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メゴスVSギドン 大怪獣 史上最大の決戦  作者: 頭ハジメ
第2章 瀬戸内海壊滅・広島決戦
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第18話 最初の一撃



 小型怪獣の光線が、メゴスへめがけて放たれた。

 


 しかし、光線がメゴスに到着する前に、メゴスが口から、青い光の球を発した。

 

 メゴスの口をすっぽり覆うくらいの大きさの青い光球は、小型怪獣の光線の射線上に入った。

 青い光球は、赤い光線を打ち消しながら、飛行する小型怪獣めがけて飛んでいく。


 小型怪獣は絶叫した。直後、命中。

 

 光球は、小型怪獣の口中に入って、大きな爆発が起きる。頭の大部分が破壊されても、メゴスめがけて飛んでいた。

 それは、小型怪獣の意志というより、物理的な意味での慣性で飛行を続けていたからに見えた。


 メゴスは、若干失速気味になった小型怪獣の翼を、その大きな両手で受け止めた。

 メゴスは、そのまま小型怪獣を、足元に叩きつけた。


 海面と砂場のはざまに全長20メートルの物体が叩きつけられたことで、砂と海水が巨大な塔のように大きく跳ねた。


 しかし、小型怪獣はもう、動かなくなった。

 頭部の3分の2が欠け、残りも焼け焦げた小型怪獣は、完全に活動を停止した。


 




「あれが……ギドン……」


 誠司は、その戦いの全てを見ていた。

 30秒ほどの戦い。凄惨な戦い、メゴスは勝った。


 結はじっとメゴスを見ていた。


 メゴスが両手を左右に伸ばした。

 メゴスの太い手は、丸みを帯びたものだったが、一瞬にして、やや平べったく、ヒレがついたようになる。ヒレというより、やや厚さのある、飛行機の主翼のようにみえる。


 と、脚部と背中にあった大きな穴から、突然轟音とともに、白煙があった。

 

 メゴスはそのまま自らの体を浮かせる。

 メゴスは飛行したのだ。


「そんな……」


 誠司は、その飛行するメゴスの姿を見て驚愕した。


 誠司や、戦いからここまで、全てを目撃した島民たちも驚愕している。

 ただ一人、結はメゴスを、目を細めながら、じっと見ている。


 メゴスは東へと向かって、飛び立った。






 呉市内のビジネスホテルにいた70名近い人々は決断をした。


 彼はビジネスホテルの地下階を臨時の避難所として使っていたが、あまり広くなかった。

 元いた従業員たちや、昨日から宿泊して、チェックアウトしていなかった数名の客、さらに被害を受けて、とっさに逃げてきた大勢の人々……

 元々狭い休憩室と、調理場、備品室しかないこの地下空間は、彼らによって満杯に近い状態になっていた。

 彼らは、この建物の地下室があれば、そこにいれば事態をやり過ごせるだろう、そう考えていた。

 しかし、もうそこは人でいっぱいであり、そもそもホテルの従業員たちは、ここが攻撃されたら、地下階含む、ホテルの全てが破壊されるだろうと思った。


 つまり、この呉駅前のビジネスホテルにいても、怪獣に蹂躙されるだけだ、そう思ったのだ。


 そこで彼らは、怪獣の様子を見ながら、この駅前から脱出することにした。


  




「とりあえず川を渡って、入船山公園に行こう」 

 

 呉駅南東にあるビジネスホテル、その支配人らしい男がそう決断した。

 入船山公園は、直線でさらに200メートル南東にある大きな公園だった。

 このビジネスホテルからは、呉線沿いに通る亀山橋を渡り、海上自衛隊の呉教育隊の官舎を横切って行く。


「ここにいたままでは危ない。どこに避難すればいいかもわからないが、災害時の避難場所に行こう」


 支配人はそう従業員たちに言った。従業員たちは、他の、ホテルにいた全員に、それぞれ支配人の決断を伝えた。


「……大丈夫なの?」


 話を聞いた男の子が、珠美に聞いた。

 先ほど、珠美が救出した男の子だった。


「大丈夫だよ、きっと」


 珠美も内心不安だった。






「じゃあ、最初の人たち、私についてきてください!」


 中年の男性従業員が、ホテルの玄関の前で、はじめに公園まで向かう一群に向かって、そう言った。

 様子を見ながら、十数人ずつ、公園へ向かうということになっていた。


 上階から外を見た様子だと、呉駅近くの怪獣は、呉駅北側のバスロータリーにいて、そこから北に向かって進んでいるという。

 もう一体も、市役所の辺りにいたらしいが、このホテルからでは見当たらない。 


 いずれにせよ、一番近くにいる怪獣は遠のいている。

 チャンスだ。


 正面玄関から、十数人が外に出てきた。

 その中には、珠美と男の子もいた。


 玄関から右へ曲がって、そのまま30メートル走る。

 全員、それぞれが最小限の荷物や、あるいは何も持たないまま、全力で走る。

 珠美も、男の子の手を引いていた。


 足元にはたくさんの石の塊が落ちていた。

 全員が時々、つまづいて、ころびそうになる。


 若い女性が転んだ。近くにいた中年の男性と若い女性が、彼女を両脇で抱えて、走った。


 T字の交差点まできた。近くのマンションでいったん全員が止まる。

 全員、隠れるようにして、壁際に寄りかかる。

 ここですでにかなり消耗しているようだ。体力に自信のある珠美も荒い息をしていた。

 男の子も、はあはあ、と呼吸を整えようとしている。


「様子みて、今度は橋の手前まで――」


 先導していた従業員がそう言った時、けたたましい音が近くで響いた。同時に、大きくて短い振動が彼らを襲う。

 悲鳴。


「きてる! こっちきてる!」


 誰かが叫んだ。


「海の方へ逃げて!」


 従業員が叫ぶのを珠美はきいた。

 他の人たちは海のある方へ向かっている。蜘蛛の子を散らすようだ、


 珠美の目の前は、かつてあったマンションのあったところ。今は瓦礫の山。

 その前には呉駅に向かう道。

 左に曲がれば、境川にあたって、そのまま川沿いに下れば海だ。


 珠美は何も考えずに、男の子の手を引いた。


 珠美も男の子も知らない。その川沿いに怪獣がいることを。

 怪獣は駅のロータリーから南東の方角を、通り沿いに歩いて、時々通り沿いの建物をその太い手や光線で破壊しながら、境川に向かっていたのだ。


 珠美と男の子、さらに数人の逃げ惑う人たちは、目前で、亀山橋が怪獣によって踏みつぶされ、大きく崩れるところを目撃した。


 レトロな橋は、怪獣の足によって大きく踏み抜かれた。


 珠美は海へ向かって、男の子を手を引いて走る。


 ひたすら海へ向かう。


 男の子の足が、私に追いつかない!

 珠美は男の子をとっさにおんぶをする。


 女子高生が、小学生に入る前くらいのような、幼い男の子を負ぶうのは重労働だ。

 同時に全速力で走るのは、過酷な行動である。


 しかし、それをしないと、男の子も、自分も死ぬ―――


 彼女は振り向いた。怪獣が川を下って―――つまり、彼女の方に向かって歩いている。

 怪獣の方が早い。このままでは追い付いてしまう。


 珠美は息を荒らしながら、海へ、海へと向かう。

 もう何も考えない、考えられない。海に着けば助かる保証なんてない。

 でも、海に走るしかできないのだ。


 後ろから淡く赤い発光が差したのがわかる。

 光線が撃たれるんだ、と思った。


 荒い息を吐きながら、彼女はかすれたような声で小さく悲鳴を上げた。 


「助けて……誰か、助けて!」






 怪獣は境川の中で、光線を吐こうとしていた。

 怪獣の右側、眼下にはいくつかの建物と、その間を逃げ惑う数名。


 怪獣は一撃をくらわそうと、息を吸って、光線を吐きだそうとしていた。


 しかし、突然、一発の光球が腹部に当たった。

 爆発する。思わぬダメージに、怪獣は衝撃で天を仰ぎ、光線は空に向けて放たれた。


 怪獣は倒れる途中、視界に、東の青空から自分の方へ向かって来る、飛行物体を捉えていた。






 爆発が起きた。吹き飛ばされそうになる。何が起きたか、珠美にはわからない。

 ひたすら走る。


 と、目の前の空に、何か巨大な物体がいるのが見えた。

 それが空を飛んでいる、こちらに向かって。


 珠美は思わずそれを見た。


「何、あれ……」





 メゴスはゆっくりと制動をかけながら降下し、呉市の境川河口に降り立った。


 100メートル先には自らが壊した、亀山橋の残骸の中に倒れる怪獣。


 メゴスはその怪獣に向かって、大きな足を動かす。

 大きな地響き。周囲を揺らし、市内に轟く。


 怪獣は顔を上げ、メゴスを向いた。橋のがれきに埋もれた体を必死に動かす。

 怪獣が口から光線を発射する。先ほど街を燃やしていたそれより細く、赤みも淡くなっている。威力が小さいのだ。


 メゴスはそれを顔面めがけて放たれた。逸れる。

 顔をしかめるメゴス。


 そのすきをついて、怪獣はすくっと立ち上がり、その全身をもって、メゴスにとびかかった。

 その時、2体の間は、50メートルまで狭まっていた。


 メゴスは右腕をぐっと上げ、迫る怪獣の顔面を思いっきり殴った。


 怪獣は顔面から吹っ飛ばされ、亀山橋の西側にあった交差点まで吹き飛ばされる。

 怪獣は、なぎ倒された信号とめくれ上がった道路の中で、小刻みに痙攣を続けるだけになった。


 さらにメゴスは、その怪獣に近づく。




 

 しかし、メゴスの後方から、赤い光線が飛んだ。

 メゴスの背中に命中する。メゴスは痛みを感じて、思わず動きを止める。

 メゴスが振り返る。


 広島市の方角から、もう1体の小型怪獣が飛んできている。


 悪魔のような形をしたそれは、翼を背中に回し、まるで槍のような姿勢で、凄まじい高速でメゴスに向かっていた。


 さらにもう一発、メゴスに光線を放つ。

 今度は右腹部に当たる。メゴスは顔の筋肉を無意識に動かして、顔をしかめる。


 島市から来た怪獣は、そのままさらにメゴスに突っ込んでいく。

 よく見れば、前頭部から伸びた角が、少し長くなっている。


 音速の3倍ほどはあろうかと思う速さで、メゴスに突入しようとする怪獣は、呉市街地に衝撃波を巻き起こしながら、渾身の一撃を与えようとしていた。


 しかし、メゴスの動きのほうが若干早かった。

 メゴスは、そのあらゆる生き物を凌駕するような動体視力をもって怪獣の動きを予測し、少し体をそらした。角が右腹部に当たる。

 かすめる程度。それでも、メゴスに傷を残す。前から後ろにかけて、線のような、長さ1メートル以上の擦り傷が出来た。

 艶やかな、緑色の擦り傷がみえる。緑色の血が少しにじんでいた。


 飛行していた怪獣はメゴスに一撃を与えた後から、高度を上げ、速度を落とした。

 市街地を一気に吹き飛ばした後、市内の山々を一瞬で突き抜け、そのまま隣の東広島市上空まで到達した。


 境川河口付近から中央公園を抜け、北東の山岳部に至る線を中心にして、凄まじい衝撃波が発生した。

 高いビルがなぎ倒され、民家や商店がばらばらに吹き飛ばされる。

 大型トラックが道を数回転し、電柱にぶつかる。それよりも軽い自動車は宙すら舞うものもあった。

 重量のある車ですらその有様なのだ。それよりも軽いものは、空を飛んでいたという表現が適切なほどであった。

 呉市は数秒の間、地上に存在するものがなかったといっていいほど、多くのものが市内を飛び、そして着地した瞬間に大きなダメージを受けた。


 飛行中だった怪獣は、山中の木々を衝撃波で倒したあと、東広島市内を走る、山陽新幹線の線路の上空で、翼を広げ、くるっと半回転した。

 怪獣は、呉市街地の方を見る。 


 メゴスもまた、怪獣の方を見ていた。

 と、背中に気配を感じた。

 先ほどまで倒れていた、別の怪獣だ。メゴスが気が付いた時には、強く両腕をつかまれていた。

 地面で力を失っていたとは思えないほど、メゴスを抑える力は強い。






 東広島市上空にいた怪獣は、狙いを定めた。

 そして、尖らせた角を先端に向け、槍のような姿勢になった怪獣は、一気に速度を上げた。

 人間の科学では考えられないほどの急加速を、難なく行った怪獣は、呉市の、身動きが取れなくなっていたメゴスに目がけて飛んでいく。





 メゴスは自分に向かってくる怪獣を捉えた。

 メゴスは、ある意思を込めて、自分の中に力を入れた。

 つかんでいる怪獣は、メゴスの異変に気が付いたが、その時はもう遅かった。


 メゴスは一瞬、体内から放電を行った。

 電撃が、つかんでいた怪獣をひるませ、力が抜ける。

 メゴスはその隙に怪獣からの拘束を逃れ、自らの体を、地面に伏せた。


 その時、飛行中の怪獣は、自分の胴体に、高速で飛ぶときに発生する、円錐のベイパーコーンを腰に巻き付けていた。


 飛行中の怪獣は、メゴスではなく、放電と、メゴスが地面に伏せたときの地響きで、その場に怯むしかなくなったもう一体の、仲間の怪獣へと向かっていく。


 怪獣は動きを逸らそうとしたが、その判断が遅かった。






 よろめくようになった、地上の怪獣がバランスを整えようとした時、マッハ3以上の飛行速度で、仲間の怪獣が飛行してくるのを見た。

 地上の怪獣の、甲高い悲鳴。


 飛行中の怪獣は避ける努力をしようとして、右に逸れた。

 しかし、地上の怪獣の胴体に触れるのには変わらなかった。怪獣は右腹部をえぐられた。さらに胴体から手足、頭に至るまで強烈な衝撃が一気に加わり、その体が四散した。

 一瞬の出来事であった。





 飛行していた怪獣はまた市街地を吹き飛ばしながら、呉港上空に出た。

 

 それまでに、メゴスは立ち上がった。

 そして、飛行している怪獣に視線を合わせ、大きく口を開けた。


 飛行していた怪獣は、超高速で進路を調整したことと、その直後に、怪獣に衝突したショックで、コントロールが一時的に利かなくなっていた。

 呉の海の上で、コントロールを取り戻した怪獣は、上空で静止して、呉の街の方を向いた。


 そこに光球が3発、連続して飛んできた。


 最初の1発が怪獣の左翼付け根に命中したあと、2発目が首元、3発目が腰部分に、それぞれ立て続けに当たる。


 怪獣は3回の大爆発を体に受けた後、全身を炎上させながら、海へと落ちた。 


 怪獣の大きな巨体が海に叩きつけられた瞬間、大きな水柱が立った。


 しばらくして、沿岸部に波が打ち付けた。






 メゴスは、かつて怪獣がいた空を見つめていた。

 それを、ボロボロになった街の各所から、地上の人々が見つめている。

 珠美と、その男の子もそのなかにいた。


 2人は建物の陰に隠れるなどして、衝撃波の被害から退避しながら、何とか生存していた。


「助けてくれたんだ……」


 男の子が呆然としてつぶやいた。

 珠美はその意味が理解できた。2人は、今、メゴスを見ている。





 メゴスは両手を広げた。

 足元から強い風と白煙が出る。周囲にいた人々が風に目を細めるが、その様子をずっと見ていた。


 メゴスは空を飛んだ。

 西の方角――広島市へ向けて。


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