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拝啓 ライダーねぇさん より  作者: ハンオン リョウヤ
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無粋な神父を送りました


「主は仰った」


「ロードバイクを乗りこなす、純白のウェディングドレスを身に纏った一人の女が現れたとき」


「その女は、お前の嫁となる者らしい————」


 丸ハゲ坊主頭の男———その神父は、齢9歳の僕に気だるげそうに、そう告げた。


★☆★


 はなから、あのお告げは胡散臭かった。


 俺は、まだ俺のことを自分で「僕」と呼んでいたあの可愛らしかった頃の俺を、どうにか助けてやりたかったと後悔の日々を送っている。


 気まぐれなんかじゃなくて、毎日ひょっこり顔を覗かせていた教会。


 いつもの、腹の出ている恰幅のいい、優しそうな白髪の神父が病で倒れたと知ったのは、町では彼がその人のよさで有名だったから、ということ。それから、この町の人々が、どこか噂好きな奴らが多かったからだろう。


 「彼はもう長くはない」


 人はいずれ死を迎える。いつぞや、その優しかった神父はそう言って教えてくれたけれど、まだ幼かった俺は「死」というものがイマイチ、実感として湧いてこなかった。それでも、彼の死期を悟ったかのような心無い人々のそれは、あの頃の俺にも、それとなく寂しいものだと感じて取れた。


 優しかった神父が倒れて1ヶ月もしないうちに、彼は多くの人々に見守られながら、早々にこの世を旅立ってしまった。彼の死を惜しむ声が、あの頃の俺には異様に鮮明な記憶として、今も忘れられずにいる。


 『忘れられないっていうことが、誰かの中で生き続けるってことなんですか?』


 幼かった俺は、誰に問うわけでもなく、そんな自問を繰り返していた。答えが欲しいわけじゃなかった。ただ、応えてくれる人はもうこの世にはいないのだと、頭ごなしに教え込まれたような気がしていただけだ。


 そして、優しかった神父がこの世を去ったとき、俺はまだ9つで、ふてぶてしさが頭角を現し始めてきた頃。俺にとっては衝撃的過ぎて、もう二度とこんな体験はすることがないんだと、確信させられた人物に出会う。


 「いやぁ、そりゃ無理だろ」


 「誰かの中で生き続けるなんて、そりゃあ、できねぇもんじゃねぇのかぁ?」


 「じゃあお前、もし自分が死んで、主はそんなこと許してくださるとでも思うか?」


 「死んでまで、誰かに思い続けてもらおうなんて」


 「死んでまで、誰かの中で生き続けんなって、この不届き者が!!・・・って、怒られちまうぞ」


 「死人は死人らしく、大人しく主の傍で眠りなさいってことだ———と」


 最悪だった。恐ろしく、最悪だった。


 どんなことでも、ホイホイと鵜呑みにしてしまう。そんな純粋な子供の言うことを、この大人は無粋に、無遠慮な感じで真っ向から否定してきたのだ。こんなセリフ、大人の言うことじゃないと思った。


 仮に、こんな出会いが無ければと考えてもみたが、それはそれでゾッとした。もし、その大人の言うことが正しければ、俺は本当に騙されたような気分で、この先の人生を過ごしていくつもりだったのだから。


 そして、その大人は教会の壇上の前に立ち、その背後一面に装飾されたステンドグラスの壁を背にして言った。


「そう、主は仰った」


 太陽の陽が、ステンドグラスを通して乱反射する。その何色にもギラギラと輝く光は、その大人の言い分が正しいとでも言うかのように、俺の瞳に刺さっていた。


 この無粋な大人こそが、あの亡くなった優しき神父の後任として、この教会に配属された神父であることを、俺はすぐに知った。


その無粋な大人———もとい、新しい神父は、丸ハゲ坊主頭にサングラスという変わったいで立ちで、その身なりからでは、とても神に仕える者だとは検討もつかないだろう。


 どちらかと言えば、限りなく「そういうこと」には無関心そうな雰囲気を漂わせていたからだ。


 けれど、それすらを打ち消すかのような真っ黒なキャソックが、奇妙なほどに様になっていたことが不思議だった。


 だからだろうか。


 俺は、無粋な神父の言葉も簡単に受け入れてしまったし、あの優しかった神父は、やはり、どこにもいないのだということを初めて覚えたのだ。


 こうして、その無粋な神父は、この町のこの教会で働くことになった。


 しかし、町の誰もが快く彼を受け入れたわけでは勿論なく、心地の悪い不信感だけが、何となく、彼と俺らを繋ぎとめているように思えた。





 そんなある日のことだった。なんの前触れもなく訪れたその日。俺はまた、いつもの教会にひょっこり顔を覗かせていた。そんな日のことだった。


 無粋な神父は、聖書を片手に、視界に映った俺を中へ入って来いと手招きして告げたのだ。


 「主は仰った———」


 気だるげそうに、適当に、これさえ言っときゃいいんだろと、言わんばかりの言い草。それがちょっとだけ気に入らなかったけれど、俺は黙って聞いていた。


 そして、今回ばかりは、この人の———否、神のお告げにも、さすがの俺も騙されなかった。だって、考えてもみて欲しい。将来の嫁さんが一体どんな人なのかなんて、占い師じゃあるまいのに、神父がそんなデタラメ言って大丈夫なのかと、逆に心配になった。


 「そんなこと、信じられません・・・」


 俺は口を開くと、まずは最初にとりあえず、神父に言い返してみた。すると、神父は少し困ったように笑ってみせて、あくまでも、穏やかな口調で


 「———そう、主は仰った」


 釘をさすかのようにそう言って、俺の頭をぐしゃぐしゃっと、乱雑に撫でてみせた。


★☆★


 言い忘れていたが、この前置きは、現在24歳の俺の幼い頃の回想で、決してこの神父と俺の物語、というわけではない。


 じゃあ一体、あの衝撃的な出会いから15年も経った今、俺がどうしているのかと聞かれると—————


 厄介なことに、俺はかつてお告げを受けたその未来の嫁に、いい加減鬱陶しがるのも疲れるほどの、お熱いアプローチを受けていた。






『これは、

眩しいほどに

恋焦がれているだけの物語』


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