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第26話 対象物調査対策本部機動調査チーム会合



 福岡県福岡市西区元岡。

 ここには九州大学伊都キャンパスがある。九大の学部のほとんどがここにキャンパスを置いている。

 九州大学生物環境学科もそれは同じだった。西のはずれにある、新しく、大きなキャンパスだ。


 今、ここに学生はいない。九州大学をはじめとする、日本全国の大学は今日から臨時休校となっていた。


 今、この新しいキャンパスには、対象物調査対策本部――略称、対調本たいちょうほんの機動調査チーム――機調きちょうの拠点が置かれていた。

 メンバーである各学者、官僚、自衛隊幕僚が集結しつつある。また、九州大学をはじめとする、多くの大学や研究施設にはギドンの遺体、遺物が運び込まれ、調査研究が行われていた。


 本来ならば拠点も東京に置かれ、研究も東京で行われるはずだった。しかし、関西で交通網が寸断された今の日本では、中国・四国地方から東京へ向かうことも至難だった。




 

 夜7時。

 生物環境学部キャンパス大会議室。

 カーテンを閉め切って、講談に向かってパイプ椅子が無造作に100以上置かれている。

 その席の全てに学者や官僚、自衛官が座っていた。演壇の近くには十代の少年少女二人―――結と誠司もいた。

 大きな部屋だったが、大勢の人がいるためか、とても圧迫感があった。以前よりも組織が公のものとなり、改変されたことで、人員が増えたことも要因だろう。


 演壇には川原 内閣官房副長官補が内閣府の防災服に身を包んでいた。やや淡い青色の防災服だった。

 鋭い感じはするが、どこか疲労の色は隠しきれない。それはこの部屋にいる全員がそうであった。


「まず、この山陽や四国を襲った巨大物体について、ここでは怪獣と仮称します」


 川原の被害概要の報告はそこからはじまった。


「この怪獣による被害は、今日18時の時点で犠牲者12万2373人、全半壊の建物は300万戸以上を超えています。

 被害があまりも大きく、また現在、被災地で航空機の飛行禁止、道路の寸断などが発生し、未だその全容がつかめていないのが現状です。

 ですので犠牲者はさらに増えるでしょう。

 停電、断水も各所で発生し、現在確認できているだけで、四国、中国地方で停電世帯800万戸以上、断水300万戸以上。避難者は500万人以上になっています」


 川原は一呼吸置いた。ため息代わりである。


 しかし、部屋のあちこちからはため息が漏れていた。


 川原は続ける。


「以上は簡単に直接的被害をまとめたものです。しかし、間接的な被害も深刻です。

 本日正午時点で、中国・四国地方の工場はほぼ全てが操業停止。関西では8割、九州と北陸では6割、東海では5割程度の工場が操業停止、残りの工場も通常の7割ほどで操業を行っています。

 交通・物流も関西、中国、四国で滞っているため、操業停止の動きはさらに広がるでしょう。

 また、株式市場も全面的に取引停止が行われているため、金融業界も打撃が深刻です。緊急災害事態の布告に伴い、モラトリアムや物資統制も行われています。

 物資もそれを生産するための工場なども操業停止し、また物流が滞っているため、日本の市場、産業は完全に麻痺状態です。そして―――」


 川原は一呼吸置いた。


「ここまで産業が麻痺した場合、国民生活、国民の生命に関わる事態になります。

 この怪獣災害の被害が深刻であり、さらに事態が現在もなお進行中であることから、船舶、飛行機が日本国内に来ないため、輸入量が激減しています。

 現在はまだ備蓄がありますが、ご存知の通り、我が国は食料、石油などの資源を含む多くのものを輸入に頼っているため、このまま事態が進めば、全国的に餓死者、または暖房が燃料不足などで使えなくなるため、凍死者が出る恐れもあります

 特に被災地の山間部や瀬戸内海の離島は深刻です。緊急時の災害物資や燃料はありますが、遅くとも1か月以内には底をつきます。高齢者なども多い地域では、すでに都市部への避難を開始しているところもあります。

 しかし、都市部は破壊された地域も多く、現状、避難場所も破壊されて、ただでさえ避難者を受け入れるのが難しい状況です」


 川原はどっと疲労を感じた。

 短い報告を話しただけなのに、疲労感が出たのははじめてだった。

 しかし、彼はまだ話を続けなければならなかった。


「つまり、率直に申し上げて、日本は未曾有の危機に直面しています。被災地やその周辺地域以外ではまだそれほど表面化していませんが、すでに現状は日本の全国民の生命に関わる事態になっています」


 川原は大きな部屋にいる英知を持った100人以上の人々を見渡した。


「皆さんには、あの怪獣たちを研究、調査、分析、あるいはそのサポートをする役割をそれぞれ担ってもらいます。この最終的な目的は、事態の解決です。あの怪獣に対してどう対処し、いかに事態を解決するか、皆さんに考えてもらいます」


 川原は最後にこの一言を言って、報告を締めた。


「皆さんに、日本の将来がかかっています」 







「ここで、まず仮称として、ここでは四国中央部から出現した複数体の怪獣を総称してギドン、このうち小型のものを小型ギドン、それ以上に大きなものを大型ギドン、そして、それらとは別に、高知市に出現した超巨大のものを超大型ギドンとそれぞれ呼称します。

 また、広島湾に出現した個体の怪獣をメゴスと呼称します」


 高野が怪獣の概要について述べ始めた。

 

「まず、キドンについてですが、おおまかにわけて、これから述べる5つの特徴が見られます」


 会場の人々は手元の資料かスライドをみている。


「一、集団で統率のとれた行動を個体間で取っている。

 二、大型のギドンはそれ一体につき、数体から十数体の小型のギドンを統制など―――つまり、複数の小型ギドンを引き連れて行動しているとみられる。

 三、超大型のものは、さらにその倍、数十体から百体近い小型のキドンを引き連れている。

 四、いずれの形態にせよ、レーザーなど、兵器に匹敵する攻撃力を持っている

 五、いずれのギドンも、都市部、また交通の要所――高速道路のジャンクションやインターチェンジ、空港、鉄道のターミナル駅などといったところを重点的に攻撃している」

 

「まず一についてです。多くの個体が、基本的に集団で行動をしています。鯨神島の一体が呉から向かったケース、広島から呉に増援として一体送られたケース、

 またメゴスの攻撃で1体しかいなくなった大型ギドンが単独で逃走したケースもありますが、基本集団で統率された行動をとっています。

 飛行する際もフォーメーションを組んで飛んでいます。またメゴスと戦闘した際、広島市内にいたメゴスは連携を取ってメゴスを攻撃しています。

 また、広島市から逃走した大型ギドンのケースでは、途中で四国中央部から小型キドン数体がこの個体のもとに送られ、

 深手を負った大型ギドンを守り、警戒するかに包囲、周囲を見つめるなどして警戒している行動を取っています」


 続いて、高野は二、三の説明を行った。

 二は、大型ギドン一体につき、小型ギドンが数体から数十体の単位で1つの集団のように行動していること。

 三は、超大型ギドンはその倍の数の小型ギドンをとともに同じように集団的に行動していたこと。

 

「四はいずれの形態にせよ、かなりの攻撃力をもっていること。小型ギドンのレーザーにしろ、街の一区画ほどを炎上させる能力があります。

 また、超大型の、まるでミサイルのような、同時多発的な飛翔体による攻撃など、人間の持つ兵器や軍隊に匹敵する、極めて強い攻撃力を有しています」


 そして、と高野は締めに入った。


「五、このギドンの行動は都市部、または交通の要所といえる部分を集中的に攻撃しています。例えば飛翔体攻撃の大半は、高速道路のジャンクションやインターチェンジ、一般道の大きな交差点、

 空港、さらに鉄道のターミナル駅、そしてそれ以外の都市部に集中していること。例えば、四国の3つの陸路――瀬戸内海、しまなみ海道、鳴門大橋は全て破壊されました」 


 その場にいた者たちは、場が一瞬凍り付いたかのような錯覚を覚えた。

 

 高野はそれでも、全く未知の部分が多く、今後の研究が必要である旨を言って締めた。





 次は赤松霧子准教授がギドンについての報告を行った。彼女は形態学が専攻である。


「率直に申し上げてます。形態学的に申し上げて、現段階でわかっていることはほとんどありません。推測すらできないことも多くあります。

 我々は広島と呉でメゴスに倒された小型ギドンの死体や残骸を回収し、研究機関に保管、調査を続けています。

 わかっているのは、臓器らしいものが複数あること。ギドンの内部――またメゴスの内部も――には液体が流れていることです」


 彼女はスライドを動かした。

 1枚のスライドに、くすんだ紫色をした、見たこともない臓物が並んでいる。


「恐らく、小型ギドンの、ほぼ全ての臓器が手に入っていると思われます。ですが、どういう役割を果たすか不明な器官も多い。

 また、あるべきはずの器官がない点もいくつかありました。例えば、生殖器です。生き物は生殖活動を行って数を増やすのが通常ですが、それらしい器官が見当たらない。

 そして、心臓。これも見当たらない」


「心臓がなくて、どうやって生きているんだ?」


 思わず会場からそんな声が出た。中年男性らしき声だ。

 しかし、それは、会場の総意のようなものだった。


 赤松は答えた。

「わかりません。それもこれから調査します」


 内部構造に関しては全くと言っていいほどわからないということがわかった。






 小島の、生理学的観点からの話は全くわからない、という内容だった。


「このギドンの内部には複数の液体が存在し、血管のように管の中を通ったり、あるいは内臓のようなものに詰まっています。

 そして、私たちはこの液体を成分分析にかけましたが――」


 小島はスライドを動かしながら、成分分析表を映した。小島の手元にも成分分析表はある。


「水素など、いくつか既知の物質は確認されたものの、ほとんどの成分は未知のものでした。しかし水素の占める割合は全体の5割ほどを占めています」





 

 そして、話はメゴスに移った。


「本題に入る前に」

 

 と、再び演壇に立った川原。


「これからお話しすることは、ギドンのもの以上に秘密事項です。また、到底信じがたい話もあると思われます。メゴスもギドン以上に未知の部分が多いのです

 ですが、重要かつ調査、検討すべきものだとして取り上げます」


 




「これは、つい先ほど海上自衛隊によって撮影された映像です」


 スライドに出た画像にどよめきが起こった。


 メゴスが海上に浮かんでいる。背中の部分だけが海上から見えているだけで、あとは水面下だった。

 そして、人々をどよめかせたのは、その周りを、海上自衛隊の護衛艦数隻が包囲しているからだ。

 いや、むしろ並走しているといっていい。護衛艦の艦首の向きや、護衛艦とメゴスの航跡が同じ方向になびいているのがその証拠だ。


「メゴスは鳥取県沖にて確認され、今、メゴスは山口県沖を航行しています。もう少しで我々の指定された海域に到着し、到着次第、自衛隊の護衛、監視を受けながら、同海域で我々からの指示があるまで、待機する予定です」


 どよめきがより激しくなった。


「あれが、メゴスが我々と行動を共にしているということになるんですか!?」


「そうです」


 会場の中年女性の声に、川原は淡々と答えた。


「なら、メゴスとのコミュニケーションはできているということですか?」

 

 今度は若い男性だった。立ち上がって、川原を見た。


「その可能性が非常に高いのです。続きは高野准教授よりお話させていただきます」





 凄いタイミングで振ってきたな……。


 高野は思わず心の中でそう呟いた。

 目には、会場いっぱいの人々の困惑した様子が見える。


「この、メゴスについては、さらに生態、その内部構造などはわかっていません。ほとんど不明といっていい。しかし、わかっていることがあります。

 コミュニケーションが可能ということです。それも――」


 高野は演壇近くにいた結に目を配った。

 彼女と視線が合う。それと同時に彼女はすっと立ち上がった。

 ほんの数歩歩くだけなのに、動きはぎこちない。彼女が高野と並んで、演壇に立つ。

 高野は、結の顔がとても強張っていることに気が付いた。


「彼女と直接心を通わせて、コミュニケーションをとることができるのです」


 会場からは数秒ほど沈黙が続いた。あ然、困惑、不可思議、驚異的……様々な感情が無言の中で、個々人の中で急激に膨張し、強烈な感情となった。

 それが、結に、視線となって注がれる。


「大丈夫だよ……」


 高野はぼそっと呟いた。

 結は思わず、高野の顔を見た。


「結さんや誠司君は僕らが守る……最悪、僕だけでも力になって守る。ここにいる人たちは味方だ。びっくりしたかもしれないけど……」


 高野はとりとめのない言葉を紡いで、最後は言葉が消えてしまった。

 しかし、結は少しホッとした。

 どこか頼りない人だと思うけれど、信用できるかもしれない。

 結はそう思った。 

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