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ニューサマーオレンジ

作者: 都築稔

 気づいた時には、もう遅かった。何もかも、終わった後だった。

 彼といた期間は3ヶ月。半年くらいは一緒にいた気分だったのに、振り返って初めてその短さに気づいた。

 彼といる時の私は、自然と笑っていた。何に囚われることもなく、無意識に。笑いたくて笑う。ただ、それだけのことがどれだけ難しいか。私はよくわかっていた。

 彼との始まりは、正直勢いだった。流されたとも言える。自分の気持ちをハッキリとさせないまま、彼の気持ちもハッキリとわからないまま。それでもいいと思っていた。でも、それが間違いだった。

 彼の言葉と行動に矛盾を感じて、不安になった。お互いの気持ちをもっとハッキリさせていたら、こんなことにはならなかっただろう。

 苦しさから逃げる為に、自分から距離をとった。

 私は卑怯だ。臆病者だ。

 傷つく勇気もなく、人を愛そうとした。そして怖くなって、自分勝手に逃げた。

 

 ある日、彼が私が行きたいと言っていた場所に別の人と行ったことを知った。

『人の気持ちを使い回しするなよ。』

その時はそう思うだけに留まった。

 そしてまたとある日、彼が読まなくなった本を処分しているところに遭遇した。

 驚いた。私といた時の彼は、本は眠くなるから読まないと言っていたから。

 いつの間に、本を読むようになったのだろう。全然気が付かなかった。

「もう、これらは読まないと決めた。」

 その言葉で、彼は私の為に本を読む努力をしていたのだと悟った。本を処分することで、私への気持ちとけじめをつけようとしているのだと感じてしまった。

 彼の努力を、気持ちを、私は切り捨てていたのかもしれない。私は、彼をちゃんと見ていなかったんだろう。

 数冊の本を譲り受けることにした。

 なんだか、このまま捨ててはいけない気がしたから。

 あの時、私は彼の気持ちを疑った。信じることができなかった。彼は彼なりに私と向き合ってくれていたのに。

 戻りたいとは思わない。後悔もしていない。それでも切なくなるのはなんでだろうか。

 もし過去に戻れたとしても、私は彼を選ばないだろう。それはハッキリとわかる。

 この思考は、矛盾しているのだろうか。


 受け取った本は冷たくて、あまり読む気にはなれない。それでも私は、この本を手放すことができないでいる。いつかこの本を手放すその時まで、少しずつ読み進めることにしよう。

 彼と始めた夏は、彼1人に秋を告げて去った。

 あの夏に囚われた私は、まだ抜け出す方法がわからない。

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