新生活に向けて
さて、ゲオルクたちの案内で宿屋に到着した。
名前は「秋の麦畑」、見たところ周りの家より大き目な三階建てで、一階は飲食店も兼業している。
中に入ると昼過ぎにもかかわらずすでに酒盛りしている人たちで賑わっている。
「あら、ゲオルクにハンネス、久しぶりかしら、それに今はお嬢様の護衛任務中なのか」
と肉付きのいい中年女性が元気で言いながらこっちに向かってきた。
「あぁ、久しぶりだなエイラ、モッカは奥か?ギルドの話しをしに来た」
「えぇ、ちょっと待って、呼んでくるわ」
「いいや、俺が奥に行く、エイラもちょっと来てくれ」
「ハンネス、嬢ちゃんと適当に座って待ってくれ」
言い終わるとゲオルクはエイラという女性とカウンター奥の部屋に行った。
適当に壁際の空いているテーブルに座ったら、ハンネスが他に給仕している女性に色々注文をした。
この世界に来てようやく野営食とは別の食事を体験できるとワクワクしている間にその給仕の女性が二人分の料理を持ってきた。
煮込んだ根菜と肉とジャガイモにが入った暖かいシチューにパン、ハンネスはエールで私は果実水であった。
ちょっと濃い目の味付けでパンと一緒に食べるとなかなか美味しい、しかし量的には私が食べきれる自信がない。
食べている間にゲオルクはエイラと共に結構お腹が出ている中年男性を連れてきた。
「君がセレスティだな、俺はモッカだ、妻のエイラとこの宿屋を経営している」
「事情は聞いた、君がここで住み込み働きながら冒険者になりたいって本当か」
「はい……」
「君がゲオルクとの約束を守れば俺も止めやしないが、ここで三日働いて一日冒険者活動で、一応住む部屋と食事は用意するが、君は……本当に大丈夫かい」
「はい、お願いします」
「セレスティちゃん……冒険者は危ない仕事よ、あんた……事情はあるがもうちょっと考えたほうがいいわ」
この夫婦は私に対してすごく心配しているようだが、とりあえず寝床と仕事をゲットした。
その後はゲオルク達とギルドに行って冒険者登録をするだけ。
宿屋を出てからそう遠くない所に冒険者ギルドがあった、中には武装する人々が見える。
ハンネスは私を連れて先に依頼掲示板の所に行って色々と説明してくれる。
ゲオルクはカウンターにいる受付の女性に任務報告書を渡しながら多分私のことについて相談している。
冒険者の依頼は雑務手伝い・採取・討伐など分けられて、私みたいな子供は主に雑務と採取が受けられる、その他に掲示板に掲載されていないがギルドからクランに直接依頼する仕事もある。
ゲオルク達が初めて私のダンジョンに来たのはこの直接の指名依頼みたい。
掲示板の前に立ってハンネスに依頼の説明をされている時、ふっと気付いた、私はこの世界の文字は普通に読める、しかも何となく書くこともできる気がする、やはり女神様はこの世界の言葉だけでなく、文字の知識も私の頭に入れてくれた。
ゲオルクの口添えでおかけですんなりと登録ができた。
小さいな木製のタグを貰った、その表には登録ギルドの焼き印と私の名前だけが書かれているだけですごくシンプルな物である。
ついでにカウンターにいるエルナという女性に魔石を買える場所も聞き出した、魔石は生活面でも色々使い道があるみたいなので、雑貨屋など市場でも売っている商人が結構いる。
「嬢ちゃんは魔石を買うのか、宿屋の所にすでに色々使われているが、君は何に使うんだ」
急にハンネスに魔石の使い道を聞かれた。
確かに生活面では私には用はない物だけど、ダンジョン維持には私は魔石をDPに変える必要があるんだ、でもこのことは説明することができない。
「嬢ちゃんは魔法の練習でもするつもりか、確かに嬢ちゃんは冒険者をするなら魔法使いになるのほうがいいかも、しかし教える人がいないぞ」
私が返事を困っている時に急にゲオルクが肘でハンネスの横腹を軽く突いた。
「あっ、そうか、まぁ……嬢ちゃんなら無駄使いはしないからいいだろう」
その後ギルドを出て宿屋に戻る途中、前に歩いているゲオルクとハンネス二人が何かこそこそ話をしていたが、大通りの賑やかさでよく聞こえないから気にしないこと。
「確かに嬢ちゃんはそれなりの貴族のお嬢様ならこの歳ですでに家庭教師などで魔法の手ほどきを受けてたことはあり得るなぁ」
「だからお前は一々あの子の事情を根掘り葉掘りするのはやめろ」
「やはり嬢ちゃんはどこかの貴族のお嬢様だな……」
宿屋に戻って女将のエイラさんに同じく従業員のルルニッカさんを紹介してもらい、そのまま仕事をしようとしたら、今日は休みなさいと言われ、これから住む部屋を案内された。
部屋はベットと小さな机と木箱だけの小ぢんまりな部屋、椅子はない、ベットに座ったまま机を使う仕様、若干黴臭いと埃ぱいだけど路上生活より数百倍マシだ。
私が部屋に入ったらあの二人が一人にしか入れないぐらい小さな部屋だったがゲオルクが机の上にあったランプに手をかざしたら、ランプが輝いて部屋が明るくなった、これは先に言われた生活に魔石を使った物だろう。
「嬢ちゃん、俺らはそろそろ行くよ、明日の朝一で俺らのクランに戻るから、いつかは君がウェルネックに来るのを楽しみしているぞ」
「とりあえず危険なことするな、生活が安定したなら無理に冒険者をする必要もないぞ」
ここでゲオルクとハンネスと別れることになる。
色々と助けてくれて、さらに町案内と仕事を紹介してくれる、まだこの世界はよくわからない時に出会ったのはこの二人でよかった。
「ゲオルクさん、ハンネスさん、色々お世話になりました、ありがとうございます、いつかきっとウェルネックに行きます」
「それは追々でいい、新しい生活はきっと大変だけど、頑張ればなんとかなるさ、もし相談する相手がほしいなら、とりあえずエイラに聞くといい、モッカは一見無愛想な奴だけど、実はハンネスと同じぐらい心配性で根のいい人だ、それと冒険者関係なら受付のエルナに聞くといい、その他は教会に行ってルーテルを訪ねてくれ」
「嬢ちゃん……達者でな」
「ありがとうございます、しばらくはここで頑張ります」
あの二人が帰ったら数日ぶりに一人になった、ようやく自分のことを色々確認する時間ができた。
部屋の扉を閂でロックしてからベットで横になって意識をダンジョン内に戻す、ダンジョンコアに戻るとなんだか一番落ち着く、とりあえずダンジョン出入り口の地面にあったさっきの食べた物を片付けてからこれからのことを考えましょう。
当面の生活についてゲオルクたちのおかげですんなりと解決した、そしてそう多くはないがあの騎士の人から多少お金を貰った。
ならばやはり目先に残る問題はダンジョン維持するためのDP回復手段だ。
明日から三日間宿屋で仕事をした後一日休みを貰った時に急いで魔石を売っている所を探しましょう。
改めて自分を観察すると相変わらずダンジョンコアLv.9のままであった、やはりあの大きなオークを倒したのが騎士の人だから経験値は私に入っていなかったみたい。
しかしレベル9か……10になったらまた何か新しい機能が解放されるかもしれない、やはり何とか魔物と戦ったほうがいいかも。
次に配下のプチゴーレムに目を移る、この子は戦ったことはないから呼び出したままレベル1であり、特に指示を出していないから大人しくコアルームの片隅で体育座りで待機している。
多分侵入されることはないだろうけど、この子は今の所唯一コアの私を守るモンスターだ、頼りにしているよ。
そして本命の魂無き人形に注目、ダンジョン空間の外にあるけど、意識すれば、吹き出しでその体に関するデータが表示される。
種族:プリンセス・オブ・ラビリンスドール
ネームド:セレスティ
レベル:2
クラス:なし
スキル:高貴なるオーラ
装備:なし
称号:女神ファナニスの申し子
種族は大きく変わった、これは女神様が融合を手伝った影響だろう。
レベルは2になったのは私が洞窟でゴブリンとオークを殴り倒したからであろう。
そしてすぐに目に入ったのはスキルの欄にあった「高貴なるオーラ」はなんだろう。
その項目に注目すると吹き出しに説明文が表示される。
「その高貴なる出自で身に纏わる気配、味方の士気を高め、敵対する者に威圧を掛ける、また女神ファナニスに繋がる祝福されし者は自然に他者の関心を引き寄せる」
今はコアでなかったら頭を抱える案件だ、種族のところにもプリンセスと書かれているように私は知らない間に姫様になってしまった、だからゲオルクたちは私に対していつも妙な態度をしていたのはこれの影響だろう!
そして称号にあった「女神ファナニスの申し子」は私の本体が女神様の力の欠片で作られた存在だからだろう、影響したのは高貴なるオーラの後半の部分と考えられる。
このスキルは消すことはできないみたいだから、どうしようもないし見なかったことにするしかない。
落ち着いて他の項目を検証しよう、クラスには「ファイター」「魔法使い」二種類がある、魔物と戦うなら肉弾戦より私は魔法を使い遠距離で攻撃するほうがいいだろう。
魔法使いと設定したらスキルのところに新しい項目が選択できるようになった。
火属性を始め、色んな属性に属する魔法を取得することができる、しかし取得するにはDP消費する必要があるから、今は1DPでも温存したいから後でいい、でも魔法のスキルを取得できれば何とか魔物と戦える手段を手に入れる。
最後に装備……これは町で売っている物と自分がDPで作るのはどっちが安く済むを調査してから考えよう。
とにかくゲオルクたちとエイラさんに迷惑を掛けないために明日からは宿屋の仕事を頑張るぞ。




