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第35話 我に打つ手なし。だが……


「空自より報告。関西上空の小型ギドン全滅」


「中部方面総監より命令。関西に確認された小型ギドンは全て行動不能。引き続き作戦を続行せよ」


 砲声が響く、氷ノ山のナンコウ一号作戦指揮所のテントの中。

 歓声どころか、任務に必要な必要最低限の言葉しか出てこない。

 重苦しい雰囲気につつまれている。


 残る敵は大型ギドン1体。


 しかし―――






「撃ち方はじめ!」


 氷ノ山北方で、普通科中隊が小銃と機関銃による一斉射撃を行う。


 中隊の残存兵力70名による小火器の一斉射撃。小型ギドンに対して、足止め程度には有効だった。

 しかし、大型ギドンには全く効果がない。ダメージすら受けていないように見える。


「中隊長。ハチヨンが2つ、対戦車小隊、中MAT1つ撃てます」


 木陰の、地面に伏せた初老の陸曹長が、横にいた若い中隊長に報告した。積雪の冷たさが彼らの腹にしみていたが、今は緊張でそれどころではない。

 200メートル北東と北西には84ミリ無反動砲――ハチヨンを背中から降ろした隊員が2名いる。

 さらに1キロには、攻撃を受けながら辛うじて生き残った対戦車小隊の残党が、灰と血に汚れた陣地の中から、87式対戦車誘導弾――中MATに弾を装填した。


「よし、対攻撃戦闘用意」


 中隊長は即座に命じた。


 命令を受け、対戦車ロケットを装填したハチヨンを敵に向けた隊員2名が大型ギドンに砲身を向ける。

 さらに中MATが同じく大型ギドンに向けた。


「対戦車戦闘準備完了」


「攻撃開始!」


 曹長からの報告が言い終わらぬうちに、中隊長の命令。


 銃弾の合間を縫って、2発のロケットが放たれる。いずれも大型ギドンの腹部に命中、爆発。

 その直後に、1発の対戦車ミサイルが右肩に着弾、これも爆発。

 しかし、それだけだった。


「こちら海田市34、広島12へ。対戦車戦闘開始するも効果なし」


 中隊長が戦闘団本部にそう伝えると、戦闘団本部から即効命令が下る。


『こちら広島12.海田市34へ。これより戦車隊の攻撃がはじまる。総員その場に伏せよ』


「了解」


 めちゃくちゃだよ。中隊長は思った。

 爆風や破片くらったらどうすんだよ。


「海田市34から各員へ。これより戦車隊による攻撃がはじまる。その場に伏せ、身の安全を確保せよ」


 

 

   





「テーッ!!」


 戦車中隊の一斉射撃。16門の120ミリ砲が一気に砲声を響かせた。

 それと同時に、16発の徹甲弾が発射される。


 16発の徹甲弾が凍える空気を引き裂いて、数百メートル先の大型ギドンに凄まじい速さで向かう。

 発砲から一瞬後、全弾着弾。


 大型ギドンの胴体から脚部に分厚い鉄板を軽々と射貫く徹甲弾が16発命中する。


 着弾直後、中隊長は安堵から軽い笑みを浮かべた。

 だが、車内のタッチパネルから外部カメラによって撮影されている光景を見ながら、その笑みが急速に凍り付いた。






「なんで無傷なんだよ……」


 伏せたまま、普通科中隊長が大型ギドンを見上げて呟いた。

 爆風に揉まれ、部下たちの安否を確認した直後である。


 直後、大型ギドンが光線を発する。

 中隊長はまた顔面を地面に付けて、防護の姿勢をとった。


 2キロほど離れた戦車中隊に向けて発射された光線は、まず4台の10式戦車に光線を当てた。

 光線が当たった直後、10式戦車の装甲を軽々と突破した光線は、戦車の内部を焼いた。

 そして、中にあった弾薬や燃料とともに爆発した。これが4台の10式戦車が、数秒の間に受けた出来事である。


 戦車中隊長は後退の命令を下そうとしたが、できなかった。

 4台の戦車が破壊された直後、彼の乗る戦車が攻撃を受けたからである。





 普通科中隊長は姿勢は先ほど変わらないまま、呆然とその光景を見ていた。


 戦車が光線によって次々と破壊されていく。もう半数近くまで減った。1分足らずで、あの戦車中隊は全滅だろう。


「中隊長」


 横にいた陸曹長が意見具申した。


「今です。撤退しましょう」


 中隊長はハッとした。


 今、戦車隊がやられる――怪獣が戦車隊に注意を向けている隙に中隊の残存を撤退させる。


 曹長の意味を一瞬で酌んだ中隊長は、中隊全員に怪獣から距離をとり、あらかじめ指定された地点まで撤退するように命じた。


 中隊長と曹長は立ち上がって、小銃をもって、雪道を歩く。

 白い冬季迷彩服は、胴体から両足にかけて、深い茶色の泥によごれていた。


 しかし、二人はそんなことに気づかぬまま、駆け足で撤退する。


 中隊長は周囲を見た。

 部下たちも自分たちと同様に撤退する。


 戦車隊は依然として光線の攻撃を受けている。

 もはや砲撃はない。全滅したのかもしれない。


「なんてことだ……」


 中隊長はふと思いを口に出したが、今はそんなことを考えている暇はない。


 撤退せねば。生きねばならない。

 生きて、達成できなかった任務を達成せねばならない。


 怪獣を駆除するという任務を。





 大型ギドンは顔をぐっと右に向けた。


 そこには別の戦車中隊が、山の麓沿いを走る道路沿いに南へ向けて移動していた。

 車体後方に向けられた砲身が、大型ギドンの方角に動く。


 しかし、砲身が大型ギドンに向けられることはなかった。


 その前に大型ギドンがレーダー光線を発し、先ほどよりも速いペースで戦車を次々と破壊した。

 戦車中隊はあっという間に全滅した。




 さらにその近くに、トラックやテントが配置された拠点が見えた。

 拠点は光線の一撃で爆発炎上した。




「第1戦車中隊応答なし」


「第2戦車中隊応答なし」


「対戦車小隊、小隊長戦死。残存2名で現在後退中」


「普通科連隊第2中隊、損害詳細不明なるも激しい。作戦続行不能」


 通信小隊隊員の報告から、伊藤戦闘団長は唸った。


 小型はあれだけ簡単に倒せたのに、大型となるとこうも攻守ともに能力が段違いになるのか。


 伊藤は命じた。


「全部隊に命令。可能な限り、大型ギドンより後退せよ」


 それは事実上の敗北宣言だった。


 その後、彼は伊丹駐屯地にいる中部方面総監部に通信をつなぎ、状況を伝えた。


 この時、戦闘団司令部は全てを把握していなかったが、彼らの元にある部隊の損害は7割に達していた。

 いずれにせよ、作戦続行は不可能だった。





 東京・市ヶ谷の防衛省の地下。自衛隊中央指揮所は伊丹を経由して届いた、氷ノ山からの報告をきいて、一段と暗雲が立ち込めていた。

 司令部の通信要員たちは淡々としているが、その顔には生気がなく、まれに飛ぶ怒号が指揮所を一層暗くさせていた。


 そして指揮区画、大きな地図台を囲う高級幕僚たちは一言も言葉を発せずにいた。


 地図上には、全国に展開する自衛隊の現状が把握されている。

 

 氷ノ山は作戦続行不能。そして淡路島南北も同様だった。

 淡路島北部では地上部隊の7割が損害。南部は地上部隊の8割が損害。

 そして、淡路島の南北で、ギドンに艦砲射撃をしていた護衛艦4隻が大破、もしくは沈没。

 戦闘機も12機が撃墜……


「駄目だ! 駄目だ! 駄目だ!」


 報告をきいていた陸上幕僚長が、突然、机を叩いて激昂した。

 普段は冷静な彼だが、感情が一定まで高ぶると、突然声を上げるところがあった。


 他の幕僚たちも承知のことだったが、様子が違った。

 数日前から隠しきれないほどまで募っていた疲労の色が顔面に現れ、目がいやにぎらついていた。

 

「この戦力では、敵に太刀打ちできない!」


 陸上幕僚長が絶叫した。

 だが、正論であった。


 その証拠であるかのように、高級幕僚たちは沈黙していた。


 統合幕僚長はその沈黙を、低く、静かに破った。


「ナンコウ作戦を終了する。ナンコウ作戦の残存部隊は退却。他の作戦は継続。以上」






 ナンコウ作戦に参加した自衛隊部隊は大損害を受けていた。

 全体のうち、最終的に残った部隊は、参加部隊の8割に上った。


 氷ノ山の部隊は前線より10キロ以上後退し、代わりの後衛部隊が前進して、防衛ラインを固めた。

 淡路島の残存部隊は島の各所に分散して、隠れるより他なかった――つまり、淡路島の残存部隊は各所で寸断されたのだ。


 彼らに後衛部隊はいない。寸断された島の敗軍は、島の外から救助けがくるのを待つより他なかった。


 自衛隊は関西から中国・四国地方の戦力を、大都市圏などに集結させ、再編成など、立て直しを行い、その後別命あるまでに防衛に徹するように命じた。






 市ヶ谷の中央指揮所指揮区間では、首脳陣全員が沈黙し、重々しい空気が流れていた。


 それを破ったのは一つの連絡だった。

「官邸からです。『7時30分に官邸とテレビ会議を行う。自衛隊の作戦の結果、現状、現段階での今後の方針について説明されたい』」


 全員が改めて時計を確認した。

 午前7時12分。作戦開始から1時間12分経った。作戦終了は14分前。

 それから、撤収と次の命令を下し、いつの間にか彼らはその命令すら出し切って、黙っていたのだ。


「その――」口を開いたのは空幕長

「結果と現状については、まあ、述べられますが、今後の方針についてはどうしますか?」


「全部隊は国民の生命を守りながら、各自防衛に徹する。敵の駆除は現段階では不可能」


 静かながら、怒気を含んだ陸幕長が言った。


 統幕長は陸幕長のほうを向いて、落ち着け、といった。


「前者については同意する。しかし、敵の駆除は現段階では不可能という見解は早急すぎる。さらに火力を投入し、打撃すれば、大型も撃破できる可能性はある」


「しかし、投入する火力にも限界はあります。我々の火力は無限ではありません」


「陸幕長、上官に基本的なことを論じている場合ではない。統幕長もそれくらいのことはおわかりだ」


 海幕長は続けて言った。


「陸上自衛隊が過大な任務を背負い、さらに大きな損害を被ったのはわかる。だが、冷静に考えてくれ」


 陸幕長は静かに呼吸をして、起立し、申し訳ありませんでした、と謝罪した。

 統幕長は頷きをもって、返答とした。

  

 陸幕長、座りなさい。

 統幕長は陸幕長に着席を命じ、陸幕長はこれに応じた。


 統幕長は静かに語りだした。


「しかし、陸幕長の意見はもっともだ。駆逐の可否はともかく、陸上自衛隊はかなりの損害を受けている。怪獣災害が出現した時点で戦力以上の任務を与えられている。これは海と空も同様だ。

 積極的な駆除より、拠点や都市圏、人口密集地や避難所への防衛を重点に置くという方針で――」


 その時、新しい報告が入った。

 オペレーターを通じて、中央指揮所全体に広がる。


『海自横須賀地方総監部より入電。『0709時 千葉県南東沖にいた掃海艇『ちぢじま』からの入電。ソナーに大多数感あり。北西に向かって進んでいる。一つはかなり大きい』なお、以後『ちぢじま』からの連絡応答なし』


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