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第34話 兵庫・大阪湾空中戦


 氷ノ山に生き残ったギドン――胸に×の大きな傷を残した大型1体に、小型3体。


 このうち、小型ギドン3体が飛行を開始する。

 ふわっと、重力を感じさせない飛行。そのまま急加速。

 突如として氷ノ山一帯に衝撃波の暴風が発生する。

 普通科の隊員たちはその暴風によって吹き飛ばされ、木や車両などに当たったり、山の斜面に乗った暴風にさらわれ、地上から高く舞い上がった挙句、地面にたたきつけられる者も少なくなかった。


 またトラックなどの車両も横転した。


 そうでなくとも、積もった雪が突風とともに舞い、隊員たちの視界を白く遮る。

 戦車や装甲車両に乗っていた隊員たちも視界不良に陥った。




 

「来やがった」


 日本語でそうぼやいたのは、航空自衛隊のパイロット、島田三佐だった。

 島田三佐の所属する、航空自衛隊第301航空隊のF35戦闘機20機あまりは、対空ミサイルを搭載し、兵庫県上空にて待機中であった。


 島田三佐は戦闘機4機編隊の編隊長として、他3機のF35戦闘機と、それを操縦する部下を指揮していた。


 直後、航空総隊司令部から追加の報告。怪獣飛翔。氷ノ山より小型3.淡路島北部より2.同島南部より3。全て西に向かっている。行動を続行されたい。


 各編隊より了解の返答。島田三佐もラジャーと一言。


 日が昇って間もない時間だ。

 4機のF35戦闘機が、朝焼けに照らされた但馬の空を飛んでいる。



 



 午前6時12分。

 大阪の街に不気味な電子音が鳴り響いた。国民保護サイレンである。

 電子の獣が雄叫びを挙げたような、不快感を刻み付けるサイレン。


 低く唸り始めたサイレンは瞬く間に高くなり、そして頂点を達したところでまた音が低くなって、消えた。


 このサイレンは、大阪だけではなく、関西と中国、四国の各県全域に発令された。





 しかし、大阪の街は普段より人が少なかった。

数日前から怪獣被害によって経済が崩壊し、働くことすらできなくなった人々や企業が、複数の怪獣が眼前に迫っているこの街の外に自主的に疎開していたのだ。


 とはいえ、まだ大阪府全人口の半数の人たちがいた。

 避難できなかった人、諸事情であえて避難しなかった人……様々だ。


 だが、サイレンは人々の感情や事情を区別せず、その警報を該当地域に響かせた。


 やがて、サイレンの音は消え、代わりにゆっくりとした男性の声が聞こえた。


 怪獣襲撃情報。怪獣襲撃情報。当地域に、怪獣が襲撃する可能性があります。屋内に退避し、テレビ・ラジオをつけてください……。


 関西から中国、四国の人々はサイレンが鳴った時点で恐怖していた。テレビ、ラジオなどが、Jアラートの怪獣襲撃情報について、しきりに報道したからである。


 




 ついにきたか、と驚愕と恐怖の色を隠しきれないまま、人々は報道されていたような退避行動をとり始めた。


 まず、遮蔽物に隠れ、テレビ、ラジオのスイッチをつけたままにし、状況次第で……。


 しかし、必死に退避行動をとる人々の心中には、これで助かるのか、という心境があった。


 実は、この退避行動を指導した総務省の役人たちも同じであった。何せ、史上初めての災害だ。

 彼らは弾道ミサイルの避難行動を基に、そこに地震などの避難行動を合わせたような、怪獣襲撃の際の退避行動案を作成していたのだ。

 役人にとって、それしか方法がなかった。





 

 それをとれば、今、戦闘中の自衛隊の方がまだ迷いがなかった。

 彼らは戦うという明確な行動指針があったからだ。


 島田三佐も今自分が取っている行動に疑問を持たなかった。


「Knight06.Tallyho(こちらナイト06、目標を目視)」


 島田三佐はコクピット越しから、敵を目視していた。

 小型ギドン3体が超低空で、氷ノ山南西にある、段ヶだんがみね上空を、南西方向へ飛ぶ。

 おそらく高度は1000メートルを越えていない。速度はかなり低速。おそらく高速道路を法定速度で走る自動車程度だ。

 亜音速から音速で飛行する飛行機にしてみれば、これは凄まじく遅い。 

 

 しかし、このまま直進すれば、確実に大阪府に突入する。

 司令部からも「人口密集地に入る前に撃墜せよ」と先ほど通信を受けたところだ。


 つまり、今、やるしかなかった。ナイト06編隊の4機は行動に移る。


 ナイト06、攻撃開始を命令。


 他3機、了解(Rager)との返答。各機、使用火器を中距離ミサイルから機銃に変更。


 4機に、高度を下げながら、敵後方につくよう指示し、自らもそうした。

 島田三佐を先頭に、ひし形の頂点にたつように飛行したF354機編隊は、彼らの後方についた。


 瞬間、全機、機銃発砲。

 2匹に致命傷。

 1匹のギドンは爆散し、1匹のギドンが炎上しながら地上に叩きつけられる。


 最後の1体はその場に空中停止。

 編隊に向けて光線を放つ。


 F351機に、光線が命中。爆散する。


「畜生!」


 パイロットの一人が、思わず叫んだ。 

 

「落ち着け。break(全機散開)」


 島田三佐が冷静につぶやく。その直後、島田三佐は撃墜を司令部に無線で口頭報告。1機撃墜。脱出確認できず。


 残り3機のF35が降下をやめ、編隊から空に散らばる。


 残り1体のギドンも急上昇。一瞬後には、旋回し終えた島田三佐の機体の前方に来る。

 島田三佐は、しめた、と思う。


 島田三佐、操縦桿上部のボタンを押す。


 機銃発射。25ミリガトリング砲が放たれる。

 

 そこへ小型ギドンが通過する。一瞬、小型ギドンは島田三佐の眼前を通過。その間に、小型ギドンは25ミリガトリング砲から100発近い機銃弾のシャワーを浴びる。


 小型ギドンは3秒ほど惰性で上昇したが、急に勢いをなくして、降下――墜落をした。

 小型ギドンは段ヶ峰山中の森の中に落下した。


 こちらナイト07、全4体撃墜を確認。島田はそう伝えた。


 了解。ナイト07の編隊も同空域から北方へ一時退避せよ。大阪湾にて地対空戦闘が行われる、と英語で司令部。


 全機、了解の返答。しかし、戦闘前より声に力がない。


 こうして、3機のF35は北へ向かった。





 淡路島南北で行われた戦いでも、自衛隊にとって善戦が繰り広げられていた。

 地上戦と空中戦で大型ギドン2体、小型ギドン4体が残っていた。大型ギドンは減っていないものの、小型ギドンに関しては、数十体いたものが4体まで減ったのだ。


 あと4体。淡路島の北部から2体、南部から2体。


 彼らは淡路島から巧みに抜け出し、空中戦をすり抜け、大阪市方面に向け、大阪湾を通過していた。





 この時、大阪府とその周辺には、いくつかの地対空戦力が配置されていた。

 それぞれ陸海空と所属は違っていたが、関西防空の指揮は航空総隊の下にある中部航空方面隊司令部に一任されていた。


 埼玉県入間にある同司令部は、統合作戦システムを用いて、敵の戦力を確認し、直ちに大阪府とその周辺にある対処可能な戦力を把握、各種通信を使って、付近の戦力と通信をとった。 





 陸上自衛隊第8高射特科群に迎撃命令が発令された。


 普段は兵庫県小野市の駐屯地にいる同部隊は、今、大阪府とその周辺に中隊ごとに配置されていた。

 任務は大阪府とその周辺地域の防空。

 

「航空総隊からの報告、小型4、淡路島から大阪市方面に侵攻中。我が部隊に撃墜命令が発令されました」


「レーダーでも捉えました。大阪湾上空に機影4.低空で飛行。速度はマッハ0.8」


 大阪城公園の一画に大型の天幕テントを設営して、そのなかにいた第8高射特科群司令部は、様々な報告をききながら、瞬時に行動する必要があった。


 群長はその必要事項を理解し、ただちに実行した。


「沿岸部の各部隊にミサイル発射を命令。大阪湾上空ですべて撃ち落とせ」





 大阪湾の埋め立て地にある空き地に点在していた4個中隊に、迎撃命令が出された。


 緑と土気色の迷彩塗装がされた大型トレーラーに、同じ塗装がされた、角張った大きな筒を束ねたような、ミサイル発射装置が乗せられている。

 それが等間隔で配置されていた。


 先端を北の空に向けていた発射装置は、別の車両からの指示によって、空から角度を下げて、大阪湾に向けられた。


 間髪入れず、その筒の一つからミサイルが1発発射。筒の後方から白煙が上がったかと思うと、ミサイルが大阪湾の空に向けて放たれる。

 大阪湾沿岸部から40発近いミサイルが発射。大阪市沿岸部からちょうど40の飛行機雲のような白煙が大阪湾上空へと向けて伸び、各所で発射後の白煙が霧のように漂っていた。





 大阪湾上空にいたギドンたちがミサイルを確認した。数として40.淡路島の北から接近するもの、南から接近するものそれぞれ20ずつ。


 小型ギドンたち全体は口から光線を吐きだし、上昇して、回避行動。


 それぞれ、ミサイル十数発が大阪湾上空で光線に当てられ、撃墜される。


 しかし、それをすり抜けてミサイルの群れがギドンたちに接近。


 ギドンたちは散開する。このうち、2体が散開した直後にミサイルが命中。爆散した。


 1体は上昇しながら、下方に光線を撃ち続ける。

 が、爆発の爆炎と無数の破片にまぎれたミサイル1発が命中。これも爆発した。


 もう1体はやっかいだった。

 北へ高度を上昇し、後ろを見ながら光線を放つ。

 

 そこから一気に急加速、ミサイルは目標を見失う。


 小型ギドンは後ろをもう一度確認し、北へ飛び立つ。


 しかし、ギドンの左側、つまり西の方角から機銃掃射。数百発の弾が高速で、小型ギドンに当たる。

 小型ギドンの体はズタボロと穴だらけになり、失速して山中に落ちた。





 ケリをつけたのは、ナイト06率いる3機のF35編隊だった。

 1体が高速で、彼らの眼前に来そうなところを3機一斉に機銃を撃った。

 後ろを振り返りながら、高速で通過する小型ギドンがこの3機のF35に気が付いたときには、もう遅かった。


 小型ギドンは百発以上の機銃弾を叩き込まれ、その瞬間から空を惰性で飛ぶ物体と化した。

 しかし、翼が折れ、勢いがなくなった小型ギドンは、兵庫県山中に墜落した。


「Knight06.Kill Small Gidon 1(こちらナイト06、小型ギドン1体撃墜)」


『Rager』

 

 島田三佐はため息をついた。一人の部下を失った悲しみと、戦闘による疲労のためだ。





 大阪湾空中戦は終わった。

 だが、まだ関西に敵はいた。


 大型ギドンが依然、陸自と海自によって交戦中であった。

 

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