幕間 ベルントフ領のある町
「マクスル支部長、ゲオルクさんを連れてきました」
「ちょうどいい時間だ、入ってくれ」
書類資料を詰め込んだ本棚と書類が積み上げた机でやや狭く感じる執務室に三十代後半で茶色の髪の毛の男性が入ってきた。
「ギルドに来たら急に受付嬢に指名の任務があると聞いたが、何かあったか」
「こっちの処理はすぐ終わるからとりあえず適当に座って聞いてくれ」
「最近ヘンデル山脈の辺りに不穏な動きがありそうだ」
「あぁ、さっきギルドに来た時ロビーでも噂になってる」
「なにしろその山脈近くの森外縁で活動する冒険者が魔物の動きが急に活発になった気配があると数多く報告が上がってきたから、領主のほうにも魔物のスタンピードを警戒している」
「だからゲオルク、お前のチームにヘンデル山脈の森を調査してほしい」
「こういう調査任務は慣れてるからいいけど、こっちの四人チームで森全体を調査するのはかなり時間が掛かる、こんなに悠長なことをしていいのか」
「それについて心配はいらない、上がってきた報告を分析したら、ある程度怪しい区域を絞ったから」
そうしたら支部長がゲオルクが座ってるほうにきて机に地図を広げた
「多分この方向の区域に異変があると思われる、お前らもここを中心に探ってみれば何かがわかるだろう」
「たしかにこの範囲ならそう時間はかからない、わかった、物資を準備して明日にはそこに向かう」
「なら頼む、とりあえず情報がほしい、お前らが戻ったら領主のほうも報告を同席する人をこっちに派遣してくるぐらいだ」
「わかってる、だからこそ俺らを呼んだだろう」
「その通りだ、依頼書はすでにエルナに作ってる、下に戻ったら彼女のほうに行ってくれ」
「わかった、では行ってくる」
=数日後=
「隊長、これはちょっとやばいかも……」
「あぁ、魔物どもがかなり興奮してるな、やはり何がある」
ゲオルクは足元に倒れこんだゴブリンたちの死体を見ながら考え込んでいた。
「目標区域に到着までまだ先だけど、気を抜くな、アンゼルム、お前は高所で移動して向こうに先行し周辺警戒してくれ」
「ハンネスとマティは近接警戒で俺についてこい」
森に入ってしばらくするとゴブリン集団の襲撃に遭った、ゴブリンなら蹴散らすことはそう難しくないが、気になるのが元々ちょっとでも不利を気づいたら一目散に逃げ出すゴブリンがなかなか撤退しなかったことだ。
さらに森の奥に進み、三日を過ぎて、途中で数回オオカミやゴブリンの襲撃があったが、特に問題なく探索し続けて、調査区域に到着したところに異変を見つけた。
「瘴気がひどいな」
「これなら高位種の魔物がいるかも」
「隊長、これからはどうする」
「マティ、俺らのすることは調査だけだ、その発生源を見つけたら生きて戻て報告するのが任務だ」
その時に高所で偵察するアンゼルムが全員停止の合図を出した。
どうやら発生源を見つけたらしい、地面にいるメンバーはアンゼルムがいる木の下に着いたら、アンゼルムが降りて説明を始めた。
「この先に洞窟を発見した、あそこから目に見えるほど瘴気を垂れ流してる」
「あの洞窟に居座る魔物が地脈を吸い上げてるだろう、この周囲の土地と植物にかなり影響を与えてる」
「俺とハンネスが偵察に行く、アンゼルムお前は上に戻り警戒しろ、マティはここで後備えとして待機、アンゼルムの撤退合図があれば、お前はすぐ逃げろ」
各々が配置についたら、ゲオルクたちが警戒しながら洞窟に入った。
「ハンネス!コボルドとワーウルフだ!コボルドはお前に任せる」
「おいよ!任せろ」
チーム内で唯一鎧装備するハンネスが盾でコボルドたちの攻撃を防ぎながら片手斧で順調にコボルドを倒していく。
「ゲオルク、ここはダンジョンだ、こいつらを倒したら消えたぞ、注意しろ」
「ワーウルフは俺に任せてお前はまずあいつらを片付けろ」
数こそ多いが所詮コボルドだ、ワーウルフは多少手間かけるけど、それほど問題にはならない。
戦ってる間さらに奥からそろぞろと増援のコボルドとワーウルフも出てきたが時間をかけて全部倒した。
やっと一区切りとなったと思った時に、一匹のオオカミが急に奥から出てきて襲い掛かってきたがハンネスの一撃で討伐した。
「ゲオルク、先に進むか」
「いいや、撤退だ、これ以上強い魔物がいれば俺ら二人の手に余る、さらにここの瘴気がひどい、浄化できるやつを連れてきてないから先に進むのは無理だ」
二人が合流ポイントに戻ったところ、上からアンゼルムがワーウルフとコボルドの集団がこっちに接近していると警告してきた。
「撤退してよかった、マティには先と同じのワーウルフとコボルドの集団らなちょっと危なかったかも」
「ハンネス、お前は心配しすぎだ、あいつは一番若いだが、俺が声をかけたやつだ、もう数回一緒に行動したから少し信用してあげよう」
「大丈夫だ、ハンネスさん、自分の身を守るぐらいならできるさ、アンゼルム先輩もいるからワーウルフとコボルドなんで簡単なもんよ」
「マティ……そういう考えが一番危なっかしいだぞ」
「お前ら、おしゃべりは後だ、向こうはまだこっちを気付いてない、アンゼルムの弓がワーウルフを攻撃したら、こっちも打って出るぞ」
「マクスル支部長、ゲオルクさんが戻ってきました。」
「おお、ちょうどいいところだ、さあさあ早く入ってこい」
ゲオルクが執務室に入った時、支部長以外にもう一人がいる。
「こちらが領主様の代理者である、兵士長のゲッツ殿です」
「君は例の調査任務を受けたゲオルクさんだな、早速ですが、調査結果を教えてくれ」
「ああ、とりあえず悪い知らせだ」
そうと言い出すと支部長と兵士長の顔が一気に真剣になった。
「ゲオルク、座って詳しく教えてくれ、兵士長殿も落ち着いて聞いてから領主様に報告してください」
三人が座って一呼吸置きにしてから、ゲオルクが語り始めた。
「まず結果として、ダンジョンを発見した、ダンジョン内でコボルドとワーウルフを遭遇した、さらにそのダンジョンには上位種の魔物が居座る可能性が非常に高い」
「お前らのチームでも奥まで探索できないほどのダンジョンか」
「それはもう一つの問題だ、そのダンジョンの奥から尋常じゃないほどの瘴気が垂れ流している、だから俺のチームは入口近辺以上のフロアに侵入することができない」
「さらにその瘴気はダンジョンから外に出ていて、周辺の魔物が狂暴化している」
「これは面倒なことになってしまったな」
「マクスル、もっと面倒なことがあるぞ」
「まさかスタンピードの予兆が……」
「いいや、俺の見立てでは魔物が狂暴化したが、大量発生してスタンピードに発展する可能性が低い」
「ならばもっと面倒なこととは……」
「そのダンジョンの奥にいる上位種の魔物が地脈を吸い上げてる、すでにダンジョン周囲の植物と土地が影響を受けている、そしてその影響は次第に拡大すると思われる」
「ゲオルクさん、これは一大事だ、自分はすぐに領主様に報告をしに戻る、この話はしばらく口外してはならない」
「多分領軍が動くだろうが、一刻も早く討伐軍の編成が必要だ」
「兵士長殿、それはちょっと待ってほしい、俺がダンジョンに入ったところ、そのダンジョン内部はそう広くない、軍の運用は難しいと思うぞ」
「ならば、少数精鋭で討伐するしかないか……わかった」
「それと領主様に教会の応援要請も必要だ、その瘴気はかなりひどい」
「もちろん冒険者ギルドも協力するつもりだ、ゲオルク、すまないがお前のチームは討伐隊に参加してもらう」
「ああ、問題はない」
「それでは自分はこれで失礼する、討伐隊編成したらすぐ出発だから、ゲオルクさんもそのつもりで準備し待機してくれ」