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紅涙皇子  作者: 六道イオリ
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4.東の国 妃と皇子【1】

 東の国の兵たちは北の国の王女を手に入れたと喜んで港を後にした。

 隊長が皇子を見て、着衣が北の国のものではないと言ってきたが皇子は既に引渡しが済んでいたので、方伯国が用意した服に着替えたのだと説明をした。当初はその言葉を疑っていた隊長はしばらくの間、兵の一人に離れて監視させておいた。

 結果は皇子が平素男装していたことが功を奏し方伯国の女性物着衣に慣れておらず、歩けば裾を踏むなどの行為を繰り返している報告を受けて納得し北の国の王女として受け入れ後宮へと収め、報奨金と上の位をもらい喜んで帰途につく。


 皇子は初めての船による船酔いと、この先の不安で体調を崩し後宮に収められてからもしばらくの間、起き上がることができなかった。

 船酔いで体調を崩した皇子とは違い、占星術師は船旅で大陸に来たため船酔いせず罪人の娘は、

「私は渡しの娘でしたから揺れには慣れています」

 橋のかかっていない川の対岸に人を届ける渡し舟を家族で仕事にしていた。

 占星術師はあまり看病などになれておらず、罪人の娘がほとんどの世話をかってでていた。

 汗を浮かせてうなされている皇子の額を濡れたタオルで拭きながら枕元に付きっ切りの罪人の娘と、手伝っても余計に仕事を増やしてしまう占星術師。

「占星術を行えば、この先取るべき道がわかるのでは?」

 罪人の娘がそう尋ねると、占星術師は首を振り、

「私は今は占えません。占いを封じることで相手に気付かれないようにしているのです」

 現状を説明した。

 相手は占いで人を狂わせることに堕ちた占い師だが、腕のよさは占星術師の師匠の恩師でもあったほど。

 自らに追手が迫っていると解れば、長年住んだ北の国での人脈を使い妨害を仕掛けてくるだろう。それらの妨害を阻止するために、南の国から追手が放たれたことを気付かせないようにしなくてはならない。

 そのために占星術師は自分の存在意義でもある占星術を封じた。

「縛りを与えることによって相手に気付かれなくなるのです。もちろん私の師匠が存在を消す縛りを与えてくれたからですが」

 そのために、占星術師は今この場で占いをすることが全く出来ない。

「不自由であったり、追っている占い師に出し抜かれたりはしないのですか?」

 罪人の娘の問いに、ある程度のことは先に師匠が占い教えてくれたので問題はないと占星術師は語った。

 《王女》であった罪人の娘を見抜いたことも、実は師匠から教えられていたことであったと告げたあと、自分の人生がこの先どうなるのかを知りたいのは解りますが、占いなど指針にはなっても確定はしませんと罪人の娘を諭した。

「吉星の皇子や凶星の王女でしたら占いによって先を視ることも意味がありますが、普通の人はそれほど影響を受けることはありませんから。先がおぼろげにしか視えないのは残念のようですが、はっきりと視えることによって凶星の王女のように歪められた人生を送ることになるのです。どちらも選べません、どちらかが優れているわけでもありません」

 罪人の娘と占星術師はそのような会話をしながら、皇子を東の王の下から連れ出すかを考えてもいた。

 世話に関しては罪人の娘だが、策に関しては占星術師が頼り。

 やっと体を起こせるようになった皇子もまざり、三人で話し合っているとそこに東の王が現れた。東の国の医師が王にもう相手をさせても平気だと告げたためだ。

 突如現れた東の王に皇子は驚く。

 東の王は部屋にいる三人を見渡し、皇子に新たに召使を十名与えるから罪人の娘を寄越せと言い出した。

 あまりのことに驚いた皇子だが、罪人の娘を守ろうと久しぶりに一人で立ち上がり、おぼつかない足取りで東の王に近寄り頬を打ち、非礼な言葉に対して今出せる声で怒鳴り返した。

 突然のことに東の王の従者も占星術師も罪人の娘も驚いたが、東の王は殴られることを解り避けなかった。

「気位が高い王女らしい。だがここに居る以上、立場というものを教えてやらねば」

 言いながら皇子を抱きかかえ、閨の中に放り投げた。

 それが合図なのか従者は下がり、部屋の中には女性だけが残る。拒否する皇子と止めようとする罪人の娘。

 東の王は皇子には王女としての興味しか持っていないが、美しい罪人の娘には女としての興味を持っているので、代わるなら止めてもいいと取引をもちかけた。

 そんな時、

「東の王は千夜一夜物語をご存知ですか?」

 占星術師が語りだした。

 この場面に相応しくない、突拍子もないことを語りだした占星術師を上から下まで見て、

「知っているぞ」

 興味などないと素気なく答える。

 そんな東の王の態度に気を悪くすることなく、淡々と語り続ける。

「千夜も語る時間はありませんが、一つ私の話を聞いてくださいませんか?」

「興味なくば殺される覚悟あるのか、占星術師」

「あるところに王女として育てられた王子がおりました。その王子はある国の皇子に嫁ぐことになりました。嫁げるわけもないので、ある場所で美しい娘を買い代役に仕立て上げました。そして引き渡し場所に向かい皇子と王子が対面したところで、大国の兵が押し寄せ王女を寄越せと騒ぎだしました。王女は王子ですが大国の兵はそんなことは知りません。王女は実は王子ですと告げたところで信用されないのはわかり切ったこと。そこで皇子は一計を案じ、大国の王は見事に騙されましたとさ。いかがでしょうか?」

 語りと共に慌てる皇子と罪人の娘を見て、表情の変わらない占星術師が真実を語っていることを感じ取った東の王は、

「面白い、続きは明日の夜に聞こう。その話の続きを知る条件は聞かずとも解る」

 何もせずに部屋から出て行った。

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