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メゴスVSギドン 大怪獣 史上最大の決戦  作者: 頭ハジメ
第1章 発動
7/40

第7話 声に伝える


 結は、自分の部屋にいた。

 学校の図書室と島の図書館からかりた、子供向けの図鑑や絵本が机の上に積み上がっている。


 結はその中から『社会のしくみがさらにわかる本 日本編』という子供向けの資料本を読んでいた。

 表紙の右下には『小学6年生用』と書いてある。


《じゃあ、今、インターネットっていうのが、ほんとうに色々な場面で使われているんだね》


(そう。買い物から、メールとかつぶやきとか……ええっと、文字を使って、色んな人とコミュニケーションもとれるんだよ)


 結は頭の中で、メゴスにそう語り掛ける。


 常夜岩から距離が離れていても、頭の中で、メゴスに語り掛ければ、このようにコミュニケーションをとることが出来た。

 それは、メゴスに伝えるという気持ちさえあれば、音や視覚の情報も送ることが出来たのだ。

 これは、逆にメゴスから結に何らかの情報を送るということも可能だった。


 今、メゴスはこのようにして、色々な情報を手に入れている。


 はじめは結が使っていた小学生の教科書からだったが、あっという言う間に理解し、中学生の教科書を覚えた。

 今は、図書館から本をかりて、社会のしくみや地理、歴史、理科、国語、英語などについても教えている。






「結ちゃん、大丈夫かしら?」


 1階のリビングで、洗濯済みの服やタオルが詰まった洗濯かごをもっていた、文子が言った。

 結は家にいるとき、木曜日から、たくさんの本をかりて部屋にひきこもっている。

 いつもなら、特に今のような、土曜の午前中なら、リビングでテレビを見ているか、どこかに出かけているかのどちらかだった。


「うーん、月曜辺りから顔色は良くなかったけど……ひきこもってはいるけど、なんか急に明るくなった気はする」


 ソファーで新聞を読んでいた健一が言う。


 と、玄関のチャイムが鳴った。

 はあい、と文子が洗濯かごをその場において言う。


 文子が玄関に出ると、誠治が立っていた。


「おはようございます、文子さん」


 そういって、誠治が、いつものにこやかな顔を見せると、文子も、いつもの穏やかな顔に笑みを浮かべて、軽くおじぎをした。


「おはよう、誠治君。結ちゃん?」


「はい。上がらせてもらっていいですか?」


「え?」


 文子は少し戸惑った。


「あの、もしかして、結から聞いてませんか? 今日、俺が遊びに行く話……」


 文子は首を横に振った。


「でも、上がって。結ちゃんなら、上よ」


「あっ、はい。ありがとうございます」


 そういって、誠治が少しくすんだ白いシューズを脱いだ。

 家に上がった後、かがんで玄関でシューズを揃える。また立ち上がって、文子に一礼をして、階段を少し駆け足で上げっていく。


 その一連の動きを見届けた文子は、リビングへと戻る。


 健一が新聞を降ろして、文子を待ち受けたかのように見つめた。


「誠治君、結ちゃんの部屋へ?」


 文子は頷く。


「2人、できてるのかなあ……」


 健一がそう言うと、文子は首を傾げた。


「でも、約束はしていたみたいね」


「あー、じゃあ、単に遊びか……いや、そう見せかけて……」


「健一さん」


 健一は我に返って独り言をやめた。


「二人の間に入るのは無粋ですよ」


 健一は、ああ、そうだね、と反省した様子で、また新聞を手に取った。


 そんな健一の様子を見ながら、文子は少し思った。


 でも、誠治君は礼儀正しい、良い子だから、大丈夫。結ちゃんのことだってきっと……。


 そこまで考えて、文子も、健一と同じことを考えていることを自覚し、反省しながら、洗濯かごをまた持った。






「文子さんに誤解されたかなあ」


 結の部屋に入った誠治は、そう言いながら扉を閉めた。


「何を?」


 結は椅子を、誠治の方を向けながら言った。


「いや、なんていうかな……」


 誠治が言いづらそうにしていると、メゴスが、結に言った。


《それは、結と誠治が恋人同士だっていうことを誤解されているっていうことなんじゃないかな?》


「メゴス……」


 結はそう言って、頬をピンク色に染めて、うつむいた。両手は閉じた膝を上で、ぎゅっと握られている。


 誠治は結の様子を見て、メゴスが何か言ったんだな、と思った。






 メゴスの声は、結にしか通じない。

 結とメゴスは、音や視覚情報など、つまり、お互いに見たり、聞いたりしたものも共有できるようだった。

 しかし、他の人には何も聞こえないし、感じない。もちろん誠治にもそうだ。


 誠治は、何か置き去りにされている感じがした。

 結が、どこか遠いところにいってしまったような、そんな感覚を覚えるのだった。





「例の学者さん、こっちに来るってことになったよ」


 誠治がそういうと、結は誠治の顔を見て「本当!?」と少し声を大きくした。

 

 誠治は、いつもの結だ、と思うと、少し笑みを浮かべて、話を続けた。


「明後日の午後に来るみたい。2時にここに来るつもりだけど、予定が変わるかもしれないって」


「そうなんだ……」


 結はちょっとほっとしたような、安堵した顔を浮かべた。






 結とメゴスの信頼関係は深くなっていった。

 しかし、結もメゴスについてほとんどわかっていなかった。

 また、メゴス自身も、自分のことについてあまりわかっていなかった。

 記憶が断片的で、多くの情報が抜けているのだ。


 誠治は結の昔住んでいた家の文献やネットなどでメゴスについて調べていた。


 すると、ある考古学者のサイトが見つかった。


 この考古学者は、ある大学に勤める講師だったが、一方でオカルトめいた考古学について調べている人物でもあった。

 というのも、かつて人類が文明を築く以前に、宇宙より飛来した高度な知的生命体がユーラシア大陸の東端にて、今よりも高度な技術力を持った文明を築いていたという説を提唱していたのだ。


 この人物の祖父も考古学者だったが、日本が、日本帝国と呼ばれ、大陸に進出していた時、満州――現在の中国東北部にて、その痕跡を発見し、調査をしていた。

 しかし、戦争の激化によって、調査は思うようにいかず、第二次世界大戦末期に、この地も戦火に巻き込まれたことで、調査は中止に追い込まれた。


 祖父は一部の資料をもって日本に帰ることが出来たが、そのことを生涯忘れることはなかった。

 そして、孫である自分が、今、その調査をしているのだという。


 誠治はそのサイトを見て、メゴスの話と一致するものをみたので、考古学者にメールを送った。

 すると、考古学者はメールをすぐに返信し、すぐに向かう。しかし、私も別件があるので、明後日向かいたい、と言ってきた。






「でも、こんなに早く来てくれるなんて思わなかったなあ」


 結がつぶやく。


《結》


 メゴスが語り掛ける。


《本当は僕は、色んなことを覚えていたかった。そうすればギドンのことだって、もっとはっきりわかったはずだ……》


 メゴスの声は落ち込んでいる様子だった。低めの声は、そのトーンが落ちている。


(メゴス)


 結は語り掛ける。


(それはあなたのせいじゃないから。あなたは、色々なことを知ろうとしている。それだけで立派だよ)


 メゴスは少し静かになる。


《結、君は優しいね》


「えっ?」


 結は思わず、声を上げる。誠治が、突然声を出した結に驚いた。


《結がそう言ってくれると、ぼくはとてもうれしくなる。温かい気持ちになる。きっとこれが前、結が教えてくれた優しいということなんだろう》


 結はそうだね、と目を細めた。

 それは母性的なもののそれだった。


 誠治はそんな結の姿は見たことはなかった。


 そんな結の顔を見て、結の優しさと、自分がどこか取り残されているということを感じるのだった。





「結。そういえば、そろそろ時間じゃない?」


 誠治が言った。


「あっ、そっか」


 結はそういってテレビをつけた。

 この時間、結の好きなテレビ番組をやっているのだった。


 そういって、結はテレビをつけた。


 しかし、いつもの料理番組はやっていなかった。


 代わりにニュースキャスターが原稿を読んでいる。


『―――先ほどからもお伝えしていますように、国土交通省によりますと、大阪の伊丹空港から宮崎空港に向かっていた東洋航空の貨物機がレーダーから機影が消えました。そして、先ほど、自衛隊が徳島県の高城山付近で飛行機が墜落しているのを確認したとのことです――』


《ギドンだ》


「ギドン……」


 メガンの言葉を、結が口で繰り返した。

 それをきいて、誠治がはっとする。


《ギドン、いよいよはじめるつもりだ》


「はじめるって何を?」


《文明の破壊だよ》




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