そして、僕の手を両手で包み込むようにして握る。
「ありがとうございます」
「いいんだ。でも……」
「でも?」
「いや、なんでもない」
首を傾げる彼女に、僕は微笑みかけた。真剣な彼女を見ていると、うまくいかなかった時のことなど言えるはずがなかった。
「大丈夫だ。きっとうまくいくさ」
彼女は一瞬きょとんとした空気を放ってから、小さく吐き出すように笑った。
「ふふっ。はい」
それからしばらく話をした。彼女がお兄さんとの思い出を語り、僕がそれについて質問するという形だった。