50話 きょうだいのヒエラルキー?
親切なぺんぎんさん達に助けられ、私達は馬車ごと無事に、不思議な渓谷を抜けられた。
意外にも、次の街は近い場所にある。ただめちゃくちゃに馬車を走らせたのかと思ったけど、マキニカさんの言ってた通り近道ではあったらしい。……まさか渓谷に落ちるとは思わなかったけどね。
今はその門の脇。シェオさんはそのまま王都に帰るそうだから、のんびり目指す私達とは別で行動する。現在、行方不明扱いだからね。早く帰らないとだ。
「なにゃにゃ! シェオって王子さまだったの~!?」
キルティさんが驚いている。けどその顔には、なんかちょっと違う、と書いてある。
そうですね、その細く整った顔や紳士的な雰囲気だけみれば納得なんですが……。
マキニカさんに貸していたマントを受け取ったシェオさん。その吟遊詩人っぽい恰好は、カモフラージュの為だろうからいいとして。
「ああ、レモナさま。貴女は何故レモナさまなのでしょう。……女神さまだからでございますね」
「んて、自分で答えてんじゃんか。や、だから女神じゃねーっての」
「ははは、お戯れを。レモナさまのお美しさには、月も恥らってしまいますよ」
レモナさまと慕うその姿はどこか残念としかいえない。
一方のレモナさんは、少し面倒そうだ。ロウさんは全力で我関せずを貫いている。またナイトうんぬんと言われたくないからだと思われる。
「あらー。聖女なあたしの前で、神について語るとは良い度胸よね、シェオ」
「マキニカ姉さん」
それまで、ラシュエルくんのむにむに頬っぺを堪能していたマキニカさん。シェオさんの、女神さま発言に対して食いつく。
そりゃ教会に遣えてるんだもんね。
「申し訳ございません。ですが、アルヴァン王国の神さまのお姿は、亀さまでございましょう?」
「そうよー。とはいえ、声は可愛らしいのよね」
シェオさんとマキニカさんの会話は、まるで神さまに会った事があるみたいだけど……。聖女ともなれば、夢とかで会えたりするのかな?
あ、ラシュエルくんが私の隣に。精一杯、頬っぺを押さえている。むにむにに対する防止策かな。
背後のキルティさんには気をつけてくださいね?
「ともあれよ。レモナが困ってるわよー? 昔はよくあたしの後をついてきて、好きって言ってくれてたじゃない。お姉さん寂しいわー」
「で、ですから昔の話でございますと」
「あら。あたしは全部覚えてるのよねー。そうね、例えば裏の海に二人で抜け出して行った時は……」
楽しげに思い出を語ろうとするマキニカさんに、シェオさんは冷や汗を流している。
レモナさんには、ぐいぐいといくシェオさんだけど。お姉さんであるマキニカさんには弱いらしい。
やっぱり、弟は可愛いものなのかな。マキニカさんはからかいつつも、そのシェオさんと同じ細目な瞳の奥は優しい。……だからこそ、シェオさんが居たたまれないところがあるんだけどね。
私は妹しかいないけど、何故か主導権は妹に握られていた。鍵尾碧、まだ小学生なのに末恐ろしい。
それとも、あるあるなのかな。男女なのか、姉妹なのかの違いかもしれない。
そしてこれ以上はマズイと判断したのか。シェオさんが慌ててマキニカさんを止める。
「マキニカ姉さん、分かりました。女神さまとは言わないよう気をつけましょう。…………レモナさま」
「んあ?」
「とはいえ、レモナさまをお慕い申している気持ちは変えられません。どうかお許しくださいませんか?」
「や、そのなー……?」
まっすぐに見つめられ、さすがに言葉に詰まるレモナさん。
逆再生のように器用に後退り、ロウさんへと何やら相談をしている。
その後、仕方ないといった様子でロウさんが頷いた。同じ足運びで戻ってきたレモナさんが、シェオさんにある事を告げる。
「――……つーわけでさ。アタシらは転生者で、んでアタシの前世が男だったんだよなー。言ってなくて悪ぃシェオ。そんでやっぱ、ほれ。そこはヤじゃねぇ?」
何を相談したのかと思ったら、転生者である秘密を言うかどうかについてだったみたい。そしてレモナさんが男性という事も。
シェオさん達は王族だから、できればバレたくない権力者筆頭ではあるけどね。向こうが身分について言ってくれたのもあり、言うことにしたようだ。
対して、突然衝撃的な事実を伝えられたシェオさんは……。
「昔がどうあろうと、星よりも耀かしいレモナさまがここにおられる。そこに違いはなく、私の心に変わりはございませんよ」
「マジか」
イケメンな回答が返ってきただけだった。
腕を組み、わざとらしく考え込んだレモナさん。顔を上げニヤリと笑い、シェオさんに告げる。
「ま。シェオがいいっつーなら、いーけどさ。ナイトってのは置いといてな。アタシけっこー酒好きでさ、どうせなら飲める方がいんだよなー」
「なるほど。それが試練という訳でございますね。つまり現ナイトである彼は突破済み。私も追いつかなければなりませんね」
「いや、俺はたいして飲めんぞ……」
やはり拡大解釈してゆくシェオさん。あれかな、お姫様にお近づきになる為の試練と受け取ったらしい。まあ間違ってはないのかもだけど。
思わず反応しちゃったロウさんの呟きも耳に入らない様子で、ふむふむと頷いている。
「畏まりました。レモナ様のナイトたるもの、様々な面での鍛錬が必要だという事は当然の理。必ずや、やり遂げてみせましょう」
「んえ? や、んな意気込まんでもっつか。……あー、分かった。つまり今度さ、酒飲もーなー」
有難きお言葉! そう、華麗な礼をしながら恭しく言うシェオさん。すぐにカレフリッチに乗り、さらさらと流れる銀の髪をなびかせ、颯爽と去っていった。
嵐のような人というけど、シェオさんは春一番が近いかな。暖かく柔らかいのに、突然に強く吹いて翻弄していく。
また後でねー、と見送ったマキニカさんは、私達と一緒に王都に行くよ。
マキニカさんの脱走は今に始まった事じゃないらしいし、御者としてついてきたんだから、そこまではやるとの事。王女さまに御者させる訳にはいかないと言っても、そこは譲らなかった。そうと決めたら譲らないのは、やっぱり姉弟だね。
無事門をくぐって街に。すると、マキニカさんがゆる~りとレモナさんに近づき話しかける。
「ところで。あなたお酒好きって言ってたわよね。実はわたしも好きなのよねー。普段は聖女だからって飲ませてくれないのよ。……今からどうかしら?」
「お、いーじゃん。マキと飲むの楽しそーだしなー」
まさかの酒飲み連盟が発足した。
聖女さまなら、お付きの人が止めてるんだろうね。マキニカさんを止めるのは大変そうだ。ご苦労さまです。
うーん、それにしてもこの二人……。
「つかさ、なんかアタシ達って似てね?」
「あら奇遇ねレモナ。あたしもそう思ってたのよ。似た者同士、これからじゃんじゃん飲むわよー!」
サラサラ黄金の髪を煌めかせる、女神さまかのごとき容姿のレモナさん。
ラフな格好で寝ぐせのついたままの緑髪だけど、本当は聖女なマキニカさん。
ある意味最強タッグ。にししと悪代官のように声を潜めて笑っている。
「と、いう訳で。いくわよロウ」
「……は?」
「うっし。レッツゴーだなー」
二人の酒飲みを呆れた様子で見ていたロウさんが、巻き込まれた。
がっし、と左右から肩を組まれている。
「おい、だから俺は飲めないと……はあ」
動けないロウさんはそのまま引きずられるように、連れ去られていく。諦めのため息と共に。
「じゃあ~、わたしたちはご飯食べたりお買い物したりして遊んでようよ~。ね、ラシュくん、アオイちゃん」
「……ん。ごはん、たべる」
「はい、キルティさん」
残った私達はのんびり街に繰り出す。
ロウさん。
王都につくまでは、マキニカさんも増えたことで女難感が増してますね。
一度、本当にお祓いしてもらった方が良くないですか?




