異世界 IN ウィリイイイイイイイイイイイヤッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! その2
「異世界IN」シリーズのその2に当たります。一話完結型なので短編にぶち込みました。
――どうしてこうなった?
「ウィリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイヤッハアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
毎日奇声を上げて叫んでばかりで正直つらい。
でも仕方がない。
僕がポルタという神さまに貰ったたった一個のチートが『テンション=ステータス』とかいう謎スキルだったのだから。このスキルは僕の普段のテンションを等倍計算として、それ以上のテンションにあがったときにステータスをその分だけ上げてくれるという物だ。しかもスキルの発動条件が雄叫びを上げることとまで指定されていた。
僕は元々内向的で地味な性格だ。あまり叫んだりしたことが無い。
だからか僕の普段のテンションは割と低めに設定されていた。その点だけはありがたい。
僕は丸腰無一文で異世界にやって来た。
だからこそお金を稼ぐにはこのチートを使うしか無かった。
奇声を上げるのは恥ずかしい。
凄く嫌だけど魔物が生息する森には基本人がいないので何とか耐えることが出来た。
「ウヒャヒャイヤッハアアアアアア! ハッハウイヤッハァ!」
奇声を上げながらゴブリンとか言う緑色の小男に躍りかかる。僕のテンションは普段の五、六倍に上げているので身体能力も同様五、六倍になっていると見ていい。
僕の握力は元々二十キロだけど、テンション補正で六倍になれば百二十キロ。
首を絞めて圧殺するくらいはわけは無い。
異世界に来て一週間。僕は叫びを上げ続けながら森でひたすら狩りをし続けた。身体能力が高かったおかげで通常の新人冒険者よりも僕は魔物を狩ることが出来たようだ。
登録した冒険者ギルドの受付の人に褒めて貰えた。
僕は宿を最低ランクにしてお金を貯めている。
武器が欲しいからだ。武器があればもっと強い魔物を倒しにいける。
そんなある日。
「どうやら森に不気味な奇声を上げる存在がいるらしい。危険な魔物かもしれん。気をつけろよ」
と、ギルド受付の人に僕は言われた。
……どう考えても僕だ。
僕は最近、人間が通常出さないような音域で声を発し続けている。
……どうやら冒険者にギルドから呼びかけをしているようだ。
近いうちに森へ偵察隊を送る予定でいるらしい。
それで僕が見つかったら気まずいなんてものじゃない。
ほとぼりが冷めるまでしばらく狩り場を変えようか。
僕はいつもの森から狩り場を荒野に変えることにした。
ギルドで聞いたところによると、荒野はスケルトンという骨の魔物が多く生息するようだ。
発生源は荒野の奥地にある嘆きの谷とか言うところらしい。
新人冒険者には危険だからあまり近づくなと言われている。
「ウィリイイイヤッハアアアアアアア!」
僕はいつものようにテンションを無理矢理上げてスケルトンをぶん殴る。
この無理矢理という所がポイントだ。僕にとって戦闘行為はかなりの精神的苦痛なのである。
これが僕が殺人快楽者とかだったら、このスキルは大当たりだったんだろうけどね。
しかし、キリが無い。不死者どもは地面からボコボコと際限なく湧いてくる。たまに、スケルトンに混じって内蔵が飛び出ている死体……ゾンビが飛び出してくる。
襲いかかってくるならば倒さなければいけない。僕はゾンビに殴りかかる。
――ブチュッ!
「ウィリイイイイイイヤッハアアアああああぁぁ……」
そん日の内臓が僕の拳によって潰れる。
ゾンビから酷い腐臭の体液が飛び散り僕は全身にその気色悪い液体を浴びてしまう。
べとべと、臭い。緑色。
「うぃりいいあああああ………………」
僕のテンションはだだ下がりだ。下がっちゃいけないとわかりつつも止められない。
そして身体能力が普段以下にまで落ち込んだ僕に、ゾンビの強烈な腕の一撃がヒットした。
僕はもんどり打って転がる。身体能力が落ちていたせいで骨が何本か折れてしまった。
痛い、痛い、痛い。苦しい。
痛みによる追い打ちでテンションがまずます下がっていく。
どんどん身体能力が落ちる。
ついに僕は自分の身を起こせないくらいに弱体化した。
襲いかかってくる不死の軍団。身動きできない僕。
絶望が心を支配し始める。
「……うあ、どうしよう」
絶望によって更にテンションが下がる。止めることの敵わない負のスパイラル。
……僕は身動きも取れないまま不死の軍団に捕食された。
気がつくと真っ白な空間にいた。僕を異世界に呼んだポルタがそこにはいた。
「……そこそこ面白かったよ。もう一回やる? 今度は麻薬を持たせてあげるよ」
この神は僕が藥漬けになって廃人になる様が見たいのだろう。
僕は何となくこの神があまり良くない存在である事は理解していた。
こんな神にもう一度生まれ変わらせて玩具にされるくらいなら僕は普通に死を選ぶ。
「はい。じゃ、キミはゲームオーバー。次はどんな能力にしよっかな。増える奴みたいにあんまり強すぎても処理が面倒だからねぇ」
どうやら以前にも僕みたいな立場の存在を召喚したことがあるようだ。
多分、この神は僕の後も犠牲者を増やし続けるだろう。
だけど、もう僕には関係ない話か。僕は消されるみたいだから。