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ぺんぎん×エンカウント  作者: 朝山なの
ぺんぎんとハンターの依頼
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14話 転生ぺんぎんとは


 ハンターギルドアニモス支部。


 ついさっきの『アオイの名字を皆で考えようの会』により出た、五つの候補のメモを持ってギルドの受付カウンターに並んでいた。


 こういうギルドというと、がさつというか、乱雑に色んな人や物が入り乱れてるイメージがあったけど。全然そんなことはなく、近いイメージだと市役所? それよりは雑談が聞こえて騒がしい、というくらいだった。

 酒場の併設とかはない代わりにテーブルと椅子はいくつかあるようだ。奥には個室もあるけど、相談用かな。


 とにかく広く、案外清潔な場所だ。


 ……今までのを思い返しても、前世の異世界イメージはあんまり役にたたないみたいだ。それとも私の知識が偏っているからかな?



 受付は二つあり、一つは知らない獣人の女性が。もう一つはきつね色の髪にまろ眉の女性――メネさんがいた。

 順番的に私達はメネさんの受付になった。ロウさんがカウンターごしに話し出す。

 昨日ぶりです、メネさん。


「お次の方どうぞ~。……あら、『魂の定義』の皆さんではないですか~。ショーの件、申し訳ありませんでした。本日はその件で?」

「いや。今日はまず、アオイのハンター登録をしたくてきた」

「アオイさん、昨日お世話になったぺんぎんさんでしたね~」

「名字の候補は考えたんだが……。ギルド職員から見てどれがいいか選んでくれないだろうか」

「名字、ですか? 拝見しますね~」


 ロウさんが名字メモを取り出しメネさんに手渡す。


 メネさんがそれに目を落とし……固まった。


 いつものにこにこ笑顔のまま、視線をメモに固定して微動だにしない。

 恐らく、およそ名字の候補とは思えない内容に、メモを間違えていると指摘すべきか、真面目に検分すべきか考えあぐねているのだと思う。


 しかし、一つまともそうなのがあるのに気付いたメネさん。

 『チェスロー』、これならばと希望を見いだし顔をあげ見た先は。



「ふにゃぁ~……アオイちゃんが妹に! チェスロー姉妹、チェスロー姉妹って呼ばれちゃうよね~♪ うへ、ぬっへへぇ~」



 メネさんはサッと顔をそらした。


 奇妙な笑い声を出し、だらーっとだらけたキルティさんの口から溢れる言葉に、色々察したみたい。



 ちら、とメネさんに目を向けられる。

 視線で問われているのだと理解した私は、ぶんぶんと激しく左右に首を身体ごと振る。


 私の意思は正しく伝わったらしい。

 メネさんの私を見る目が優しい……。あれは哀れんでいるのと同情とが混ざった目だ。

 あの完璧笑顔を崩させる程に、破壊力のある候補で可哀想に思われているという事だね。



――――任せなさい。借りは返すわ。



 ぐっ、と頼もしく頷くメネさん。ロウさん達へと、名字をつける事を諦めるよう説得してくれる。


 うぅ、メネさん。あなたと出逢えて良かったです……!



 ☆



「残念だったよね~、名字つけられなくて。うんうん、姉妹になるのは名字からだけとは限らないもんね~」

「んなー、キル。まっさか魔物は名字つける必要ねーなんてなー。ま、考えんの楽しかったからいーけどなー」

「レモナはそうだろうな……。そもそも従魔はハンター登録できないとはな。『キルティの従魔』としての登録だけと言っていた。アオイはアオイで良かったということか」

「ん。ロウの、いうとおり。アオイさん、はそのまま……いちばん」


 結局、受付嬢力を全力で使って説得してくれたメネさんによって、私に名字がつく事は回避できたのだった。


 まあ皆も登録に必要だと思っていたから考えてくれただけで、名字をつけるのにこだわりがあった訳じゃないからね。……約一名を除いて。

 一番闇の深そうなキルティさんにどんな説明をしたのかはお察しだ。



 ギルドを出た後は宿屋の奥さんからの依頼を受けて。オークの狩猟場所であり、ククロの花が咲くというリンドの森へと向かった私達。


 移動手段はレンタカーならぬレンタ『カレフリッチ』。あのキリン頭にダチョウの体の馬車だ。


 昨日は馬車までちゃんと見る余裕が無かったから気づかなかったけど、この馬車はかなり窓が大きく作られている。窓とは言ってもガラスは嵌まっていなく、代わりに縁の左右に淡い水色の石が嵌まっていた。

 多分だけど、あれを使ってか、魔法的な何かで窓の役割をするのだと思う。じゃないと雨が降ってきたら大惨事だからね。

 馬車の揺れが少ないのも小さい身体を持つ身としては嬉しい。


 そして現在、ここはリンドの森の入口からすぐの場所。


 カレフリッチ馬車は入口脇の専用の場所に留め、そこからは歩いて森を進む。


 途中すれ違った、同じくハンターパーティーだと思われる人達は、私達を見てミーハー的に興奮していた。

 そりゃ噂になるよね、こんな目立つ人達ばかりのパーティーだし。……私もそれに含まれるのかな? 私は転生者でも、見た目はただのぺんぎんだから大丈夫だと思いたい。


 特に交流のある同士ではないから、お互い会釈だけして通りすぎた。

 「(なま)『魂の定義』だった」とか後ろから聞こえてきますが、どれだけ有名なんですか、皆さん……。ランクで言ったらEランクって多分、そんなに高くないですよね?



「ね~見て見て! 昨日アオイちゃんと会った湖だよ~」


 キルティさんがとても嬉しそうに湖に駆け寄る。一人になって魔物が出てくると危ないので、私達も慌てて近づく。

 ロウさんが何か言いたげだけど、今回はお咎めは無いらしい。


 私が居た場所だから気を使ってくれてるのかな?


「あ、確かにここですね。昨日皆さんに会うまでは、あまりの事態に思考が停止して、ずっと湖を眺めてましたから」


 そんなにちゃんと見た訳ではないけどね。見る余裕も無かったとも言える。

 とにかく向こうの山の景色とかが一緒なのは間違いない。


「ふーん。んじゃ、アオはよくこの湖に来てたっつー事なんかー?」

「え?……あ、いえ! 私、皆さんと会った日が、初めてこの世界に来た日――この場合は生まれた日でしょうか。とにかく昨日が最初だったんですよ」


 レモナさんの質問に、その話を言っていなかった事を思い出す。

 私の性格からか、サバイバルぺんぎんしてたとは思われていなかったみたいだけど。隠すことでも無いので誤解は解いておこう。


 すると何故か全員驚いた顔をしていた。あ、あれ。そんなに驚くことかな。


「それはつまり……生まれた時から前世の記憶があったと言うことか?」

「はいロウさん。でも、赤ちゃんぺんぎんの記憶はないので。ん? えと、どういう状態なんだろう、私……」


 ロウさんの質問に考えこみ、よく分からなくなってくる。


 そういえば親ぺんぎんも見た覚えがない。

 この世界で初めて見たあのぺんぎん達の誰かが親だったのか、それとも全員兄弟だったのか……。


 あの頃記憶が混濁してたみたいだったから、本当はぴぎゃーっと産まれた瞬間を忘れてるだけかもしれない。


「まものは、うまれかた……ちがうらしい、から。もんだいはない……かも」

「魔物っつーのはさ、いまだに赤ちゃんらしーのが発見されてねーんだよなー」

「うんうん。だからね、問題はそこじゃなくてね~?」


 ラシュエルくん、レモナさん、キルティさんの言葉によく分からなくなってくる。

 えーと、魔物には赤ちゃんは存在しない?

 まあ、詳しいところは置いといても、生後一日目に、私が成人ならぬ成ぺんぎんなのは普通なことらしい。


 にも関わらず、皆がなんだか微妙な顔をしている。


 言いづらそうにロウさんが話し出す。


「俺達人間の転生者は、生まれてからは普通に、この世界の人間として生活をしていたんだ。それがある時を境に、前世の記憶が戻る場合があるわけだが……」

「てか多分どいつもさ、おんなじなんじゃねー? 生まれてすぐっつーのは聞いたことねーしなー」

「まものの、転生者は……きいたことない、かも」


 ロウさんの話に、レモナさんもラシュエルくんも同じ意見のようだ。

 それって私がすごく珍しいってことかな?


 しかも同じ転生でも、魔物は前世の記憶が元からあって、人間は途中からだ、という事が今分かったってわけだ。

 これは魔物に転生した人間がいないと分からない事だよね。


 ……あ、てことは?



「うにゃっ、アオイちゃんはわたしがちゃんと守るから、安心してね! 実験ぺんぎん(・・・・・・)にはさせないもんね~っ!」


 やっぱりそうですよね、キルティさん!?

 だから皆さん微妙な顔してたんですね……。



 私が転生者だってバレる。

 すると新事実発見の可能性ありの為、にこにこ嬉しい研究者に拉致られる。


 楽しい楽しい実験ライフ(被験者)だよ♪



 昨日は、できればバレないようにレベルだと思ってたけど、それは人間の場合。


 私はぺんぎん。



 うん。絶対転生者だってバレないようにしなきゃ。

 実験ぺんぎんは嫌だからね……ぴえぇぇ。





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