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メゴスVSギドン 大怪獣 史上最大の決戦  作者: 頭ハジメ
第2章 瀬戸内海壊滅・広島決戦
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第21話 高知市、壊滅



 防災無線から、女性の、独特のゆっくりした声で、避難を呼びかけるアナウンスが聞こえる。

 パトカー、消防車や救急車のサイレンが、けたたましい合唱を街中に響かせた。


 高知県高知市。

 この平和な城下町の静かな光景が、数分前までの街の光景が一変する。





 山の方から脅威が、高知の市街地に迫る。


 空には数十体に及ぶ、30メートルほどの怪獣の群れが飛び回る。

 死肉に群がる、肉食の鳥の群れのような光景。

 済んだ青い空は、黒い塗料をぶちまけたように醜くなっていた。


 地上には200メートル近い、巨大な怪獣。

 歩く度に街や山を揺らし、地上をその凶悪で、真っ赤な目で睨みつけていた。


 超巨大な怪獣の、遠くにいる人々――郊外や、海辺にいるはスマートフォンで撮影するか、あるいは呆然としていた。

 怪獣との距離が近づくにつれ、逃げる人が増え、間近の人たちは――何もできずにいた。振動で、あるいは振動による家屋の倒壊に巻き込まれ。身動きが取れなかったからだ。

   




 超巨大怪獣が街を闊歩するたびに、足元のものがぶっ飛んだ。

 2階建ての家屋はもれなくバラバラになった。ビルも倒壊し、こなごなになった。

 車や電柱、道路の標識が飛び、南向こうの地区に落ちた。

 その地区は、飛び込んで破片でずたずたになる。


 そしてその地区も、また破壊される。


 超巨大怪獣は、久万川(くまがわ)を越えたところで若干進路を変えた。

 南西方向に体を向けた。この方角には、高知駅があり、さらにその先には高知城などが存在していた。








 銀色をした、地元の杉とチタン亜鉛合金で出来た高架にかかるアーチ状の駅舎。

 高知駅に、巨大怪獣が北東から迫っていた。

 怪獣は久万川を越えてから、住宅や商店を軒並み潰しながら、高知駅に向かっていた。

 

 太い右足が、高架ごと、高知駅の駅舎を吹き飛ばす。


 駅舎が、一気にバラバラになる。

 固い柱や、破片が、怪獣の進行方向―――駅の南西に弾き飛ばされる。


 南西にあった観光施設が半壊し、埃で見えなくなる。


 周囲に残骸が飛び散り、高知駅は跡形もなくなった。


 怪獣は、高知城へ向かっている。 






 高知県知事は数分前に重大な決断をしていた。


 怪獣出現、高知市街地へ向かっているという報告を受けた県知事は、高知市内への侵攻は確実とみていた。

 さらに、広島県庁が破壊されていたとも受け、高知県庁をどこかに避難させる準備をさせていた。

そして今、高知県庁の被災の可能性大と見込み、県庁からの退避、機能の緊急移転を決めた。


 他の高知県幹部も同様の意見をもっていたことから、移転の準備作業は急速に行われ、県知事が決断をしたときはいつでも移転できる状態にあった。


 高知県警察本部から、パトカー5台と急遽、青色に白いラインの入った大型輸送車―――よく、民間人からは護送車と呼ばれる―――を2台持ってこさせた。

 また高知県内のバス会社からもバス2台、地元の運送業者からもトラック2台を手配し、県の公用車も総動員させて、移転作業が行われた。


 もはや時間はなく、必要最低限可能な物品をもっての移動しかできなかった。

 移転先は高知市南西部の高地にある、最近できた市立の文化施設。

 県庁の機能を維持できるように作られてはいないが、移転先はそこしかない。

 病院も学校も被災者であふれかえるだろう。


 そうなれば、県庁が避難できるところはそこしかない。






「第一陣行きます!」


 県幹部の号令の下、白バイ2台を先頭に、数台の車が動いた。

 自衛隊の連絡要員を乗せた73式小型トラックや、最低限の要員を乗せたバス、同じように最低限の資材を乗せたトラックなどが動く。

 そのなかの、黒塗りの公用車の中に知事と、高知県危機管理監が乗っていた。


 数台の車列が、県庁を出て、西へ向かって走る。


 事前の情報通り、車はほとんどいない。多くの人が休みである、日曜の午前ということが幸いだったかもしれない。

 もっとも、県知事も危機管理監も、普段のスケジュール通りなら休日だった。昨日起こった、高知道の爆発事故に関して、県の対策本部を設置したため、昨晩から県庁に缶詰めになっていたのだ。


 黒塗りの公用車には知事と県危機管理監、さらに他数人の県警幹部が乗っていた。

 車内電話と手持ちの携帯電話以外の通信手段はなく、それ故に指揮機能が取れないため、今は県庁に残っている副知事が県庁機能の陣頭指揮をとっている。


 知事が避難が済み次第、知事がまた陣頭指揮をとり、副知事らは県庁は脱出する。


「早くしないと、間に合わんぞ」


 県知事が車窓から高知駅のほうをみた。

 黒煙が上がっている。建物の合間から巨大な怪獣がゆっくりと接近しているのが見えた。


 その時、巨大な怪獣が口を開いたのが見えた。

 その中がきらっと発光する。


 県知事が意識を失う前に見た、最後の光景だった。





 真っ赤な光線だった。

 瀬戸の沿岸を襲った光線らよりも太い光線は、高知競輪場めがけて放たれた後、一筋の線を描くように街を焼いたまま、光線を北へ移動させた。

 光線は高知競輪場から、光線の当たった部分を破壊していく。鏡川を越え、住宅やビル、道路を焼いた後、ついに高知城に到着した。

 その南には、高知県庁と、高知市役所があった。


 光線を受けたところは大爆発が起こる。

 強烈な閃光とともにで、全てを焼き尽くす爆発。平野に轟くほどの爆音が響き、空気が震えた。

 光線を打たれたところから周囲1キロ近くは数千度の爆炎によって焼かれ、それから3キロ程度は強烈な爆風に見舞われた。

 赤い高熱がいったん収まると、巨大な煙が立ち上った。その爆心となった、大地はめくれあがっていた。


 高知城はバラバラになった数秒後、高熱で蒸発した。

 高知県庁舎も炎の中で崩壊した。


 超大型怪獣は海に向かっていた。他の小型怪獣の群れも、それについてきている。






 この高知市内の様子は、様々な人や団体が、撮影を行っていた。

 多くは市民がスマートフォンなどで撮影していたが、地元のテレビ局のカメラマン、あるいは飛行機墜落や高知道爆発で、東京からやってきた新聞社や通信社の記者、

 さらに環境省の伊藤の発案で、国交省とともに急遽設置された定点カメラも、その様子を映していた。


 そのなかで唯一、海中から撮影を行っているものがいた。


 海上自衛隊潜水艦『おうりゅう』である。


 横須賀基地を出港してから数日、『おうりゅう』は、高知道爆発から、太平洋から高知市沖の土佐湾を航行していた。


 瀬戸内海沿岸壊滅、呉基地空襲の一報を受けてからは警戒を厳として、沖合を警戒航行していた。


「まさか、こんなことに……」


『おうりゅう』艦長の本郷二等海佐は、潜望鏡に目を当てて、海中から高知市の惨状を目撃していた。

 精悍で猛者のような顔立ちの中年の男は額から冷汗を流し、潜望鏡の持ち手を握りしめていた。小柄で若干肥満体の体躯は潜望鏡から離れない。


『おうりゅう』発令所、潜望鏡の右後方にあったコンソールにも数人の乗員が集まっている。

 このコンソールは、艦長が見ている潜望鏡、その隣にある、非貫通式潜望鏡からの映像を撮影し、画像処理するための制御装置だ。

 この非貫通式潜望鏡は、艦長が見ている潜望鏡と同じ方向を向いている。よって、このコンソールから、他の乗員たちも艦長と同じ光景を見ていることになった。


 若くて背の高い、副長の早見三等海佐もこの様子に呆然としていた。

 周りが部下がいるのだ。副長である私が呆然としていてどうする。そう自分に言い聞かせるが、彼は表情を変えられなかった。


「航海長」


 本郷艦長の呼びかけに、潜望鏡――艦長を背にして――左側にある電子海図台で、台の上のディスプレイに浮かび上がった海図を見ていた航海長がはい、と返した。 


「この直下の海底はどのくらいの深度だったか?」


「はっ、この直下ですと水深80メートル、平坦な地形です」


「なら」


 艦長は潜望鏡から目を離した。

 鋭い目で、乗員たちを見た。


「主機関停止、海底に着底せよ。可能ならば、やつらが海に入った時の音紋も取ろう」


 音紋とは、艦船が航海時に出す音の特徴のことである。いわば、船の指紋のようなものだ。


 潜水艦はソナー、つまり海中の音によって、周囲の状況を探知する。

 ソナーも、自ら音を出して、その音によって周囲や、他の艦船との距離などを明確に測定するアクティブソナーと、周囲の音を収集し、そこから周囲の状況を確認するパッシブソナーにわかれる。


 パッシブソナーの場合、同型艦でも音に違いがあることもある。それゆえに音を収集し、それを味方全体で共有することが重要になってくる。

 最終的に、音を聞いただけで、またその音を機械で処理しただけで、その船が何者であるかがわかるのだ。


 各部署から命令が達せられたのを受けて、各員命令を復唱しながら行動を開始。

 水面上からぽっつり上がっていた潜望鏡が降り、各部署が潜水のための準備を整える。


 機関室は主機関を停止。主機関の停止は、ただちに航行できないリスクはあるが、ソナーには探知されにくくなる。


「潜水開始。メインタンク注水。着底するまで続けよ、ゆっくりとな」


「了解。メインタンク注水」


 航海長が艦長の命令に基づき、さらに部下たちに命令を出す。


 潜水艦艦内上部にあるメインタンクに、海水が入っていく。

 それに伴って、潜水艦は徐々に潜航していく。


 艦が揺れた。着底したのだ。浅い海なのですぐ海底に着く。

 しかし、静かで、あまり大きな衝撃ではなかった。この艦の練度の高さを証明していた。

  

「着底」


 航海長がいった。 


 発令所横の水測室では、3名の水測員がいて、ヘッドフォンを耳にあて、機材とにらんだり、機材を操作したりしていた。


「しかし、艦長」


 早見副長が、津田艦長に聞いた


「データはとれるでしょうか、あんなのの……」


「さあ。でもやってみる価値はあるだろう」



 


 超大型怪獣は、そのまま市街地を抜け、海に到着していた。


 超大型怪獣が、海へ、一歩足を踏み入れると、波が立つ。

 さらに、もう一歩、さらに大きな波ができる。


 尻尾が一気に海に入る。小さな津波が立った。

 

 土佐湾に波紋が広がる。

 

 超大型怪獣は水深が深くなるにつれて、その太い足を海に埋め、やがて足全てが入っていく。

 

 その時、土佐湾の沖合に、小型怪獣が次々と海へ突っ込んでいく。


 超大型怪獣の頭が海に入った時、高知市内にいた全ての小型怪獣が土佐の海に消えた。



 

 超大型怪獣が、航跡を残して、海へと消えた。



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