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転生者の急増による神様の苦労  作者: 滋賀ヒロアキ
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後編

「……終わった~」


机に突っ伏して一息つく。

一先ず転生者を『第二十五異世界』へと無事に送り届けられた。後はあの異世界で、チート能力を使って頑張ってくれるだろう。

まったく、本当になんで神様の手違いが急に増え出したんだろう? もう転生者への対応に時間を割かれまくるせいで、僕自身の仕事がちっとも終わりゃしない。普段めったに使わないハズの『チート能力付加』の詠唱だって、もうとっくに暗記しちゃったよ。


「……て、そんなこと思ってる暇ないな。仕事しないと~」


そう言いながらしぶしぶ書類の山へと向かおうとしたその時、


ピピピピピピピピピピ


黒電話が鳴り出した。

おや、僕から電話をかけることはあっても、誰かから電話をかけられることは珍しい。

一体誰がどんな用事だろうか?

僕は少し嬉しい気持ちになりながら電話をとった。



「はい、もしもし?」


『ちょっとどうしてくれんのさーーーーっ!!!』


「ぎぃぃぃっ!!?」



嬉々としてとった受話器から響いてきたのは、目覚まし時計のようなキーキー声だった。思わず受話器を遠ざける。あと遠ざけるのが一秒遅ければ、僕の鼓膜は確実に破壊されていたであろう。


「そっ……その声はシラフさん? 『第三異世界』の管理人さんが、僕になんの用ですか?」


『なんの用もどの用もないですよーーーーっ!!!』


思わず受話器を放り投げそうになる。このシラフさんが出す、女性特有のキーキー声が僕は苦手だった。


「い、一体どうなさったので? シラフさん」


『あなた様が五日ほど前にコチラに送ってきた転生者さんのことですよーーーーっ!!!』


「ーーーっ! とりあえず、落ち着いてくださいシラフさん! このままじゃ転生者どうのの前に、僕の鼓膜が壊れます! 深呼吸してっ、ホラ、ひっひっふー」


それだけをどうにか伝えると、受話器の向こうでシラフさんが深呼吸をするのが聞こえた。

……うわ、よく聞いたらホントにひっひっふー、て言ってる。アホだ。


『……あー。すいません、お見苦しいところをお見せしました』


「いえ、大丈夫ですよ……。それよりも、五日ほど前に僕が送った転生者と言いますと……」


うーんと……と僕は唸る。正直転生者の顔なんていちいち覚えていないので、手元の端末で検索しようとしたが、それより先にシラフさんが教えてくれた。


齋豪(さいごう) 和期(かずき)さん。『第七異世界』でそちらの手違いで死んだ、40歳彼女無しフリーターのオッサンですよ』


「あー! あの人か!!」


名前を聞いて思い出した。創作物みたいな名前と、ガマガエルみたいな顔が特徴的だったオッサンだ。そういや送ったなそんな人。

確か顔があんまりにも酷かったから、チート能力とは別に実験的にコッソリ『イケメンになる加護』をつけてやっていたのだが、効果のほどはどうだったのだろう。

それをシラフさんに尋ねてみると、


『……随分とのんきですねぇ?第七世界の管理人さん?』


なんかすごい怒気のこもった声で返された。ヤバい。一度収まった怒りがぶり返していそうだ。


「え、えっと……それで? その齋谷(さいたに)さんがどうしたんですか?」


『齋豪さんですよ! よりにもよって送った人が間違えないでください!』


仕方ないでしょ! 仕事が忙しいのに、ちょっと二、三分話しただけの相手の名前なんていちいち覚えてられないし。


『ほんっっっっっっっと!!何なんですかあの齋豪さんって人!!!』


ようやくシラフさんはその齋豪さんについて話し出した。



『あの異世界の常識をまるで知らないし! 普通なら狩れないように設定してたドラゴンをあっさり狩っちゃうし! 魔法をしょっちゅう暴発させて町を半壊させるし! そんなことしても本人は「また俺なんかしちゃいました~?」てちっとも悪びれないし! ホントなんなんですかあの人!!』



「ちょちょちょちょ! 待ってください落ち着いて!!」


今まで溜め込んだ不満すべてをぶちまけるような話し方だったので、僕は慌てて止めにかかる。


「えーとシラフさん? すいませんが、順を追って話してくれませんか?」


諭すようにしてそう言うと、シラフさんは一度深呼吸をしてから、ゆっくりと話し始めた。


『送られてきたばっかの齋豪さんは、しばらくは戸惑っていました。ですが、やがて歩き出して、最寄りの街へとたどり着くことが出来ました。……ここまではよかったんです』


「……その後、なにがあったんですか?」


『その人、ギルドに入団することにしたらしいのですが、そのギルドの入団試験で……』


「入団試験で?」


『……魔法の加減を間違えて、遠くの山々を焼け野原にしました』


「……あ、なるほど」


確か僕が彼に授けた能力は、『魔法を無限にうち放題』てヤツだったな……。魔力も『ステカンスト』で限界突破してるだろうし、たぶん本当の意味で焼け野原にしちゃったんだろうなぁ……。


『幸いそこにいた人達にはなんの被害もなかったんですけど、その森にいた魔物達が、たくさん死んでしまって……!』


「それは……お気の毒に……」


『うっ……山の奥にいたリーフドラゴンは、おとなしい魔物でっ……最近やっと子供が産まれたのに……』


「……えーっと」


『そんな事したのに、齋豪さんは「や、やっちまった~。まぁでも次から加減すればいいか」で済ましちゃってますし……!』


「……ホントに、申し訳ございません……」


コチラの姿が見えているわけでもないのに、思い切り頭を下げてしまった。


『それから齋豪さんはギルドの仕事に引っ張りダコになったんです。一人でどんどん依頼をこなすせいで、他の冒険者さんたちは仕事が無くなっちゃうし……本人は「面倒だな……」とか言ってるくせに全然仕事を断りませんし……!』


確か、僕のところに来たときは彼、「異世界では穏やかに生きたい」とか言ってたな……。なんで自ら危険に飛び込むような真似をするのか……。


『もうっ!! ホントになんですかあの人!? バカですか!? 死ぬんですか!? ◯チ◯イなんですか!!?』


ちょちょちょちょちょ。今女の人が言ってはいけない言葉が飛び出したぞ。


『もう管理者権限であの人殺していいですか?』


「サラッと怖いこと言わないでください。そんなことは神様界のルールで禁止されてますから……」


転生者に対しては、神は手を出してはいけない。

誰が定めたのかは知らないけ(ry。


『もう齋豪さんを引き取ってくださいよ!! 元はそちらの世界の住人でしょう!? あの平和だった第三異世界を返してくださいってーーーーっ!!』


「おっ、落ち着いてくださいシラフさん……。大丈夫です、今度齋豪さんと対になるような、別の転生者を送りますから……」


『ほっ……本当ですかぁ……』


……嘘だけど。

一つの異世界に二人以上転生者を送ってはならない、ていうルールがあるからな……。


『おっ、お願いしますよぉ……』


あ、ダメだ、シラフさん今マジ泣き状態だ。

うーむ……さすがにここまで泣かれては、なにもしないと言うのもな……。

今度大神様にかけあってみようか?



その後シラフさんと二言三言、井戸神会議をしてから(ようするに神様界の世間話さ)、ようやく電話を切った。


「ああもう……頭痛い……! ホント勘弁してよ誤殺なんて……!」


この神様による人間の誤殺問題が始まってから、僕の頭痛のタネは増えてばかりだ……!

やっぱり人間を異世界に送るのはともかく、チート能力をつけるっていうのはなくてもいいんじゃないかな……。そんな人間をなんの力のない人たちもいる異世界に送ったら、平和な谷に悪魔が来たかのごとく蹂躙されるだけだろうに。

転生者も転生者だ。

別に大の大人が子供用遊具で遊ぶのは構わないけど、それを見守る側の立場にもなってほしいもんだ……。


「ハァー……。もういいや、早く仕事しよう……て、アレ?」


そんなつまらない思考を断ち切って、仕事に戻ると、先程まであった書類の山が、もう一つ増えていた。


「……嘘だろう?」


僕がひきつった笑いを浮かべたのと同時に、再び執務室のドアが音を立てて開かれた。


「すいませんっ!! ミカエルくんが、また人間の高校生を誤殺して……!!」



……もうヤダ。

僕も異世界に転生したい……。



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