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メゴスVSギドン 大怪獣 史上最大の決戦  作者: 頭ハジメ
第1章 発動
8/40

第8話 東洋航空貨物機墜落現場 -徳島県高城山




 徳島県にある高城山たかしろやまは、徳島県西部に存在する。

 四国山地のなかにあって、剣山などの山々に囲まれている。標高は1600メートル以上ある。


 春や夏には山が緑に染まり、秋になれば紅葉が美しくなる。

 冬は木々は葉を枯らし、代わりに雪が深々と積もる。

 

 普段ならば、白一色化粧された、静かな山。

 しかし、今、山の南東に大きな痣のようなものが浮かび上がっていた。

 雪は消え、木々は倒れ、その部分は黒く焼けていた。そして、翼を無くした飛行機の胴体が中央部分で前後に別れ、山に突っ込んでいた。周辺には木々が焼けこげて倒れ、飛行機の破片などが飛び散っている。


 その場所には多くの人々が集まり、上空にはヘリが飛び回っていた。

 静けさはかき消され、高城山はいつもと違った様子を見せている。




 


「えっ!?」


 大山教授が大声で聞き返した。


 国土交通省の但野審議官は、耳元でさらに大声で返す。


「東洋航空878便の乗員は3人! うち2名の死亡を確認! もう1名はまだ見つかっていません!」


 大山教授は顔をしかめながら思う。うるさい。


 但野審議官の大声よりも、周囲を飛ぶヘリの爆音だ。

 警察、消防、自衛隊、さらにマスコミのヘリが飛び回り、地上の音をかき消している。


「うるさいですよね!」


 但野審議官は大山教授に顔を近づけて言った。先ほどより小さくしたが、それでも声は大きい。

 大山は今度こそはっきりと聞こえたらしく、同じ音量でそうですね! と渋い顔をして頷く。


「私も、災害の現場には結構行ってますが、この騒がしさには何とかしたいですよ!」


 大山は空を見た。

 様々なヘリが轟音をたてて、この地の周りをまわっている。

 ふと、何かに群がるハエたちのことを思い出した。

 うるさい音をたてて、一か所に群がる、あのうっとうしさに似たものはある。


 しかし、彼らは、ハエとは比較にならないほどの轟音を鳴らし、そして自分たちはその群がる中心にいる。

 飛行機の残骸が凄惨に残るこの場所に、大山たちは立っている。


「しかし、これが、生き物の仕業とは思えん」


 大山は静かに、しかし、但野に聞こえるくらいの声で断言した。


「兵器なら、まだわかりますね」


 但野と大山はびっくりして、後ろを振り返った。

 防衛装備庁の杉原技師がいた。2人の顔を見て、軽くお辞儀をした後、あれを見てください、と大声ではないが、はっきり聞こえる声だった。


 杉原技師が指したのは、胴体が分断された部分だった。


「胴体が折れるほどに爆発して、大きく燃えたような様子があります。また、胴体には大きな穴が見えます。詳細な調査を待たないと断言はできませんが、何らかの物体が胴体中央部に衝突、機体に穴をあけて、そこで爆発したのではないかと……」


「ということは、ミサイルや砲弾の類か?」


 大山教授が問うと、杉原技師は首を傾げた。


「可能性の一つとして考えられます。しかし、機体にめり込んで、胴体が折れるほどに爆発するというのは、それ以外には考えづらいです。しかし」


 杉原技師は考え込んだ。


「これほどの爆発力をもつミサイルならば、ある程度大型で、レーダーにも姿が現れるはずですが、そのような痕跡もありません。

 ミサイルにステルス性があるのか、あるいはミサイルを撃ったものがレーダーで確認できない超低空でかなり接近したとか、地上から発射したとか、そのような可能性もありえます。

 しかし、それなら大掛かりな発射装置などが移動する姿が目撃されてもおかしくないはずですが、その痕跡すらない」


「とすれば、いったい……」


 大山教授は考え込んだ。と、周りを見渡す。


 そういえば、高野君はどこにいったんだろう? 赤松君も、小島君も――。







 高野と小島、赤松女史、さらに平坂一等空佐は、助手らを連れて、高城山の森の中を歩いていた。

 狸野集落より北東へ2キロの地点である。


「あの現場だけ見ててもだめだ。たぶん、生き物なら、この辺に、何らかの痕跡があってもおかしくない」


 高野がそういうと、赤松女史はそうです、と強く頷いた。


「けど、勝手にこんなところ歩いていいんスか?」

 善通寺駐屯地の会議中に、野崎の横にいた青年が言った。髪型と呼吸が少し乱れている。


「横尾、へばんなよ」

 赤松は呼吸を乱さず、青年にそう声をかけた。彼は赤松のゼミに所属する院生のようだった。


 小島准教授はその会話をきいていて、若干顔をしかめた。横尾に憐れみを覚えたからだ。


「いいんですよ。私達、極秘の調査チームなんですから、隠れて色々とやっていた方が都合がいいんです」


 平坂一佐が答えた。


 そんなこと自信ありげに言って、あなた、本当に自衛官なのか? と予備自衛官の野崎は、口から出そうになった言葉をぐっととどめた。

 野崎の背中には、散弾銃が背負われている。猟師免許と、全国各地、もちろん徳島県猟友会にも所属している彼女だからできることだった。


 平坂は話を続ける。


「うちとしても、兵器としての痕跡があれば、少しでも探っておきたいですからね。まあ、こんなところに痕跡を残していく兵士や兵器も――」


「待って」


 野崎はそう、静かに、しかし強く、全員に聞こえる声で言った。

 

 平坂も静かになり、全員がその場に立ち止まる。と、カサッ、という物音が聞こえた。


 野崎は、条件反射的に散弾銃を構えた。


 高野は息を呑んだ。小島も目を丸くして驚いている。赤松も、野崎の様子を見た。横尾も野崎を見て、硬直していた。


 野崎は、彼女の正面、東の方角に銃口を向けていた。明らかに気配は感じたし、音もわかったが、それが何なのかかわからない。

 

 イノシシか、鳥か、あるいは……


「人だ」


 平坂が声を出した。いつの間にか双眼鏡を両目に着けている。


「2時の方向、距離400」


 野崎は銃口を降ろし、双眼鏡を取り出して、即座にその方向に焦点を合わせた。


 確かに人だ。赤い服と、ジーンズを履いているのが見える。背中には登山リュックらしいものを背負っている。

 男性だった。顔ははっきりと見えないが、痩せている。


「どうします?」


 赤松が呟く。


「遭難者か……なら、助けに行かないと」


 小島が言った。しかし、野崎が待って、と言いながら、目を凝らす。

 平坂も同じようにじっと、双眼鏡越しに同じところを見ていた。


 高野が、どうしたんですか? というと、野崎が答えた。


「手を振ってます……なんか笑顔で」





「やあ、助かりましたよ」


 そう、男性は晴れやかに答えた。

 男性はしっかりとした足取りで、高野たちの方へ歩いてきたのだ。


 男性は痩せていて、目はぎょろっとしていた。頬も少しこけている。

 髪は山中に長い間いたとしてもぼさぼさの天然パーマで、無精ひげも伸びている。


 大きな登山リュックに、冬用の登山着で身を固めている。


「ああ、僕はこういうもんです」


 そういって、名刺を出した。


『北山大学 文学部 歴史学科 准教授 津岡正文』


「まあ、考古学者です。名古屋の方で教鞭もとってますが」


 そういって、津岡は晴れやかに答えた。


「なぜここに?」


 平坂がきいた。


「僕の趣味です。といっても、本気ですが」


 そういって、津岡は笑った。


「僕の専攻は民族考古学で、先史時代を研究しているんですが……ああ、つまり、遺跡とかから石器時代について調べているんです。

 でも、石器時代に、今よりもはるかに優れた文明が、北東アジアを中心にして、一時的に存在していたことがあったらしいんです。

 うちの祖父が、戦時中にそういうのを調べてましてね、で、調べていくうちに、どうもこの高城山辺りに、妙な石碑があるっていう情報を知ったものですから、それを探して山をうろうろしているうちに……」


 津岡の話を聞いていた全員が唖然とした。

 あまりにも突拍子もない話を、ひょうひょうと話す津岡を見て、平坂は疑わしい目つきで見た。


「……ええ、まあ、こういう話をすると、みんな、そういう顔をします」


 津岡は、ふと我に返ったように、平坂を見て言った。


「ちなみに、飛行機の話は?」


「飛行機? それは知りませんが……」


 津岡は、急に声のトーンを落とし、真顔になった。そして、自分自身が狂人になったかのようにぽつぽつと語り始めた。


「朝方、山中で変なものが空を飛ぶのを見たんです。奇妙な、その、鳴き声みたいなのも響いてました。その後に大きな爆発音が遠くから……」


「それはいつ頃の話ですか?」高野はとっさにきいた。


「昨日の、夜7時前くらいでした。正確な位置はわかりませんが、その時私は高城山の北東にいました」


「それは、どっちへ向かっていきましたか?」平坂が続けて聞く。


「高城山にいて、だいたい南西の方向へ向かっていったと思います。天神山とか、剣山とか、あっちのほうです」


 平坂を含めた、全員がはっとした。


「と、いうことは、その方向に、やつが……」


 小島が呟く。


「あの、すみません」


 津岡が言った。話が呑み込めず、しかも全員の顔色が変わったので、少し動揺している。


「このままいけば、どこかの駅に出ますか? 明日、江田島の方で用事があるんです」


「申し訳ありません。あなたは私達と同行してください。貴方は飛行機墜落に関して、重要な情報を知っている可能性があります。我々と降りて、お話をお聞かせ願いたいのです」


 平坂は、津岡の方を見据えて言った。

 気迫の強さに、津岡は押され気味になる。


「そ、そんな……」


 高野は、横暴だ、と思った。

 しかし、平坂の気迫を見ながら――


「わ、わかりました」


 ――従うしかないだろうな、と思った。 





 津岡の情報に基づき、各機関が行動を始めた。


 はじめは証言のみで行動することに疑問を呈する者も少なくなったが、津岡の証言に虚偽性がないこと、さらにと、同様の事態が今後想定しうること、何より時間的猶予もない可能性が高いということから、ただちに行動が開始された。

 しかし、その動きにはまだ限界があった。

 飛行機事故ではあったが、やや突拍子もない予想のみで、具体的に今のところ、ただちに大きく動くべき事態が起こっておらず、また大きく動くに値する判断材料も、法的根拠も乏しかったからだ。



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