私のダンジョンボス
強烈な咆哮と共に現れた私のダンジョンボスはデーモンである。
その身長は目の前の二人組の倍以上ある、以前会った例の大きなオークより大きいゆえ、その筋肉モリモリの背中しか見えていないが凄まじい威圧感を発している。
デーモンが一歩踏み出すだけであの二人組はすでに戦意喪失しそうな状態に陥った。
「小さき定命の者よ、汝らに終末を与えよう」
過度の恐怖による錯乱か、先手必勝なのかはわからないが一人は絶望の叫び声を出しながら剣を掲げて突撃してくる。
しかし次の瞬間で彼はデーモンの尻尾の薙ぎ払いを喰らい、天井近くまで壁に吹き飛ばされ、断絶魔を出すこともなく壁に衝突した後地面に落ちてそのまま動けなくなった。
圧倒的な実力差を目にしたもう一人が泣き叫びながら後ろに向けて逃走を図ろうとする。
これはいけない、そのままではあいつが出入り口に到達し脱出してしまう。
絶対に逃がしちゃダメと焦ってそのデーモンを命令したら、デーモンが軽くジャンプしてそのまま背中にある翼を使って滑空し、必死に走っているあの人があと一歩で出入り口に到達するところ、先にデーモンの手に頭を掴まれて、グシャっとした音と共にダンジョン防衛が終了することになった。
そしてデーモンがゆっくり私がいる台座に向けて歩いてくる。
「我が主よ、未完の設定を全うことを乞う」
その威圧感に圧倒されてる私に対して急にデーモンが頭を下げ片膝を跪いてお願いをしてくる。
先までダンジョン防衛失敗に瀕した緊張感に相まって意味不明すぎた要求で暫く私が放心状態になってしまった。
「我が主よ、未完の設定を全うことを乞う」
同じ言葉でようやく私が現実世界に引き戻されたが、言われたことの意味がわからないし私に対する敵意もないので、敢えて聞いてみた。
「ダンジョンの主が我に求める振る舞いを明示することを乞う」
うむむ……私に何をして欲しいのがまったくわからない。
出来ればもうちょっとわかりやすく教えてほしいなぁと思いながらデーモンを見ていると例の吹き出しが表示された。
種族:デーモン
レベル:10
クラス:なし
スキル:なし
装備:なし
称号:ダンジョンボス
あ~そういうことかと一瞬で気付いた、つまりクラスなどの設定がしてほしいことだ。
クラスの部分を選択すると以前コボルドとワーウルフのように「ファイター」のクラス以外に「バーサーカー」「ディフェンサー」「ソーサラー」など明らかに上位のクラスが羅列されている。
むしろ選択肢が多すぎで考えるものになる。
それ以前彼?彼女?に対して役割について聞きたいことがある、今後に関わる大きな問題だから。
そう、このデーモンの維持費が問題になる、召喚したばかりでまだどれぐらいかかるのはわからないが、どう見ても今まで私が稼げるDPは足りないと思われる、召喚した以上魔石集めに協力してほしい。
「その前に聞きたいことがある、君はダンジョンの外で活動することができるの?」
「ダンジョンボスの役目である以上、ダンジョンを離れることは不可能ではございませんが、外での活動が存在自体の消耗を伴うことになります」
「つまり外で手伝うことが出来るが、長時間の活動ができないってこと?」
「御意にございます」
「その消耗はダンジョンに戻れば回復できるの?」
「時間を頂ければ支障なく回復することになります」
外で手伝うことが出来れば、その外見が次の問題になる、デーモンの姿が見られたら騒ぎになることだけで済ませないだろう。
「スキルで人化を設定して頂ければ、多少弱体化になりますが上手く誤魔化せるかと」
なるほど、いい解決方法だ。
とりあえずクラスを設定しよう、どれがいいかなぁ。
色んな選択項目はあるが特に目に入ったのが「ワルキューレ」のクラス、説明文では近接攻撃を主体で攻守両立の立ち位置、万能型であり若干器用貧乏なニュアンスはあるが、これから一緒に行動するならこっちのほうがいいかも。
そしてワルキューレはいわゆる戦乙女、この選択項目があるから、つまりこのデーモンは女性なの?
「我には生物的な性別がございません」
特に嫌がってる感じもないから、クラスは「ワルキューレ」に設定し、スキルにも「人化」を加えた。
そしてそのまま人化してほしいと伝えた。
するとその巨体が輝き出し、徐々に縮小していく、最終的にやや赤い色を帯びたキャラメルブロントの長い髪で二十代前半ぐらいで身長高めの人間女性になった。
またクラス「ワルキューレ」の影響なのか、とても凛々しいきれいな女騎士みたいな顔になっている。
そして裸である。
女神さまからもらった髪飾りのおかけで、私のDPが彼女を召喚した後もほぼ満タン状態になっているから、クラス・スキルを設定した今でもまだある程度残る。
彼女の尊厳を守るために急いで簡単な服と靴一式を宝箱に召喚し、それを着てもらってからさらに追加でロングソードも召喚して渡した。
かなりDPを使ってしまったが、これなら外で一緒に行動してもそう目立たないだろう。
そういえば私の体が森の中で縛られたままだ、急いで意識を外に戻したら人形ちゃんが一所懸命で私の手を後ろに縛る縄を引きちぎようとしている。
しかし非戦闘用の人形ちゃんはそんな力はなく、頑張っているがその縄がビクともしない。
ここで試しに彼女を外に呼び出して、ついでに外でどれぐらい活動時間が出来ることかを検証してみよう。
外に出てきた彼女は難なく私を縛る縄を引きちぎった、やはりさっき人化したら弱体すると言ったが彼女はかなり強い。
そういえばあの二人組はどうしよう、獣や魔物の死体を吸収するのが慣れているが、人間の死体を吸収することは初めてであり、今はダンジョンコアだけど私も元人間だから抵抗感はなくもない。
しかしあのままダンジョン内に放置することもできないし、ここで捨てるのも問題になるかもしれないから、大人しく覚悟を決めてもう一度意識をダンジョンに戻る。
うううぅ……目をつぶっていれば何とかなった、吸収が終えたら自分に何か変化があるかを観察したら、DPが結構回復したとびっくりした、どうやら効率的には魔石より人間を吸収するほうがいいみたい。
しかし出来ればもう二度とないことを祈りましょう。
そして多分あの二人組が持っているお金は本体が私に吸収されたら、自動的に宝箱に収納されるらしい、宿屋の飲み場で聞いた噂のダンジョン内で見つかれる財宝の由来も解明した。
油断したとはいえ、今日は強烈なハプニングに遭ったから精神的にかなり疲れたので、採取はもうやめよう、というより部屋に戻って甘い物を食べながらダラダラと休みたい気分になってしまった。
女神様がくれた髪飾りがこうも早く助けになったと思わなかった、神様だからこんなことを予見したかどうかはわからないだが、本当にありがとうございます。
輝きを失ってしまったが髪飾りはこれからも私の本体の隣で大事に保管しましょう。
そして意外な臨時収入があったので今日の採取はもうやめて早めに帰ることを決めた。
帰り道で彼女はずっと無言のまま私の後ろについてくる、物凄く気まずい、私のコミュ力は高くないけど、すでに疲れた私の精神衛生のために何とかこの雰囲気を打破しなければならない……何か話題を……
「あの……今は外にいるけど、その消耗のほうは大丈夫?」
「今のところ問題はございません、このままではさらに数時間で非戦闘行動の継続は可能になります」
コミュニケーション終了のお知らせ、とある意味で彼女は強敵だ。
しばらくまだ無言の世界に戻った。
そうだ、これからは彼女と一緒に人前で行動することもあるかもしれないから、彼女にも名前があったほうが色々便利だと思いつき、とりあえず彼女の名前を決めよう。
「あの……」
「何でしょう、我が主よ」
「あの……あなたの名前についてなんだけど……」
「我が主より名前を頂ければなんなりとお呼びください」
その後少しの間で色々と名前候補を出したが彼女は相変わらず淡白な返事しかしていないがどんな名前でも嬉しい気持ちはちゃんと伝わってくる。
「よし、決めた、今日からあなたはアンジェリカだ」




