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紅涙皇子  作者: 六道イオリ
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3.皇子と王女 【3】

 第十王女と皇子が対面したのは港町の空家。

 裕福な商家の別宅だったものを一時的に買い、第十王女が滞在できるように北の国が用意したものだ。

 北の大国の一行よりも方伯側は遅れて到着した。

 引渡し場所が遠かったこともあるが、北の大国側は罪人の娘を第十王女に仕立て上げなければならなかったので、方伯国側に告げていた日にちよりも七日も早くに到着していた。

 遅れて到着した方伯国側は北の大国が用意した邸よりも小さい邸を借り、そこで身支度を整えて引き渡し場所へと向かった。

 引渡しに際し、皇子も正式な場であるので男装をやめ本来あるべき姫の格好をして王女を出迎えの場に臨む。

 その用意に追われている時、小柄な異国人は王女の引き渡しに立ち会いたいと言い出してきた。

 小柄な異国人の申し出に戸惑った県令だが、占星術師であることは確かで出迎える際に多少の花があった方が国として格好もつくだろうと並ぶことを許し、皇子の服を借りて占星術師はその場に並んだ。

 背の高い兵が《こちらが王女です》と言い、美しい女性を方伯国側に引き渡そうとした時、

「嘘ですね」

 占星術師は声を発した。

 その声に王女といわれた人物は身を固くし、兵の二人は目配せする。

「どうしてそのように」

「その女性は罪人を父に持つ方ではありませんか?」

 突然のことに誰もが言葉を失う。占星術師は県令にその人の腕は生々しく皮が剥がされているはずだから確認するようにと言う。

 焦る兵を脇目に、皇子が進み出て《王女》の腕を掴むと、痛みに王女が床に崩れ落ちた。

 滲んできた血に驚き、皇子は《王女》の袖をまくると、そこには生々しい痕。

「この傷はどういうことだ」

 語気を荒げて叫ぶと、床に崩れた《王女》が自分の不注意で負った物だと痛みをこらえて告げてきた。

 その言葉に県令が傷を確かめ、不注意でこのような傷は負わないと言い返すと兵の二人は困った面持ちになる。

「嘘はつかなくていいですよ。左側の方、貴方が第十王女ですね」

 占星術師は部屋で最も背の高い男を指差し言い切った。

 第十王女も従った兵も仕える将と同じく占いを信じない者であったが、目の前の占星術師には適わないと部屋を移し全てを語る覚悟を決めた。

 占星術師は罪人の娘の腕の治療を終えてから、侍女と兵と皇子と県令と占星術師と罪人の娘の全員が集まった部屋で第十王女は今までのことを語った。

 誰も口を挟まずに、静かな部屋に第十王女の人生が語られる。語り終えた第十王女は、謀ったことに関して死んで詫びる、罪人の娘は何一つ悪いことをしていないので、方伯国側で引き取ってはくれないかと県令に持ちかけた。

 県令としては罪人の娘を妃に迎えるところだったのだから、第十王女が自害するくらいの罪にはなるだろうとは思ったが、方伯国側にも特殊な事情がある。それを語るべきか語らぬべきかと、事情の元である皇子に判断を委ねた。

 皇子は床で頭を下げる第十王女の傍に近寄り、面を上げさせて、

「貴方の目の前にいるのが方伯の皇子です、第十王女」

 着飾った良家の子女然たる皇子の発言に、罪人の娘すら腕の痛みを忘れて皇子を凝視する。

 今度は皇子と県令が何故男児として育てられたかを語り、王女を県令の息子が妻として迎えるはずだったことを教えた。

 第十王女が女として育てられた理由よりも、皇子が男として育てられた理由の方がごく有触れたもので北の大国から北者達も納得をした。

 両者が互いに性別を偽っていたことを語り、互いに笑いが込み上げてきたところで今まで黙っていた占星術師が口を開いた。

「第十王女。あなたが女性と偽って生きる原因となった占い師について聞きたいのですが」

 占星術師に尋ねられた時、第十王女は兵と顔を見合わせ、次に侍女に視線を向けた。

 当然二人とも後宮の女性に仕える占い師のことなど知らず、そして第十王女も全く知らなかった。

「そうですか。正室か寵妃のどちらかに仕えているのが私が追っている占い師に間違いないのですが。兵の方、国に戻られる際に伴ってくださいませんか? 皇子ありがとうございました、皇子のお陰で直ぐに解決できそうです。私を信じて王女引渡しの間に連れて来てください、感謝の言葉もございません」

 良かったと皇子が占星術師の傍に近寄ろうと席を立ったところで、街が騒がしくなった。

 騒がしいといっても陽気なものではなく ”逃げろ” という叫びが絶え間なく聞こえてくる、身の危険を感じる騒がしさ。

 何事かと県令が見張りに尋ねると、東の大国の海軍が港町にはいってきて後宮ハーレムに収める女を集め始めたのだという。

 そして東の大国の兵は町に北の大国の王女が、方伯国の皇子に嫁ぐ為に滞在していることを知り隊長に伝えた。隊長は北の大国の王女を主である東の王に納めることが出来れば地位が上がると考え、邸を取り囲み捕らえるように命じる。

 花嫁の嫁ぐ国、方伯国のことは脅せばすぐに引く程度だとも考えていた。

 秘密が知られないように小数の兵のみを率いてきた北の大国の王女と、北の国よりも小さい方伯国は余計な刺激を避ける為、北の大国の一行よりもさらに兵は少なくしていた。

「私が参ります」

 美しい罪人の娘が腕の痛みをこらえて申し出た。

 逃げのびる道はそれしかないと第十王女も考えたが、

「いいえ、相手は王族を捕まえにきたのです。話を聞けば罪人の娘は道中で行儀作法を学んだ程度。そのような付け焼刃、東の大王の前ではすぐに見破られ方伯国が報復される恐れもあります。この場にいる王族の女性である私が参ります」


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