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第33話 ギドン殲滅作戦開始


 あと数分で3月3日午前6時になる。

 日本中が息をのんでいた。特に淡路島の南北部、氷ノ山に展開する自衛官たちの緊張はピークに達していた。


 多くの隊員たちの目には、我が物顔で山の頂と、その周辺部にたむろする怪獣たちが映っていた。


 あと4分後で、自衛隊はナンコウ作戦を開始される―――自衛隊は、ギドンの群れに攻撃を仕掛け、各3か所にいる彼らを殲滅する。






 午前6時ちょうど。


「ナンコウ一号作戦、作戦開始」


 氷ノ山のナンコウ一号作戦指揮所では、指揮官の伊藤一佐が少し高らかな声で言った。ナンコウ一号作戦がはじまった。淡路島の二号、三号の各指揮所でも指揮官が同様の号令をかけている。

 第46戦闘団長――第46普通科連隊長は他の幕僚とともに、自衛隊の簡易椅子に座って氷ノ山とその周辺の地図を見ていた。


 戦闘団は基本的に普通科連隊を中心に、戦車や特科(砲兵)、施設科(工兵)などを中隊から小隊規模で集め、編成させた部隊だ。

 自衛隊では、戦時に状況に応じて編成される。


 伊藤戦闘団長はただちに命令を下す。


「特科、射撃開始」





 氷ノ山の西南15キロほど離れた岡山県の地点に、第13特科隊の第1射撃中隊が展開していた。

 十数門の155ミリりゅう弾砲――FH70と自衛隊で呼ばれる野砲が、その砲身先端の角度を徐々に上げていた。

 砲弾装填部分の横で、迷彩服をきた自衛隊員一名が座席に座って、横にある丸型ハンドルを素早くグルグルと回していた。


 数秒ほどでその動作が終わると、白い布のようなものに巻かれた、大きな缶詰くらいの大きさの、円筒状の発射薬が他の隊員によって砲に装填される。

 そこに実弾が運び込まれる。赤ん坊よりも2回りほど大きい榴弾が、砲に装填。長い棒をもった隊員が、砲身に棒を突っ込む。

 棒が抜かれた。砲弾装填部分横にいた隊員がハンドルに手をかける。数名の隊員たちが砲弾装填部分付近に集まって、耳をふさいだり、口を空けたりしている。

 砲の後方、少し離れた隊員がそれらを見て、片手を挙げた。射撃準備良し。


 全砲の前で、ほぼ同時に、同じように隊員たちが配置につく。全門射撃準備良し。

 そして


「撃―ッ!(てーッ!)」


 号令とともに、十数のFH70による一斉射撃。

 音の暴力に等しい轟音が一帯にとどろき、空気の圧すら感じさせた。

 同時に砲身横から白煙。

 155ミリ榴弾十数発が山を越え、放射線を描いて、氷ノ山の方向に向かう。

   


 


 ほぼ同時、山頂にいた大型ギドンがまた別の空を仰いだ。西南の方角。

 西のほうにいた小型ギドンが一瞬遅れて、同じ方角を向く。

 大型ギドンが口から空へ向けて光線を放った。


 光線が放たれた上空で、複数の爆発が生じた。





「特科射撃を開始」


「大型ギドン、光線を発射」


 第46戦闘団指揮所から同時に2つの報告が入った。

 しばらくして爆発音が聞こえる。あまり大きくはないが、はっきり聞こえる。


「光線の放った上空で複数爆発が発生」


 伊藤一佐はまず思ったことを口にした。

 

「上空の爆発とは何か?」


「不明ですが、光線が榴弾に命中したとみられます」


 馬鹿な。伊藤は思った。

 

 その時、また爆発音。






「だんちゃぁぁぁぁく……今!」


 弾着、今。爆発。

 氷ノ山付近にいた特科の観測班のある隊員が、無線機と双眼鏡をもって、氷ノ山の麓を見ながら、そう言った。

 片手には無線機の受話器が握られ、片耳と密着している。


 観測班は着弾の様子を観測する。

 しかし、不可解だった。爆発は、氷ノ山からその隣の山々にまで及び、同時かつ広い範囲内に散らばって、起きてきた。

 このように遠くから離れた野砲の砲弾が、全弾一撃で目標に当たるというのは珍しい。

 それを考慮しても、弾着地点は全くバラバラだった。


 この隊員は知らなかったが、光線の命中によって生じた榴弾の爆発が、砲弾の弾道を変えてしまったのだ。

 上空で生じた爆風は、本来緻密な計算の下で行われるべきはずの弾道を全く狂わせ、結果として一発ごとの砲弾がそれぞれ違うところに落下したのだ。





 しかし、効果がなかったわけではなかった。

 弾道を予想より大きく外した榴弾1発が、氷ノ山の麓で起立していた小型ギドン1体の頭上で炸裂した。


 榴弾は中に炸薬を仕込み、その爆発で飛び散る砲弾の破片で敵に損害を与える類の砲弾である。


 この1発の榴弾も、大きく弾道はそれたものの、計算通りに空中で炸裂した。偶然ではあったものの、その数十メートル下には小型ギドンの頭があった。


 爆発とともに、強烈な爆風と数百の破片がこの小型ギドンの頭上から襲い掛かった。


 小型ギドンは頭頂部を中心に相当数の破片を叩き込まれた。体の奥深くまで到達していた破片も少なくない。

 また爆風によって、全身に強い衝撃を受けた。頭上から凄まじい圧に押し込まれたような形となった小型ギドンは、頭部を中心にその体内に大きな打撃を受けた。


 数秒の間の出来事だった。

 頭上で爆発後の白煙が残る中、小型ギドンは倒れこんだ。

 轟音とともに地面に横たわったこの小型ギドンは、もう動くことはなかった。


 これが自衛隊が――人類が、はじめてギドンを倒した出来事となった。





 榴弾の直上爆発により、小型ギドン1体を行動不能にした模様。


 この一報はナンコウ一号作戦指揮所に歓喜とも安心ともいえぬ声と雰囲気を生み出していた。


 人にもギドンは倒せる!


 それ自体はギドン撃退に大きな希望を見出すことのできるものであったが、指揮所はまだ重々しい空気が流れている。

 何せ氷ノ山だけでもまだ怪獣はいたし、淡路島、そして太平洋のいずこかにも数百近い個体がまだ活動しているのだ。


 指揮所にかすかな砲声が聞こえた。第2射撃中隊が射撃を行ったのだ。 

 作戦は現在も継続中である。





 特科部隊の砲撃は三斉射――第1から第3の射撃中隊がそれぞれ別の陣地、氷ノ山からみて、別の方向から1回ごと一斉射撃を行った。


 本来ならばより多くの斉射を実施すべきところだったが、氷ノ山に向かっている途中でギドンの光線によって砲弾が迎撃されてしまい、件の小型ギドン1体以外、目立った効果は見られないと判断された。

 また、迎撃に失敗した砲弾が他の砲弾の爆発によって弾道を大きく変え、自衛隊員たちの頭上で炸裂したり、破片が隊員たちに降り注ぐ事態も見受けられたことから、射撃は中止された。

 

 



 伊藤一佐は爪を噛んだ。

 敵の迎撃能力を甘く見過ぎていた。


 特科による砲撃と航空自衛隊の爆撃によって、敵の戦力を大きく削ぐ。

 それが、本作戦の第一段階だった。


 しかし、敵の、砲弾の迎撃による攻撃回避という常識外の事態に、伊藤一佐は渋い顔を隠せない。

 砲声がしたとはいえ、陸から空を仰げば点に等しい移動物体である砲弾を打ち落とせることができるのか。




 同様の悩みはナンコウ二号、三号作戦の指揮所、そして防衛省中央指揮所の幕僚たちの頭脳の中でも発生していた。


 よって、本来砲撃の後に予定されていた、砲弾よりもずっと大きい支援戦闘機による爆撃を即座に命令できなかった。






(しかし)


 伊藤一佐は地図を見ながら思った。


(小型ギドンは砲弾一発の直撃を受けたら倒れた。おそらく砲弾や爆弾、ミサイルの攻撃で対処可能だ、少なくとも小型ギドンは。ならば――)


「機甲部隊に射撃命令。普通科部隊は対戦車戦闘準備」






 氷ノ山を一周するように配置されていた、10式戦車、74式戦車の群は、森の中から砲口を微妙にずらして、それぞれの目標に照準を合わせた。

 ある10式戦車は中腹にいる小型ギドンに、別の74式戦車の1台は山頂の大型ギドンに、といったようにそれぞれ違う目標が割り当てられている。


 部隊長の命令。撃ち方はじめ。


 その号令とともに、数十門の戦車砲が火と煙を噴いた。


 小型ギドンに向けられた砲弾――戦車などの硬い装甲を貫くための徹甲弾だった――は、ギドンの体を文字通り打ち抜いた。

 人間が銃弾に撃たれるのとあまり変わりない。いくつかの小型ギドンはそのまま体に穴をあけ、その場に倒れこむ。


 しかし、生きている小型ギドンもいた。幸運にも砲弾がそれて、かすり傷の傷を負ったものもいれば、脇腹のあたりをえぐられているものもいた。

 彼らは、傷口から血しぶきのように体液を吹き出しながら、口から光線を、闇雲に放つ。

 

 乱痴気の集団が所かまわず剣を奮うかのように、十数の光線が周辺の山々に当たる。

 木々が吹き飛び、山の土が空を舞い、森が燃える。


 自衛隊員たちのなかには光線や爆発に巻き込まれるものも少なくなかった。

 光線の直撃を受けて、爆発する戦車。ある場所では、光線の爆発が至近で起き、爆風に数人の隊員が吹き飛ぶ光景も見られた。

 また、トラック等の車両も直撃を受けて炎上、あるいは爆風の煽りを受けて横転するものもあった。


 そのなかで、戦車部隊が2度目の一斉射撃。

 さらなる射撃で小型ギドンたちの集団はさらに活動を停止した。


 2度目の大きな傷――多くは致命傷ともいえる大きな傷を負うことになった彼らは、ついに光線を吐くことすらままならない。

 その場に倒れ、もう活動することはなかった。


 



「浜松05より入電。小型ギドン多数、活動停止を確認。視認の結果、活動している小型は2から4体と見られる。大型はまだ健在」


 浜松05ー―偵察隊からの情報に、指揮所は沸き立った。

 伊藤一佐も、もう次の段階に入ってよいだろう、と感じた。


「各部隊へ。第2段階へ移行する。戦車部隊、普通科部隊は前進用意」





 このような戦果は、淡路島でも見られた。

 

 淡路島の南北2か所で作戦行動するにあたり、淡路島の、海が近く、起伏に富んだ地形は、氷ノ山のような部隊展開は不可能と考えられていた。


 そのため、戦車よりも幅の狭い、16式機動戦闘車の部隊が投入され、海上自衛隊の護衛艦も沖合についた。

 16式機動戦闘車が山間から射撃を行い、護衛艦が海から艦砲を撃つ。


 関西や香川から放たれた榴弾が迎撃され、より近距離のライフル砲と艦砲が敵を打つ。

 そして、それに小型ギドンの多くは倒れされる。

 この流れは、氷ノ山と変わらなかった。


 そして、伊藤一佐と同じく、淡路島の指揮官たちも、機甲部隊と普通科部隊の前進を命じた。





 氷ノ山。

 戦車が続々と、カモフラージュされた陣地から前進していく。 


 その横を、陸上自衛隊の普通科部隊の隊員たちが駆け足で、小隊や分隊ごとに遮蔽物から遮蔽物へ身を潜め、氷ノ山へと向かっていた。


 氷ノ山北方、10式戦車1個小隊が、ある小型ギドンに対して、一斉射撃。


 4両の戦車が、一斉に砲弾を放つ。衝撃波で雪が粉のように舞う。




 10式戦車の射撃統制装置はタッチパネルによって共有され、さらに部隊間によってネットワーク化された。

 これにより、部隊のなかで同時調和射撃が実現された。


 4発の徹甲弾は、高度にシステム化された10式戦車4両によって同時に発射され、同一目標である小型ギドン1体を貫いた。


 


 傷を負っていなかったこの小型ギドンは、一気に致命傷を負った。

 光線を放とうとしていた小型ギドンの腹部に2発、胸部に1発、さらに頭部に1発。

 部位への射撃は明確に指定されていなかったが、小型ギドンを絶命するに足りるものであることは間違いなかった。


 小型ギドンは頭部で爆発を起こし、その一瞬後、胴体が爆発して四散した。






 この時、残っていたのは小型ギドン3体と大型ギドン1体。

 この大型ギドンは、胸に大きな×のマークをつけていた。メゴスと戦った時の傷跡が癒えそうになかった。



 大阪湾から兵庫県山中をかけた戦闘はまだ続く。



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