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メゴスVSギドン 大怪獣 史上最大の決戦  作者: 頭ハジメ
第1章 発動
11/40

第11話 2月の終わり。見知らぬ明日の始まり


 

 2月28日、日曜日。早朝。

 日本列島に日が昇る。


 ニュースは連日の飛行機事故と、昨日の高知道爆発を報じ、関係機関は乗員救助や原因究明などにあたっていた。





 思えば、この2、3日でニュースの内容は一気に変わっていた。


 ほんの1週間ほど前の新聞各紙の一面やテレビ・ラジオのニュース、あるいは各ニュースサイトのトップにある内容は、各紙によってまちまちであった。


 例えば、ある全国紙は、来月11日で東日本大震災から10年になることを取り上げ、今後予定されている関連した式典や、これまでの復興の過程を紙面で追っていた。

 さらに、復興の問題点をあげながら、発足してから2年経った現政権への評価について、やや批判的論調で展開していた。

 また別の全国紙をみると、先月から東シナ海で中国の調査船がたびたび進出している、と海上保安庁が発表したことを取り上げて、現政権に対してはやや好意的な論調を述べながら、我が国の安全保障の重要性を説いていた。

 他の新聞やテレビのトップニュースも、東京五輪後の不況による倒産件数増加がとどまることを知らないこと、来年4月から成人年齢が18歳まで引き下がることに関して、大きなシンポジウムが開かれたことなどをあげた。

 

 だが、世間の注目を一番集めていたのは、長年様々なメディアに出演していた既婚者の男性タレントが、新進気鋭の女性アイドルと不倫関係に陥っているというニュースだった。

 一部の人たちは、今世間から熱狂的に関心を集めている、この芸能ニュースも、来月には、震災から10年、という話題に埋もれるだろう、と漠然と考えていた。 






 しかし、1週間にぽつんと出てきた『西日本上空に謎の飛行物体確認 多発』という旨のニュースが、空気を入れた風船のように一気に膨らむのにつれ、他のニュースはすぐに隅に追いやられた。


 さらに、貨物機墜落、そして、その翌日に起こった自衛隊機2機墜落と大豊インターチェンジ爆発のニュースが、全ての新聞が第一面でこれを取り上げ、テレビは朝になってもこのニュースを続けていた。







 高知道の全面通行止めと復旧のめどが立たないという状況は、四国で生活、または仕事をしている人たちにとって目に見える形になって現れた。

 愛媛県から高知県へと通る高知道が使えなくなったことによって、多くの自動車は四国山地を迂回する必要が出てきた。

 

 事故発生前より格段にトラックなどの到着時間が遅れ、物流が滞った。

 高知県内のスーパーやコンビニでは、棚が徐々に空きが見え始めてきた。また、郵便や宅配も乱れが生じ始めようとしていたが、今日はまだ日曜日だったので、大きな影響はまだ出ていない。

 しかし、明日月曜から大きな混乱が発生するだろうとみて、日本郵政と各配送業者は予測されうる事態に、対応する準備に追われていた。

 高知県内の一部の工場も、明日からの操業をどうするかで悩んでいた。トラックで輸送されていた資材の到着が大幅に遅れる、あるいは商品が全国各地に輸送されない事態が予想されていたからである。


 今のところ一番大きな影響が出たのは観光業だった。各観光地では、高知道が止まったことより客が来なくなってがら空きになり、ホテルや旅館ではキャンセルが相次いだ。

 

 高速道路の破壊、さらに復旧のめどが立たないという事態が、四国、あるいは日本に、静かに、だが確実に傷を与えていった。





 しかし、全国的に、多くの人はいつもと変わらない日曜を過ごそうとしていた。

 日本に住む多くの人にとって、それらのニュースは、直接自分の日常に関係のないことだった。


 気象庁は、朝5時に以下のような内容で、気象予報を出した。


『今日から明後日の夕方頃まで、全国的に晴れ。穏やかな陽気になるでしょう。冷え込みますが、記録的な冷え込みはいったん落ち着く模様です。

 ですが、明後日の夜から北日本、本州日本海側は天気はぐずつき始め、来週半ばから日本海側でも大雪が予測されます。また、太平洋側でも、今後、積雪が予測されます。

 また冷え込みもかなり厳しくなると思われます。今後の気象予報に注意してください』 


 またいくつかある民間気象会社の予報も同じ内容だった。

 





 多くの人が休日の朝を穏やかに過ごしていた。

 睡眠を続ける者もまだ多かったが、そろそろ布団から出てくる者もいた。


 料理を作る者、洗濯物を干す者、テレビを見る者、ラジオを聴く者、スマートフォンの画面をいじりながら見つめる者、新聞や本を読む者……


 あるいは今日、行楽地へ外出へ向かうため、電車に乗ったり、車を動かしだす者もいた。それは一人だったり、異性とだったり、友人とだったり、家族とだったり……


 また、これから出勤する者もいたし、あるいはもう少しで仕事から解放される夜間勤務者もいた。


 さらに、昨晩から飲み歩いた者は家に帰って床についたり、興奮冷めやらぬままにぐだをまく者もいた。




 


 


 つまり、色んな人が、色んなことをしていた。だが、それは、多くの人にとって、普段と変わらぬ、あるいはほんの少しだけ穏やかに違った日曜の朝だった。


 この日曜日もこうして相変わらずにはじまった。そして、今日もこうして、いつもと変わりない日曜日として終わっていくのだろう。そう、多くの人は思っていた。


 だが、その思いは間違っていた。






 警笛が鳴った。1隻の中型フェリーが着岸した。

 江田島市内の港から呉港に入港した定期船だった。時刻は8時13分。


 江田島からの始発のフェリーだったこともあり、降りる人や車もまばらだ。


 そのなかに、珠美もいた。

 

 青いスラックスにマウンテンパーカー、さらに黒いリュックを背負っている。


「たまー」


 桟橋を出ると、よく知っている声が聞こえた。

 そういったのは、ショートカットの若い女性だ。顔立ちも活発そうで、珠美によく似ている。

 ダッフルコートにジーンズを履いている。大きく手を振っていた。


「お姉ちゃん」


 珠美の姉、黒江一香だ。

 珠美は自慢の足で、うれしそうに姉のもとへ駆け寄った。

 

「迎えに来てくれたんだ」


「うん、ちょっと落ち着かなくてさ。ほら、例の大豊の事故で、うちも慌ただしくなったんだよ。結局何もなかったけど」


 一香は中国呉総合病院の若い救急救命医だ。中国呉総合病院は、市街地の東南のあたりに位置する総合病院で、呉駅から歩いて15分ほどの距離にある。


 元々、明治に海軍病院として発足した、古くからある、大きな病院だ。


「高知の事故でも、お姉ちゃんも出るの?」


「まあ、それもだし、あと、ヘリでけが人が運ばれてきたりするかも、って。まあ、それとは関係ないけど、夜は患者さんが、いつもよりきて忙しかったよ」


 ふうん、と珠美は言った。


「お姉ちゃんも、段々とおじいちゃんみたいになってきたね」


 そうかな、という一香の顔に少し笑みが見えていた。


 この姉妹の祖父も医者だった。大正生まれの彼は、太平洋戦争のときに医学生となり、戦争末期に医師となって以来、呉の地で外科医として活躍してきた。


 医師として、色んな経験をしてきた祖父だったが、孫たちには医師の経験談を語ってきた。


 そのなかでも一香が印象に残っているのは、災害地での医療活動の話だった。

 広島県では台風や山並みの地形から、洪水・土砂災害が他の所より多く起きているため、よく広島県内で起きた土砂災害の被災地へ医師として行った話もしていた。


 また工場の事故や大きな交通事故での救護活動の話もしてくれた。


 時々、ふと出てくる、重い内容であるが、どこか軽快に話してくれる不思議な祖父の話に、孫たちは聞き入った。孫の中でも、一番祖父の話に聞き入っていたのは、一香だった。


「私も、おじいちゃんみたいになりたいな」


 そう話す一香の表情は、どこか嬉しそうで、珠美もその表情を見ていると、姉への憧れと喜びの感情を覚えるのだった。


 





 誠司もまた、目を覚ましていた。


 彼は自室で、机に向かい、本を読んでいた。机には本が積まれている。全て、この島の言い伝えやメゴンに関すると思われるものばかりだった。


 メゴスとキドン……誠司は頭の中で、この二つの言葉を思い返した。


 メゴスは不思議な存在だ、と彼は思う。

 大きな母性とか父性とか、あるいは神聖なものも感じる。

 また一方で、とても幼さや純粋さも感じていた。


 大いなる、幼い存在。言葉にすれば、とても不思議だが、自分にとってはそうとしか説明しようがない存在だ。


 そのメゴスは、ギドンを倒すために存在するという。


 ギドンとはなんだろう? 彼は思う。

 文明を破壊するものと、メゴスは言っていた。

 文明を破壊する。なぜそのようなことをするんだろう?


 そして、メゴスとギドンをつくった、ウルクの文明というとは何だろう?

 文献を調べても、その言葉はほとんど出てこない。


 たぶん、大きな手掛かりとなる人物は、今日会うはずだった、津岡という考古学者だった。

 彼の文献にはウルクの文明のことについてが書かれている。というより、彼しか述べている人物がいない。


 ふと、彼は本を置いて、スマートフォンを手に取る。

 

 彼はメールを見た。


 津岡からのものだった。


『急な用件で行けなくなりました。本当に申し訳ありません』


 誠司は、なぜか嫌な予感がした。


 と、彼の手の中でスマートフォンが鳴った。


 通信アプリからの音だ。結から、メッセージが届いている。





《結》


 まだカーテンの空いていない、結の部屋。

 早めに起きた結は、パジャマから、紺色のシャツとジーンズの普段着に着替えて、スマートフォンをもって、ベッドに座っている。


(……来るの?)


 結は尋ねた。今日、日が昇る前から、そのような予感がしたのだ。胸騒ぎがする。


《うん、ぼくは、彼らが今何をしているかはっきりとわからない》


 メゴスはいつもの、低い、しかし幼い声でいった。


《けど、来る。ギドンは来るよ》




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