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怪人を侮るなかれ

「よーしよーし。」


 動物番組の動物使いの誰かを思い浮かべながら、私は飛びかかってくるリンリンを交わし、机の上をぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 人造怪人だったら体のどこかに制御プラグがあるはずで、そこをオフにすればエネルギー供給が阻害されて力を失うはずなのだ。


 私が雷光にされた事を思い出せば。


 あの日の私は身に起きた己の醜さと絶望と怒りで羽化してしまい、背中に畳まれていた四枚の羽を大きく大きく広げて羽ばたいた。


 一瞬で全てが炎によって破壊されていくその快感。


 私の怒りも憎しみも、いや、私が前世の二十八歳だった水瀬茉希みずせまきだった事すら燃やし尽くしたように脳みそから消え去った。

 私は全てを燃やし尽くす事に腐心してしまったのである。


 ところが、そんな私に抱きついて来た男がいた。


「俺と一緒になろう。」


 プロポーズのような、あるいは心中を持ち掛けられたようなセリフに私は私の部分をほんの少し取り戻し、己の羽ばたきを止めてしまった。

 雷光は私の腰を抱いて、私の足をもさらっと撫であげた。


 あれ、完全体の私は人間の足だったっけ?


 まあいい、とにかく彼は私の尾てい骨のすぐ上にあったプラグに、プラグに、ええと、私は思い出した事が思い出して良かったと喜ぶべきかと思いながら自分の制御プラグを指先で触ってみた。


「ああ!あいつはUSBメモリみたいなの差し込んでいた!」


 そう、差し込まれて私は感電した様になって終了し、次に気が付いた時には研究室のベッドの上で全裸美少女という姿で目を覚ましただけである。


「ああ!失敗!雷光を呼ばなきゃ!私じゃリンリンの怪人化を治せない!ってうわ!」


 ガシャガシャガシャーン。

 リンリンは私目掛けて机を投げつけて来たのだ。

 全てを交わしたが、どうしよう、リンリン型がどれだけ活動時間があるのか分からないというか、被害を考えて教室だけに籠っているのは無理な話だ。


「って、被害を考えなければいいのよ。悪い事をしたら悪い事が我が身に降りかかる。そうそう、あの子達だったら薬を持っているって言っていたし。」


 私は廊下側の壁と扉を見返した。

 怪人が襲い掛かるようになってから、すべての学校では教室をセーフティルームにするために開口部の扉には耐衝撃の素材のものが使われている。

 十市達が私達を教室に閉じ込めて安心して喜んでいるのは、怪人対策で設置されている扉が破かれる事は無いと思い込んでいるからであろう。


 窓ガラスも強化ガラス。

 窓から逃げられたとしても、ここは四階だ、と。

 恐らく私は四階ぐらい平気でしょうけど。


「よし。腹をくくるわ。」


 私は廊下側の壁にぺたりと背中を貼り付けた。

 さあ、パニックに陥った少女の叫びよ!


「いやあああ、助けて!私を押しつぶさないで!」


 リンリンは着ぐるみのような怪人顔でも、わかったという風に顔を醜く歪めてみせた。

 怪人だって言葉が大体は理解できるのだ。

 彼女は私が脅えていると信じ、私が押しつぶされたくないと叫ぶその通りに、屈めた体を作るとそのまま私目掛けて突進してきた。


「ぎゃああああ。」


 潰されるはずの一瞬。


 叫び声を上げて壁に自分の拳を打ち付けた。

 打ち付けたその勢いに乗り、私は壁から弾かれたようにして斜め左に飛んだ。

 りんりんは私がいた場所に頭から突っ込んだが、彼女は頭を下げていて私など見ていない。

 彼女は疑問に思うことなく壁にお思い切り頭突きをしたのだ。

 私が開けていた穴がある。

 脆弱となっていた壁は一瞬にして瓦解し、リンリンを廊下へと飛び出させた。


「きゃああ!」


「わああ!」


 廊下ではクラスメイト達の悲鳴が巻き起こり、その悲鳴も一気に教室前から遠ざかって行った。

 リンリンは私を最後まで追うよりも、犬の本能が勝ってしまったらしい。

 犬は逃げれば追いかける。


「よっし。人死が出ない程度には奮闘しましょう。」


 私もリンリンが飛び出た穴から廊下へ出た。


「うう!」

「ああ。」

「いたい、いたあい。」

「たすけて。」


 痛みに助けを求める声は十人分ほどあり、その中にリンリンの友人達の内、二人が転がっていた。

 私の胸を突いて見せたミルクティー髪の今鹿ゆまと、後ろの方で散々揶揄いの声をあげていた癇に障る高峰みゆうであった。

 今鹿は両足が開放骨折しているし、高峰は造形し直せるのか分からない程に鼻が潰れて陥没していた。

 彼女達以外の八名も死にそうな怪我は無いとみると、私はリンリンを追ってそこから駆け出していた。


 私はいじめっ子は大嫌いだ。

 少しくらい痛みに苦しめ。

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