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紅涙皇子  作者: 六道イオリ
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4.東の国 妃と皇子【2】

 東の王は毎夜皇子のもとを訪れ占星術師の話に耳を傾ける。話は毎夜夜更けまで続き、東の王は皇子の寝所で独り寝し戻る生活を繰り返していた。

 周囲にはそのことは伏せられているが、伏せられていなくとも自らが王と関係を持つことの障害となっている皇子と、その供である占星術師と罪人の娘は後宮の女達に冷たくされることになる。

 その態度は冷たくはあるが苛烈。

 だが皇子はそれらに怯むことなく、占星術師は我関せずを貫き、罪人の娘はひっそりと耐えた。

 先が見えなければ皇子も周囲の女達や、女の命令で嫌がらせをしにくる召使に怒りをぶつけたであろうが、東の王は占星術師の話を信じ解放してもらえる目処が立ち始めたので、騒ぎを起こさずにやり過ごしたほうが良いと皇子にしては大人しく過ごしていた。

 何事にも動じない余裕を感じさせる態度を貫き続ける皇子と、その寝所に足繁く通う東の王。当初は妾達も嫉妬だけに心を支配されていたが、徐々に東の王の寵愛を得ていると皇子に恐れを持ち、取り入るような姿勢を見せるものも現れ始める。

 皇子の存在を最も疎ましく感じているのは、皇子が送り込まれる前に寵愛を独占とまではいかないが、最も多く寵を受けていた妾。

 美しく気の強く女性特有の嫉妬心を持つ妾は、他の妾たちとは違い東の王の真のお気に入りに気づいていた。東の王が特別に美しいわけでもない皇子の下に通うのは、他の理由があるはずだと侍女に探らせ、皇子の侍女が美しい女であると知らされ容姿を自らの目で確かめに出向いた。

 妾の目に映った罪人の娘は東の王が傍に置く女の特徴を兼ね備えていた。妾と他の何度も通われる女の特徴の持ち合わせており、これが真の敵だと妾は罪人の娘を敵視する。

 皇子に関しては「大国の王女」の称号が気に入っている程度だと判断した。

 彼女の判断は的中しており、毎夜ごと占星術師の話を聞く際には罪人の娘を給仕に侍らせていた。皇子は罪人の娘の扱いに嫌悪感を露わにし拒否したのだが、罪人の娘自らが皇子を説得し傍に控えるようになる。

 占星術師は何を気にすることもなく、東の王に語り続ける。東の国から遥か遠い南の国の空の青さや海の蒼さ、日差しの強さに人々の生活など異国の者が聞けば物語にしか聞こえない風俗を紡ぎながら、東の王の興味を引き続け重要な部分を全て語り終えた。

 目を閉じて聞いていた東の王はすべてが終わり、香の香りが立ち込めほの暗い寝所でしばらくの間沈黙し、傍において給仕をさせていた罪人の娘の身を放し、占星術師に尋ねる。

「答えろ占星術師」

「お答えできることでしたら」

「お前はなぜ皇子を皇子と呼ぶ。皇子ではないことを知っているのなら、姫と呼べばよかろうが」

 占星術師は語る間、一度も皇子を姫とは呼ばなかった。

 途中話が複雑になり、何度か聞き返した東の王ではあったが、あえて最後まで文句を言わずに聞いていた。

「それはいけません。皇子は皇子と呼ばれることにより、占い師の視える世界から外れているのです。女の格好をしている皇子を姫と呼んでしまえば、占い師が視てしまいます」

 答えに頷きつつ目を開き、

「ならば問おう」

「なんなりと」

「北の凶星が《女》の隠れ蓑を捨てた時、北の地には災厄が訪れるか」

「はい。第十王女は北の国を出る際に《王女》の姿を捨て《男》と呼ばれていましたので、既に北の国の大地には災厄が次々と芽吹いていることでしょう」

 占星術師の答えに満足した東の王は、北の国が混乱に陥っていることを告げた。

「占星術師、お前の語った時期から北の国は乱れ始めた。このまま突き進めば北の国は滅びるか?」

「滅びます。ですが北の国だけではありません、東の国も巻き添えになります。いいえ、言い換えましょう。皇子を東の国に留め置けば東の国は滅びます。ここで王が皇子の殺害を命じても無駄です。凶星は必ずや吉星を追い求めて参りますので」

 占星術師の言葉に満足のいった東の王は、皇子と占星術師を解放し北の国まで必ず届けてやる代わりに罪人の娘を求めてきた。皇子は拒否しようとしたのだが罪人の娘が突如口を開き、

「皇子にはお知らせしておりませんでした、既に東の王の子が腹におります。皇子さえ許していただけるのでしたら」

 彼女の言葉に約束を守らなかったと東の王に平手打ちを食らわせた皇子は、泣きながら寝所の毛布に隠れてしまった。

 罪人の娘の嘘により後宮に留めておけることが叶った東の王は、平手打ちされた頬に手をあて笑いながら部屋を後にした。

 皇子が眠った後に占星術師は考え直すことを勧めるも、彼女の意志は固かった。

「ここに残れば二度と故郷に帰ることはできません」

「星を読まれてはいけないのではありませんか?」

「いいえ、これは歴史から見た事実ですから占いではありません。ですが占いよりも精度は高いでしょう」

 占星術師の言葉に罪人の娘は困ったように微笑み

「罪人の娘が生きていける場所はないに等しいのです。王は罪人の娘であっても良いと言ってくださいました。私は寒い牢獄よりならば、豪華な監獄を選びます」

 彼女ははっきりと決意を告げた。


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