危機と転機
この数ヵ月に順調すぎるダンジョン防衛で油断した。
しかし、冒険者がそこまで強いとは考えていなかった、まさかワーウルフでさえ簡単に倒されるほどとは想像もできなかった。
あの二人組はいつまだ来るかもわからない。
次にあの二人組がまた来たら、前回のようにそのまま帰るとも限らない。
(どうしよう……)
三日間である程度にダンジョン防衛の配下を補充したが、解決の糸口は見つからないし、気晴らしにゴブリンたちも侵入して来なかったし、まるで死刑判決されて執行を待っている囚人みたいな気持ちでどんどんネガティブに堕ちてしまった。
(かなわない敵から逃げるのは普通だけど、私動けないし……)
考えている時にふっといいアイデアが降ってきた。
(配下モンスターが武器を持つことができるから、それなら私を持って逃げることができるかもしれないじゃない?)
試しにワーウルフに私を台座から持ち上げるよう命じた。
持ち上げられた瞬間に何らかの繋がりが切れたような奇妙な感じをした。
多分その台座は私と地面のチカラとの繋がり役でしょう、地面からチカラを吸い上げて効率よくDPを回復することができなくなるのはかなりの痛手だが、魔石を吸収して少しだけDPを回復手段もあるから、まずは自分の命のほうが大事だ。
ワーウルフは私を掌の上に持って移動することができることが確認した、では早速外に逃げ出そうと思い、配下たちに護衛してもらい早くこの場所を離れよう。
コアルームから第三防衛ルームに移動した時に不思議なことを発生した。
まずは第三防衛ルームに設置した癒しの泉が枯れてしまった、それだけでなく同じく配置したモンスターたちがまるで人形のように呆然と立っていて、命令しても何の反応もなかった。
多分私が台座と切り離して時にダンジョンの制御権も無くなったでしょう、でも私を持っているワーウルフがちゃんと命令を聞いて動いているから、まだ大丈夫。
配下たちに集団で護衛してもらうことができなくでも、今はここを離れることが最優先事項だから、別の安全なところでまたもう一度ダンジョンは設定して配下を召喚すればいい。
急いてワーウルフをダンジョンの出入り口に目指して、脱出しようとする時、ワーウルフは出入り口で見えない壁でもぶつかったように足を止まってしまった、同時に私の視界に不穏な吹き出しが表示された。
【現ダンジョンを放棄しますか?】
【ダンジョンを放棄することで現ダンジョンの設置物及び全モンスターが廃棄することとなる】
ダンジョンの設置物はいいけど、全モンスターが廃棄したら、今私を持っているワーウルフも含まれているでしょう。
つまり洞窟を出たらモンスターが全廃棄した瞬間、ワーウルフも消えてしまい、私が移動する手段が無くなり、森に落ちている輝く小石になる。
これはだめだ、こうなったらあの二人組が戻ってこなくても私がオオカミやゴブリンに拾われて支配されるか吸収される未来にしか見えない。
(せっかくいいアイデアだと思ったのに……)
仕方なくワーウルフに私を台座に戻すように命じた。
沈んだ気持ちで台座に戻されて、ダンジョンの機能が回復された。
制御権も戻り、どうしようもなく召喚モンスターのリストを眺めながら、あの二人組に対抗でき且つ召喚できるモンスターはあるかを考えていた。
以前にはなかった「無機物」の項目に目を移した、多分この間にレベルアップした時にいつの間にか追加されたでしょう。
追加された召喚できるモンスターに「プチゴーレム」「ゴーレム」「魂無き人形」があった。
試しにプチゴーレムを召喚した、召喚する時【素材選択】に「木」「土」の選択肢が表示された。
どうやらゴーレム系のデフォルト設定素材は木であり、追加費用を支払えば強化できるみたい。
プチ土ゴーレム一体で召喚してみた、召喚費用としてはコボルド二匹ぐらいで、多分コボルドより強いでしょう。
身長的にはコボルドとほぼ同じで、土で構成された体でそれなりに頑丈そうに見える、コボルドを軽く持ち上げるほど力持ちもあるけど、動きはかなり鈍い、数を揃えてもコボルドのほうが使い勝手がいいと思った。
次にゴーレムを召喚してみようと思ったけど、先に気になった「魂無き人形」の項目に目を移した。
この「魂無き人形」の項目に説明文の記述がある。
「意思を持たぬ人形、ゴースト系モンスターの依り代として実体を持たせることが可能、外見は憑依したモンスターを基準に変化する、或いは魔石を入れ、制御することも可能」
(なるほど……これはゴースト系モンスターを強化する装備みたいなもの)
(魔石を入れてこの人形を操作する……もしかして……私を入れることで私が人形を操作することができはかも!)
これなら自分で動くことができる。
このモンスターが自意識はないから、私がその体内に入れても主導権は奪われる心配もないはず。
(最終手段として、私がこの人形を支配しながら吸収して『変異進化』したら、あの二人組に対抗できるモンスターになれるかもしれない、自分の身は自分で守る!)
わくわくしながら魂無き人形を召喚した。
光とともに現れたのは外見的にまったく特徴がない人形がコア台座に背もたれているように座っていた。
次にワーウルフに私を持ち上げて、人形に入れるようと命令した。
ワーウルフがその人形の胸の部分を開き、小さいな空間に私を入れた瞬間先と同じように棒立ちの状態になった。
人形の収納空間に入れられた途端、視界にまた吹き出しが表示された。
【ここをダンジョン領域にしますか?】
【設定する場合、前ダンジョンは廃棄となる】
(えっ!?この人形の内部をダンジョンとして設定することができるの!?)
たしかにダンジョンコアは洞窟など無機物の空間をダンジョン領域として設定することができるが、まさかこの人形の収納空間にもできるとは想像はできなかった。
(しかし……この人形を新しいダンジョン領域と設定した瞬間、前ダンジョンモンスターとして廃棄され消えることはないよね……)
もしうまくいけば私であるコアはダンジョン(人形)を離れることなく、この洞窟から離れることができる。
(どうせこのままではまたあの二人組が戻ったら終わりだ、試す価値はある!)
恐る恐るに「設定する」と念じたら、人形は新しいダンジョンとなり、隣にいるワーウルフが光の粒子となり消えたが、人形がそのまま残った。
(や……やった!)
人形の収納空間がそのままダンジョンのコアルームとなり、私が新しい台座に置かれている。
そして、また例の吹き出し【出入り口の設定】が表示された。
(やはりダンジョンだから出入り口の設定は必要だよね……)
とりあえず外に繋がる穴であれば人形の口かなと思い、口をダンジョンの出入り口として設定。
すると人形の胸の位置にあるコアルームから直接に繋がった。
次にこの人形に憑依して、自分で操作できるかを試す。
以前視線をダンジョン内で動かすように自分の意識を人形全体に及ばす。
(おおぉ!)
視線が人形の視線となった、そして手を動かすこともできる。
しかし興奮して、立ち上がろうとした瞬間転んでしまった、しかも顔がそのまま元台座の岩にぶつかった。
(痛っ……くない?)
感覚的には着ぐるみをしているみたいに、まだうまく動くことができない、口から声もまだうまく出せない。
(大丈夫、多分そのうち慣れればうまくできるでしょう)
頑張って岩にしがみついてようやく立つことができた。
視線と岩の高さを比較すると、かなり身長が縮んだみたい、元々人形はワーウルフと同じぐらいの高さで、あの二人組とほぼ同じ高さであるが、今の私の身長はコボルドよりちょっと高いぐらいになったみたい。
たしかに憑依すると外見が憑依したモンスターを基準に変化すると書いてあったから、今の私の外見は多分あのはっきりしない記憶の中にまだ人間であった時の自分の姿かもしれない。
そして、視線を下に向くとちょっとした膨らみが見える。
(私……全裸の女の子)
先に書いた大筋は本文を書いている間にどんどん変更や廃案になってしまいました……(꒪ཫ꒪; )