辺境の町フルカ②
彼女の名前を決めたら、そろそろ町の西門が見えるところまで帰ってきた。
そのまま一緒に町に入るのもいいだけど、今の私が宿屋で住み込みの仕事をしているし、あの部屋は二人で住むことにはあまりにも狭かったから、周りに人がいないことを確認したら、アンジェリカの手を触ってダンジョン内に戻るように命令した。
西門に到着する時にあの門番の兄さんがこっちを見て慌てて走ってくる。
「何があった!?怪我はないか?」
と言いながら私を門番の救護所に連れて行こうとする。
「大丈夫です、怪我などはありませんから」
どうやらさっき森の中で地面に取り押さえられたせいで私は顔と服が所々汚れているから、何か危険な目に遭ったかと聞かれたが、今回の事件は何も言わないことにする。
「だから女子供一人であの森に行くのが危ないって、無事ならいいけど、やんちゃするのはもうほどほどにな」
一応無事であることを確認されたから、ようやく解放されて精算所に向かうができる。
「なぁ、カロー、お前はあの子に気があるなら早めに告って貰っとけ」
「ななな何を言ってる、あの子はまだ10歳ぐらいの子供だぞ」
「あのさ、あの子はあと数年で絶対に美人さんになるから、誰かさんに取られたらもう遅いぞ、俺がもっと若ければ絶対そうする」
「からかわないでくださいよ……奥さんに言付けてやるぞ」
「ははは……それだけは勘弁してくれ」
聞こえているよ……
というより、この世界の結婚できる年齢の下限はそんなに低いなの?
その後いつも通り精算所に行ったが、まだ昼頃だから他の冒険者はほとんどいないスカスカになっている、かなり早めの帰りと採取成果の少なさからほとんどを時間掛からずに清算が終わった。
精算所に出ようとする時に急に職員の人に呼び止められた。
「君は女の子だからせめてきれいにしてからに町に入れ」
言われた通りに奥の解体処理所の井戸を借りる、さすがにここで服を脱いで体と服を洗うことはないから、出来るだけ服の汚れを落としてから手と顔をきれいにした。
清算票を受けたからそのままギルドに向かうのもいいだけど、エルナさんにも色々聞かれて心配されるのが避けたい、もし二度と町外の依頼を受けられなくなったら非常に困ることになるから。
まだ時間もあるし、ちょっとした手持ちもあるから、市場で適当に店や屋台を回して時間を潰そう。
せっかくだしアンジェリカを呼び出そう、一人より二人で回すほうが楽しそうだから。
人目がない所でこっそりアンジェリカを呼び出す、出てきたアンジェリカはいきなり剣を抜き、私の前を遮って周囲に警戒をし始めた。
「主よ、人間に囲まれている、我の背後に!」
「落ち着いて!ここの人達と敵対していないから!剣を収めて!」
あんまり納得していない顔をしているが、アンジェリカは一応言う通りに戦闘態勢を解いた。
びっくりした……確かにダンジョンボスのアンジェリカにとってここは敵陣のど真ん中みたいなところだった、危うくアンジェリカがここで大暴れするところだった。
「主よ、何故わざわざこんな危険なところに足を運ぶでしょうか?」
「ここの人が私に対して敵意はないし、私の正体も知らないから、しばらくここを拠点としているだけ」
「それとアンジェリカ……その主って呼び方ともうちょっと気さくな喋り方をしてほしいけど……ずっとそう言われると何だかこそばゆいだから」
「御意のままに」
「あぁ~とりあえずまずは堅苦しい敬語は禁止、それと主の呼び方は別にしよう」
「わかりました、ではこれからはどう呼べばいいでしょうか?」
「私の名前を呼べばいいじゃない?私はセレスティよ」
「それは不敬すぎます、せめてご主人様はよろしいかと」
その後しばらくアンジェリカが粘ったが、折衷案としてお嬢様で呼ぶことを決めた。
いつもなら市場に来たら色んな食べ物の美味しい匂いを搔い潜って真っすぐ雑貨屋に行って有り金を使って魔石を買うだけど、今日はちょっと余裕あるし、自分へのご褒美として食べ歩きをしよう。
すぐに目についたのがいつも香ばしい匂いをまき散らすあの肉串の屋台だ、今日の私は肉食女子だ。
豚肉を香草付けて焼く、一口で脂身の旨味が体に沁みる、そして香草のちょっぴりした辛みが脂のしつこさを和らげる。
隣で一緒に肉を頬張るアンジェリカはかなり気に入ってるみたい。
「あ……お嬢様、生肉もいいけど人間が肉を焼くとここまで美味になるとは思いもできませんでした」
「そうでしょう、料理は魔法みたいなものよ、あとこれからは生肉はやめなさい」
「えぇ、こんな肉を食べられるなら、もう生肉など食べる気はありません」
アンジェリカは一瞬で食べきったから、さらに三本追加購入で彼女に渡した。
次のターゲットは煮込んだ牛肉を色んな生野菜と一緒にパンに挟む食べ物、牛肉の味付けは濃い目だけど、生野菜のさっぱりしたシャリシャリの食感で百点満点、最後に絶妙な酸味と甘味のバランスをもつリンゴジュースでフェニッシュ。
それなりに散財したけど今日の暗い気持ちが完全に吹き飛んだぐらいに満足した。
さらに普通は凛々しいアンジェリカがなかなかの食いしん坊であることを発見できたから、やはり呼び出して正解だった。
ギルドに向かう前にまだ色んな屋台に目線を移しているアンジェリカをダンジョンに戻す、いきなりアンジェリカをギルドに連れて行けば、説明することができないから、彼女が少々名残惜しい顔をしているが、今は我慢してもらう。
「あいつらはまだ帰ってこないのか!?」
数多く高い調達品を飾る部屋の中で一人の男が神経質に怒り叫ぶ、テーブルの向こうに執事服を着ている初老の男性が汗を拭きながら畏縮して報告している。
「男爵様、申し訳ございません、帰還したらすぐ報告が上がりますので、もう少しお待ちください」
「ええぃ、どいつもこいつも役に立たないばかり」
「それより男爵様、アルベール様が前線砦の支援要請の催促書がまた届いておりますが……」
「ほっとけ!なぜ俺は資材や補給などを出す必要があるんだ!?」
「アルベール様がそれはベルントフ伯爵の命令と……」
「俺はそんなこと聞いていない、そもそもやつは所領なしの騎士爵で俺に指図するつもりか!?」
「もういい!あいつらが帰ったらすぐ報告してこい、それとマクスルに使いを出せ、今日の晩餐会は延期だ!」
「はい、すぐにギルドのマクスル支部長に使者を出します」
執事の人が部屋を退出したら、あの男が部屋内のソファに深く座り、グッと酒を仰ぐ。
最初は報告を受けた時、アルベールがあの少女は貴族の令嬢であろうと語ったから他の貴族との繋がりや謝礼金を狙ったが、あのセレスティという女の子が固く自分の出自を言わない。
兵士隊の死傷者が出たから、慰問金と人員・装備の補充はこの町の金、つまり俺の金を使ってた、さらに砦建設と駐屯の費用と資材補給を出せだと!?
「まったく、どいつもこいつも疫病神だ……」
先日の晩餐会でふっとマクスルは彼女が魔法スキル持ちであることを話した際に俺は閃いた。
「これは千載一遇のチャンスだ……まさかあの女の子が魔法スキル持ちとは、俺もついに運が回ってきたなぁ」
あの女の子は家の保護はないし、兵士隊隊長の報告では貴族のお嬢様と思われるぐらいかなり美しい外見だ。
だからこそ、数日間自分の私兵を出し、彼女を監視させた、そして今日は彼女が町外に出たところで捕縛命令を下した。
「くっくく……いくら魔法スキル持ちとはいえ、この魔封じの首輪があれば、あいつもただの子供だ、俺が自ら手籠めして我が一族の血に魔法スキル持ちを加える……子爵……伯爵の地位も手が届くかもしれん」
ゲスなことを考えながら、ポンゼル男爵は自分のグラスにさらに酒を注ぐ。
「栄光と富ある未来に乾杯!」




