野営の夜
あの戦いの後、私は冒険者と兵士さんたちに連れて洞窟のところから離れた。
まだ今の体を動かすことに慣れていないし、森の中で歩くのが不慣れである、加えて今の私は自分の身長より長いマントを羽織っている、どうしてもよたよたして歩くしかない。
さらにこの身長で歩く幅は小さい、最初は隊列の真ん中にいたけど、どんどん最後列にいくことにになってしまった。
この様子を見かねたあのスキンヘッドの冒険者はまた私を抱き上げて、そのまま抱きかかえ移動するようになった。
「嬢ちゃん、すまんな、皆は早くこの森を出たがるから、ちょっと我慢してくれ」
「大丈夫です、あっ……ありがとうございます。」
またいきなり抱き上げられてびっくりしたけど、私も自分のせいで、皆の足を引っ張るつもりはない、このスキンヘッドの冒険者は顔が怖いけど、内面は優しい良い人であることは知っているから、むしろ助かった。
「今日はここまでだ、これからは野営の準備を!」
そろそろ夕暮れになった時先頭にいる騎士は野営の通達をした。
スキンヘッドの冒険者は私を降ろして、自分は野営の手伝いに行くから、負傷した兵士が休んでいるところで大人しく待ってほしいと言われた。
負傷した兵士さんたちは木に背もたれて座っている、応急処置をしたとはいえ、一番傷がひどい人は腹部の包帯から血が絶えずに滲み出して、目を閉じた顔は痛みで歪んで大きく息をしている。
仲間の支えがあったとはいえ、よくここまで歩いていたと思った。
ダンジョン内で新しく癒しの泉を設置して、こっそり癒しの水をダンジョン外に出して兵士さんたちにあげられないかなと思った。
しかし癒しの泉を設置したら、今持っているDPはそろそろ危険水域に達する、いつまた魔石で補充できるかもわからない。
悩んでいる時、治療薬だけならそうDPはかからないことを思い出して、急いて意識をダンジョン内に戻し、宝箱の生成物リストを見てたら回復ポーションがあった、傷薬より即効性があるみたいからこそこの緊急時にぴったりと思って、試しに一本を宝箱内に生成して、プチゴーレムに宝箱から取り出してダンジョン外に出すよう命じた。
プチゴーレムがダンジョンの出入り口に到着した瞬間何かを踏んで滑り転んでしまった。
思い切り尻もちをしたけど、頑丈なゴーレムだから怪我はないみたい、そしてポーションも無事であることにほっとした。
しかし、何で急に滑り転んだだろう、プチゴーレムの足元をよく見ると、さっき私が食べた干し果物と水がぐちゃぐちゃと地面に残っている、確かに私が食べたということはダンジョン内に放り込んだと同じ事だ。
急いてダンジョン機能で消化しつつ、プチゴーレムに謝った。
次は意識を外に戻す、こっそり自分の口から出てきた回復ポーションを重傷の兵士さんの傷口にかける、包帯の上からかけたので効果は見えなかったが、兵士さんの痛みで悶えた顔は見る見るうちに穏やかになって眠ったみたいから、これで効果はあると思いましょう。
空になったポーションの瓶は誰にも気づかれないように口の中に放り込んで、ダンジョン内に戻して、同じく消化したから、完璧な証拠隠滅。
こうしていた時、神官服の人が速足でこっちに向かってきた。
この人の見た目は二十代ぐらい、疲れている顔に深い茶色のおかっぱ頭、雰囲気的には親しみやすそうな人。
「お嬢ちゃん、これからはこの人に治療をかけるからちょっと離れてください」
私が一歩下がったら神官の人が兵士さんの前に跪いて言葉を唱えた。
「生命を司る女神リリエヌ、我は懇願する、どうかこの人に癒しの手を与えたまえ」
そうすると神官の手のひらから金色の魔法陣みたいなものが浮かび上がり、次にその魔法陣から発した輝く光がその兵士さんを包んだ。
「今はこれが限界か……うん?完全に出血が止まった!?」
「あぁ、リリエヌ様、ご慈悲に感謝します」
「これは魔法ですか?」
初めて見たからあんまりの驚きに思わず声を出して神官の人に聞いた。
「いいえ、お嬢ちゃん、私は神官だからこれは神術です、厳密に言うと魔法とは異なる性質の理です」
「あっ……失礼しました、初めて見たから……すみません」
「大丈夫ですよ、私は気にしないほうですから、でも他の神官に言ってはいけませんよ」
「はい……すみません……」
「もしお嬢ちゃんは神術に興味があったら教会の扉はいつでも開いてます」
神官の人はもう一度兵士さんの様子を確認してからこの場を離れた。
その後私はただ他の皆がせっせと野営の準備を眺める以外何もすることはなかった。
試しに何か手伝えることはないかと聞いたら、誰でもご飯が出来たら持ってくるからそこで休んでほしいと言われた、それだけでなく何人かに頭をなでなでられた。
完全に子ども扱いされている、でも今私の身長は確かに子供みたいだから、何かを言い返したくても説得力がないから諦めて大人しくしていた。
しばらくするとスキンヘッドの冒険者が食事を持ってこっちに来た。
乾燥した野菜と干し肉を使った塩味のスープ、チーズとパン、携帯食で作った簡単な食事だが、暖かいスープはとても美味しく感じた。
食事の後一部の人たちが焚き火の近くで休み始め、残りの人が武器を持ったまま周囲を警戒している。
私は精神的に疲れているが、ダンジョンコアになってから睡眠は不要なので、借りたマントで体を包めてやや焚き火から離れた場所に座っている。
騎士の人は深い傷を負った兵士たちと神官の人を連れてテントに入ってすぐに出てきた。
そして騎士は離れた場所で冒険者の人に何かを相談している、ちょっと距離があるので、何を話しているはわからないが気になるのはあの二人が話している間に何度もこっちをちらっと見ていた。
もしかすると私が疑われている、やはりこんな森の中で女の子一人で洞窟にいたのは怪しすぎるかも。
出来るだけ目線を合わせないように警戒していたら、騎士の人がテントの方に戻り、冒険者の人がこっちに向かってきた。
「お嬢ちゃん、眠れないか?そうそう自己紹介を忘れた、俺はゲオルクだ、先まで君の世話をした人はハンネスという」
「ゲオルクさん、色々ありがとうございます」
「気にせんでいいよ、これも冒険者の仕事だから」
「ところで、ずっとお嬢ちゃんと呼んでもこれからは不便だから、もしよかったら便宜的な名前を教えてもらえないかな?」
(名前……前の名前は全然思い出せないし、急に自分に新しい名前を付けるのも難しい……)
何もいい案が浮かべないまま私は頭を振った。
「すみません、急に言われて何も思いつきません」
「そうか……しかしこれからは名前がないと生活に支障が出る」
確かにゲオルクさんの言う通りだ、これからは人里で生活するなら名前がないと色々不便すぎる。
ここでゲオルクさんに名前を作ってもらったほうがいいかも。
「あの……もしよければ名前を考えてもらえないでしょうか?」
「えっ?俺が!?」
「はい、お願いします」
ゲオルクさんはちょっとびっくりしたが、すぐに腕を組み目を閉じて真剣に考え込んだ。
「仮の名前だけど、君のこの夜空みたいな髪の毛に因んでセレスティはどう?」
「夜空の色ですか……いい名前です、ゲオルクさんありがとうございます」
ちゃんとお礼を伝えたら、ゲオルクさんは自分が哨戒に戻るから私に早めに休むようと言ってこの場を離れた。
しかし歩き出した途端にまた振り返って私に対して話しかけてくる。
「あの……これはあくまでも方便的な名前だ、いつでも自分で変えてもいいんだぞ!」
「大丈夫です、素敵な名前ですから、今日から私はセレスティです」
と笑顔で返事をしたら、ゲオルクさんはまた腕を組み悩みながらハンネスのところに歩いていった。
「セレスティか……今日から私はセレスティだ」
そう思っている間、急に眠気が襲ってきた。




