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第30話 成長


 午前8時すぎ。


 兵庫県と鳥取県の県境にある氷ノひょうのせん

 

 その鳥取県側に置かれた陸上自衛隊第13偵察隊の氷ノ山第3監視所は、雪積もる森の中にあった。


 部隊は、十数名ほどが行動できるほどの陣地を形成し、これを白いカモフラージュネットを覆うことで、巧みに溶け込んだ。

 隊員たちも真っ白な冬季迷彩に身を包んで、カモフラージュネットの隙間から大きな望遠鏡で、氷ノ山の頂上――正確には、そこにいる怪獣の群れを監視している。


 監視所は氷ノ山周辺に8個ほど監視所を設営して、24時間体制で怪獣を監視していた。

 また、淡路島に近い本州および四国にも20個ほどの監視所が設置され、2つの怪獣の群れを見張っている。


 



「ん?」


 氷ノ山第3監視所で、大型双眼望遠鏡を覗いていた一等陸士が呟いた。

 大型双眼望遠鏡は、観光地にあるような大きさの双眼望遠鏡で、太い足が地面にがっしりと配置され、氷ノ山頂上に向けられていた。


 一士が妙なつぶやきをしたころ、半数ほどが食事を取っていた。もう半数は、この一士と同様に監視任務についている。


「どうした?」


 監視所の指揮に当たっていた三等陸尉が尋ねた。

 彼の口の中には、戦闘糧食であるやきとりがまだ残っている。


「……怪獣が行動を停止して……あっ」


 一士はそう言って、しばし言葉を失った。


「正確に報告しろ」


 三尉はそういって、口の中に残っていた焼き鳥を、水筒の水で流し込んだ。

 それから双眼鏡を手に取って一士の方へ向かった。


「複数の、小型ギドンが停止したのち、微動しています。けいれんのような微動です……」


 一士は正確に報告した。

 その時、三尉は双眼鏡で目標を視認した。


 一士は正確に報告をしていることに気が付いた。


 そして、三尉は呟く。


「何だあれ……」





 早朝から氷ノ山頂上を囲むように直立していた、7体の小型ギドンが微動していた。

 7体とも、直立したまま、バイブレーションのように微動をしていた。けいれんにも見えるが、けいれんよりも小刻みに動いているようだ。


 その周囲にいた他の8体小型ギドンと、胸に大きな×印をつけた大型ギドンが、飛び回りはじめた。

 この大型ギドンは、広島市でメゴスと戦い、深手を負ったギドンだった。


 普段は2体から4体程度で飛行し、あとは地上にいるという様子だが、明らかにこれまでにはないパターンの行動をしていた。 


 そして地上にいる7体は1分ほどの間、微動したかと思うと、突然雄叫びを上げた。


 今までも鳴き声を発することはあったが、ここまでの大きな鳴き声――雄叫びのようなそれは聞いたことがなかった。

 

 やがて、数秒ほど全身から強烈な赤い光が発せられた。


 それを見ていた隊員たちも、視線をそらすほどだった。


 発光直後、8体の小型ギドンに変化が現れた。


 十数メートルから30メートル近くあった各個体の身長が、80メートルから100メートル近くまで、瞬く間に伸びた。


 他の部分も変化していく。

 

 皮膚の色も、茶色からやや赤みががっていたそれになっている。

 後頭部にあった角も、ピンク色からより赤みがかったものに変化していった。


 そして、2本の触手が背中の皮膚をつき破って、ぐんと伸びた。

 一定まで伸びると、触手は四方八方にある種の食虫植物のような先端部を、ゆっくりと周囲各方に向け、ゆらゆらと動いている。


 7体の小型ギドンは、数秒のうちに、大型のギドンへと変貌を遂げた。






 第3監視所は、監視所を統括する偵察隊本部へ至急無線連絡を行った。

 他の監視所の行動も同様だった。


 偵察隊司令部は第46戦闘団にもただちに報告を行い、氷ノ山一帯に展開する全部隊に警戒態勢を取るように命令を下した。


 また、師団本部にも連絡をとったか、それと同時に淡路島でも同様の動きがあったという報告を受けた。





「なんだあれ」


 淡路島の13万の島民を救出するため、先行して島南西部あった慶野松原海岸に上陸した第2水陸機動連隊第1中隊のうち、隊員の誰かが思わず呟いた。

 彼らの任務は南部に集結している怪獣の監視と住民の警護だった。


 しかし、小型から大型に変化したギドンの変化を目の当たりにして、彼らは動揺した。

 上陸したばかりの彼らは、上陸用舟艇が去った後の海岸で、3台のAAV7水陸両用装甲車とほか数台の車両の前で慶野松原の海岸に立ちすくむよりほかなかった。




 その時、彼らは南のほうから何かが複数飛んでくるのが見えた。

 数十ほどだろうか。

 第1中隊長はすかさず、双眼鏡をもって、当該物体群を確認した。


 小型ギドンの群れだった。 


「小型ギドンの群れ確認! 中隊総員遮蔽物に隠れよ! 車両も可能な限り偽装網のなかへ!」


 中隊長はそういうと、各隊員が指示に従った。


 隊員たちは国指定文化財の名称、慶野松原のなかに潜んだ。

 大きなAAV7はエンジンを轟かせ、すぐに付近に駐車場などに張られた偽装網に潜んだ。


 駐車場や広場を覆うように張られた偽装網は、AAV7には少し手狭だったが何とか入れた。

 また、その間に73式小型トラックや高機動車も入った。しかし、偽装網も車両が入るほど張られていなかったので、時間的猶予もなかったため、一部の車両は外に放置された。


 中隊長は双眼鏡で小型ギドンの群れの動きを見た。


 さらに、中隊長が広帯域多目的無線機の携帯用I型と呼ばれる、隊員個々人がもつ通信機を使って、連隊本部に報告する。

 マイクは骨伝導だ。


「〇〇(マルマル)、こちら、〇マルフタ。ギドンの小型の群れ確認。現在淡路島南部飛行中。数は100近いと見られる。送れ」


 と、連隊本部の了解、監視し、指示を待て、という言葉を聞きながら、中隊長は、50ほどが地上に降り立つのが見えた。


「〇〇(マルマル)、こちら、〇マルフタ。敵半数ほどが降下したのを確認。もう50はーーー北へ向かった。送れ」




 淡路島に構えていた2つの群れに、太平洋から小型の大群が新たに加わった。

 氷ノ山でも、太平洋から四国を越えて、60体近い小型ギドンが加わった。

 新たに成長した大型ギドンに、5体から10体の小型ギドンがついたのだ。

 報告を聞いた高野は、そう結論付けた。





〈結〉


 結はメゴスの声をきいた。

 彼女が今いるのは、鯨神島、結の実家である。


 彼女は実家の御蔵の2階にいた。そこで、誠司と津岡とともに、家に古くから伝わる古文書などを探している。

 屋根裏部屋を少し大きくしたようなその部屋は、それで天井は低く、窮屈さを感じてしまう。

 室内の光も、むき出しの小さな電球一個なのも余計そう思わせてしまうのかもしれない。


〈どうしたの、メゴス?〉


 結が発音せずに、頭の中で話しかけるように意識をして、メゴスにきく。


〈ギドンの様子が変なんだ……〉


「……変?」


 思わず口にした言葉。

 誠二と津岡が結のほうを向いた。


〈何か動きがある……東のほうに、いくつもの動きが……〉


 誠司と津岡のほうを見て言った。


「メゴスが、ギドンに何か動きがあるって」


「何か動きってなんだろう」

 誠司が首をかしげた。


 さあ……そう言いかけていた時、御蔵の入り口から誰かが入って来る音がした。

 そのあと、ドタドタと駆け足で御蔵を走る音が響く。

 その音は徐々にこちらに迫ってくるようだった。


「大変です!」


 野崎だった。迷彩服をきた彼女が、血相を変えてきた。


「まさか、ギドンに動きがあったのですか?」


 津岡がそうきくと、野崎は、すこしきょとんとして、はい、といった。


「小型ギドンが大型ギドンに変化したそうです」


「変化、ですか?」


 誠司が驚愕した表情で、野崎を見た。


「うん……そういう報告がきている」


 野崎も興奮から少し冷めて、どこか信じられない顔をしていた。


「……詳細はわからないけど、成長したってことだと思うんだけど」


 野崎の言葉に、津岡は唸った。


「そうか……大型ギドンは、小型ギドンが成長した形だったのか」


 津岡がそういうと、野崎がまだ断定できませんが、とあいまいな返答をした。


〈結、ぼくの記憶はとてもあいまいなものだ……〉

 

 メゴスが結に突然呟いた。


〈こんな大切なことすら知らなかったなんて……〉


 メゴスは切なげな声を漏らした。


〈そんなことはないよ。あなたが後悔するところではないわ〉


 結がそうメゴスに語ると、津岡が質問。


「メゴスは、この事実を知ってたのかな?」


「知らなかった、メゴスはそう言っています。知らなかった自分を、とても自責すらしています」


 結はそう言ったあと、我がことのように悲しくなり、唇をかんだ。

 津岡が数秒黙って、頭をかいた後、ごめん、と謝罪する。


 そのやりとりを客観的に見ていた野崎は思った。

 メゴスは自責の念すら感じるほど、自我が発達しているんだ。

 知的も人間か、それ以上に高度なものを有している。


 ふと誠司のほうを見た。

 彼も結とは違ったような感情も含んだ、切なげな表情を浮かべて、結のほうを見ていた。


 



 先ほどと同じ部屋。高野たちは、小型ギドンが大型ギドンに変化していく様子を液晶テレビを使い、自衛隊からの映像で何度も見返していた。


「大型ギドンは、小型ギドンへ……成長した姿だったということか。しかも子分もたくさん率い始めた……」


 環境省の伊藤がそういった後、唸った。

 

「成長したことに関して言えるのは、かなり劇的な成長だってことね……人間で例えたら、30秒くらいのうちに、5歳程度の子供が、20歳近くまで成長するような、それほど急激な変化が行われている」


 赤松が静かに言った。 


「知的レベルも高そうだ……一気に群れを引き受けるなんて」と伊藤。


「しかし、それで体がもつのか」と小島。

「普通の動物なら、体がもたない。そもそもそんなエネルギーをどうやって……」


「いや、それもだけど……」


 高野は、ここにいた誰もが思っていたことを述べた。


「超大型ギドンも、大型ギドンが成長した姿なのだろうか」


 一瞬沈黙。


 たぶん、と赤松。


「もしそうなら、あんなでかいのは1匹だけじゃすまなくなる。大型ギドンは、すでに20匹以上が確認されている」


「超大型が複数出てきたら、事態に対処できるのか……」


 伊藤が独り言のようにつぶやいた。


 また静かになった。


 それを打ち破ったのは、ドアを強くノックする音。

 また自衛官が入室してきた。


「失礼します。空幕の平坂一等空佐より、至急連絡が入っております」

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