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《オタクでボッチが異世界に転送されてもやはりモブにしかならなかった》

作者: 神有月ニヤ

《オタクでボッチが異世界に転送されてもやっぱりモブにしかならなかった》


メリークリスマス!今宵はクリスマス。街には恋人たちで溢れかえり、家では家族団欒(かぞくだんらん)の灯火がゆらゆらと揺れている。そんな煌びやかな街並みを尻目に、俺はただひたすらパソコンと向き合っている。室内には、ヘッドホンをしているにも関わらずシャカシャカとわずかに音が漏れ響き、暗い部屋にはイルミネーションと変わらない程の光が点滅している。


『フルコンボ!おめでとう!』


画面にはこの文字。もう半ば見飽きている。小さく溜め息を吐き、俺はヘッドホンを外す。


「今日で30歳、か」


誰も祝ってくれる人もいない。寄り添ってくれる人もいた事がない。クリスマスに誕生日とは、神様もとんだ運命を背負わせてくれるぜ、と恨みながら、開いていた音楽ゲームの画面を閉じ、今度は『聖なる夜』から『性なる夜』へ変えるためのパートナー探しへと思考が移行する。スクロール画面にも見慣れたものだ。いつもと変わらぬサイトだが、今日だけはいつもと違う様子だった。


(クリスマスだからか?)


何かとのタイアップの動画なのか、異世界モノがやたらと多い気がする。


(たまにはこういうのでも良い、か)


普段は選ばない物には、自然と手が伸びてしまう魔力がある。毎度毎度不思議なモノだな、と思いつつも、最後まで見てしまう。俺は早速クリックして動画の読み込みを待ちながら傍にティッシュ、ゴミ箱の準備。完璧だ。しかし動画は始まるどころか、読み込み画面から進まない。


(何してんだよ・・・!コッチは準備満タンなんだよ・・・!)


無駄だと分かりながらもマウスをカチカチと繰り返す。すると動画は突然始まったが、画面は黒いままシークバーだけが時間経過を示している。


(あ、何だ?)


少しのイライラと、少しの不安に感情が揺さぶられながらもその始まった動画を見るが、どうも様子がおかしい。シークバーが1分のところに来たと同時に、とある文字が画面には表れた。


【テンソウシマス】


は?


状況が飲み込めないまま画面は青白く光り、俺もろとも部屋を包み込んだ。

そして意識が薄れゆく中、俺は思った。




無難なモノにしておけば良かった。




と。後悔先に勃たず。いや、立たず。これで人生終わりだなんて未練しかないが、特に言い残す事もない。矛盾した想いにこのまま眠りについてやろうかと目を瞑ると、辺りが何やら騒がしい。ザワザワと耳障りな大勢の人の声。


(うるさいな、このまま寝かせてくれよ)


俺の思いとは反対に次第に大きくなる騒めき。他の事に意識が向くと、それ以外がどうでもよくなるのだが、この時だけは違った。先程まで部屋に居たはずなのに空気が暖かい。そして少し(まぶた)を透かすように当たる太陽の光。終いには横になっている体の背中に当たる砂利のような硬さの地面。明らかな違和感に、俺はハッとして目を覚ます。


「おお、起きたか」


(え・・・、誰・・・?)


目の前には見知らぬお爺さんがいた。周りにも見知らぬ老若男女がうじゃうじゃと。そして俺の目覚めに歓喜している。


「え、何、何ですか・・・!?」


「記憶が混濁しておるのか?仕方あるまい、お主は急に倒れたんだ」


(・・・急に倒れた・・・?俺は自分の部屋で我が右手に愛されようとしていただけなのに・・・?)


「えっと・・・あなたは・・・?」


俺の質問に、老人は優しく答えてくれた。


「ワシはこの村の長のシルヴァじゃ」


「日本人じゃない?」


「ニホンジン?」


(でも、言葉は通じるみたいだ)


これはアレだ、よく漫画やアニメで見る、異世界転送モノだ。これならよく知ってる。俺がこの異世界に転送されたってことは、もしかして、と自信満々に顔を上げるが、人の顔すらまともに見たことない俺にとっては恥ずかしさとやるせなさでフイッと背けてしまった。


「えと、あの、俺って、この世界を救う勇者だったり・・・」


俺の言葉に、シルヴァはキョトンとし、口を開いた。


「ガッハッハッ、何を夢見ておる!お主はこのクリスマス村の【村人H】、勇者には程遠いわい」




モブッ。




いや待て、村人Hって、村人自体何人居るんだ?まだ下がいるんであればまだ救いようがある。


「この村には、俺の下には何人いるんですか?」


「村人はお主が最後じゃよ」




最後っ。




「え、じゃあこの俺の周りにいる人たちは・・・?」


「この村に訪れた冒険者や勇者様じゃよ」




勇者様御一行っ。




(ははは、何か状況が飲み込める様で飲み込めない)


俺が【OTL】の形になっているのが面白かったのか、シルヴァは肩に手を置き、慰めた。


「まぁ、そんな肩を落とすでない。この村はこの村で楽しい事もある。勇者様になれなくても、やるべき事はあるはずじゃ」


ニコッと笑うシルヴァの顔は神々しかった。

こうして、俺は【村人H】としての第二の人生が始まったのであった。



エロイベントはあるのか?



【一時、完】


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