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拝啓 ライダーねぇさん より  作者: ハンオン リョウヤ
18/19

どこまでも 愛しい君へ


 『拝啓 ライダーねぇさん より』————————————


 —————————初めて貰ったラブレターは、一目瞭然なまでに自己主張の激しい書き出し文だった。



 拝啓 ライダーねぇさん より


 こんにちは。急なお手紙でびっくりさせたかもしれません。

 アタシは、先日あなたにお会いした「ミヨゾティ」と申します。

 どうか、なんの前置きもなく送り付けたこの手紙を許してください。


 兎にも角にも、あなたには訳の分からないことで、随分な迷惑をかけていると思います。

 それでも、たった数日の間でしたが、たくさん話が出来たことはこの上なく幸せでした。

 月を触ってみたいと話してくれたとこや、輝く月のこと、本当に色々な話が出来て楽しかったです。

 その中でも、アタシにとって一番うれしかったことは、あなたがアタシに『パール・ブルー』について色々なことを教えてくれたことです・・・—————————————。



 —————————彼女からの手紙は、初めて会ったときのことから、しばらく一緒に話をして過ごした日のことまで、細かいほどの出来事が、彼女という存在の脚色を加えて綴られていた。

当の本人からしてみれば、甚だ記憶違いです、と送り返してみればよいものを、その少年はなぜだか、送られてきた手紙をそっと机の引き出しにしまい込んだ。

主観的に考えていれば、後々恐ろしくもならなかっただろうに————————彼はあろうことか、この手紙の内容は主観的にみて、事実と何ら遜色ないと判断してしまったのが運の尽きだった。


 そして、手紙の返事を出すことなど、頭から一切抜けていたせいか、毎日毎日途絶えることなく送られてきた手紙はまるで、彼からの返事を催促しているかのように錯覚させた。

結局、少年は大人になってからというもの、何百通にもなるほどの大量の手紙に一度も返事は出さなかった。

それには、信じがたい出来事が———————彼女との奇妙な出会いが——————尾を引いたせいで、そのことが余計な恐怖心を煽ってしまったことに原因がある。

 

 しかし、運の尽きとは言ってみたものの、実際にはその出会いは「運命的」と言わざるを得なかったし、まだ当時の彼は知る由もないが、長い月日を経て2人はまさに「運命的」な再会を果たす。


 そしてここでは、彼女からの手紙の中で記されていた、意味深で記憶に留まった—————————何よりもメッセージ性の強い一文ないし二文を紹介する。

それらはあくまでも、一部を抜粋したものであり、その前後にはどんな関係性も影響力も存在しないことを、あらかじめ断っておく。


 言い忘れていたが、ライダーねぇさんこと、ミヨゾティが熱心に手紙を送り続けた少年の名は——————「ヘレニック」という。



 【50xx年11月5日より 一部抜粋】

 ——————・・・無粋な神父を送りました、なんて冗談言ったらきっと怒られるでしょうね。あたかも、あなたと会うために、アタシがあの人を差し向けましたなんて。それでも、あなたも知ってるあの教会の神父様は、誰よりも本当は混じり気のない、澄んだ人だと思いました。だから、どうか迷ったときは、あの人に助けを乞うべきではないかしら・・・——————


 【50xx年11月29日より 一部抜粋】

 ——————・・・アタシの住む月からだと、あなたたちの住む『パール・ブルー』はとても小さく見えます。だから時折、本当に元気に過ごしているのだろうかと心配になり、「パール・ブルーに生きる者よ!変わりないですか!」って、つい叫びたくなります。あなたはいかがお過ごしですか?・・・———————


 【50xx年12月17日より 一部抜粋】

 ——————・・・昨日、アタシの友人が「何だかつまらないなー」と、ため息交じりに零してました。アタシにはあなたという恋しい人がいてくれるので、その子の気持ちは分からなかったけど、あっという間に過ぎていく、今日という一瞬を曲がり形にも、よく過ごしていかなければ・・・と思いました・・・——————


 【50xx年1月6日より 一部抜粋】

 ——————・・・あなたに会える日が待ち遠しくて、まだ完全な大人でないアタシが「パール・ブルー」に住めないことがもどかしいです。こんなアタシでもときには、どうか固い決意を胸にこの月を飛び出してみたいものです・・・——————


 【50xx年2月23日より 一部抜粋】

 ——————・・・月では、「カレン」というとても可愛らしい花が咲きました。でもその花は名前の通り、まるで可憐な少女のようであると同時に、その散り際は可憐でありながら儚いのです。たとえ散ることが抗えない定めだとしても、どうせなら、散ることなき想いを抱いて散っていきたいものです・・・———————


 【50xx年3月10日より 一部抜粋】

 ——————・・・夢の中で、泣いているあなたに会いました。あなたはどこか寂し気で、アタシの方に振り向こうとしないので、最近本で読んで知った言葉を投げかけました。「生きること、ためらうこと勿れ」と、あなたがまるで、そう言って欲しそうな背中を見せていたのです・・・———————


 【50xx年3月31日より 一部抜粋】

 ——————・・・ふと、心配になって手紙を書いています。あなたの弱った顔が浮かんでしまったもので。それでも、「ときに惑いし君を偲んで」という懐かしいうたを思い出して、愛しいあなたを遠くから見守っています・・・———————


 【50xx年4月24日より 一部抜粋】

 ——————・・・閉じた世界に窓1つ作り上げることは、思いのほか容易ではないようです。あなたはきっとアタシのことなんか好きじゃないんだろうけど、それで良くても、アタシはいつか無理矢理に用意した窓枠から、あなたに連れ去られてみたい、なんてことを考えてみたりしているのです・・・——————


 【50xx年5月20日より 一部抜粋】

 ——————・・・郷愁、という言葉を知っていますか?故郷を懐かしく思うことを、意味するんだそうです。いつか月を離れても、アタシのことをノスタルジーが連れ去る頃には、きっと、あなたのことしか考えられないはずなのです・・・——————


 【50xx年6月4日より 一部抜粋】

 ——————・・・今こうして、アタシのあなたへの気持ちを惜しみなく伝えられるとするなら、それは、あらん限りの滴る叫びや、それを恥じらいつつ綴ったこの手紙でしょうか。あるたけの想いは、声にしないと届かないのに、この手紙なら少しばかりは、伝わる気がするのです・・・——————


 【50xx年6月15日より 一部抜粋】

 ——————・・・この世には、総じて同じものは存在しないのだと、宇宙の星を眺めていて思いました。どの星々も、一つとして同じ大きさや同じ輝きを放つものが見当たらないからです。とめどなく廻る月日に宿るものがあるならば、それは多分、「唯一」という概念なのでしょうか・・・—————


 【50xx年7月7日より 一部抜粋】

 ——————・・・近所の蓮池が埋め立てられると知って、ひどく寂しくなったのは、そこに小さい頃からの思い出があったから。それでもいつかは訪れると気づいていたそのときは、あっさりやってきて、懐かしい記憶にふたをしたのです・・・—————


 【50xx年8月10日より 一部抜粋】

 ——————・・・月ではあなたと出会って、ずいぶん経った気がしています。そんな節目のような瞬間をふと感じて、このだだっ広い宇宙で、果てなき世界で出会って、こうして今のアタシがいることに、やはり「運命」を予感せずにはいられません・・・——————


 【50xx年9月3日より 一部抜粋】

 ——————・・・相変わらず元気にしてますか?あなたと出会って、どれほどの月日が流れたのでしょう。まだ幼かったあなたが、次会う時にはどんな素敵な大人になっているのか楽しみです。たとえ、どんな人になっていようとも、あの頃からの心根の素敵なあなたを、きっと忘れもしないのでしょうね・・・——————


 【50xx年9月28日より 一部抜粋】

 ——————・・・日に日に、あなたに会いたいと思う気持ちが強くなっています。待つというのも案外、辛抱ることなのですね。それでも、別れは再会を約束するのだから、それを希望に今日もあなたへの揺るがぬ思いをしたためます・・・——————


 【50xx10月12日より 一部抜粋】

 ——————・・・いよいよ、あなたに会える日が近づいてきたようです。少しずつ月の震動が強まりつつあります。しばらくしたら、アタシも月を発つ予定です。待ち焦がれる中、やっとのことでこの常盤の想いも、成就するのかと思うと、居ても立ってもいられません・・・——————


 【50xx10月26日より 一部抜粋】

 ——————・・・あなた宛てに送る手紙も、おそらくこれで最後になります。ようするに、月面表皮の剥落が頻繁に起こるようになってきたからです。あなたたちが「ライトシャワー」と呼ぶその光景はまさに、『パール・ブルー』に帰る者よ、といった気さえします。もうしばらく待っててください・・・——————



 こういった内容の手紙が何十通、何百通、何千通と届いたのであるから驚愕である。

「パール・ブルー」と月での時の進み方には大きな差があるにもかかわらず、彼女は毎日、その二間を往復する配達員に凝りもせず、「パール・ブルー」での一日ごとの時の流れの感覚を教えてもらっては、ヘレニックの元へ毎日手紙が届くように計画立てていたのだ。

一言でいうなれば、末恐ろしい愛情である。


 そして、その手紙はいつの日か日常的な内容中心だったものから、焦がれ待ちわびるラブレターになっていった。

最初の頃こそ、驚きと警戒心しかなかった彼だが、この一方的なやり取りが続けば自然と彼女のことを無自覚にも思い出すようになっていたのだ。



 いつまで経っても、いくつになっても変わることのなかったミヨゾティの熱い想いは、こうして確かに花咲いた。


 かくして、これから先の人生の方が長いのであろうと過信しながら、2人の物語はこうして一旦幕を下ろす。

眩しいほどに恋い焦がれた彼らは、もう一歩先を2人して歩んでいくのだろう。



 あれだけ幼い頃から知っていたヘレニックが、こうして一人の女性と幸せになる日が訪れるとは夢にも思わなかったと、秘かに見守り続けてきた「私」には感慨深いものである。

息子の「チャイナ・シー」も、それなりに彼らを導いたようで、「私」は天でほっと息をつけるというものだ。



 何よりも輝かしいヘレニックとミヨゾティの笑い合う姿に、思い残すことはないのだと胸を撫で下ろす。

そして、過ぎ去る現在(いま)に、星が流れて弧を描くように大きく手を振るのだ。

幾千の星が瞬き、月が夜空にきらめく中で、2人は出会った————————。


 そして————————————



 彼らの恋は、宇宙を駆けた——————————。



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