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98:スクープ

「よく聞いてね。今日、スクープフラッシュマガジンっていう雑誌が発売されるわ。ゴシップネタの雑誌だけど、それに、あなたとユウさんが出る」

「えっ!」

 目を丸くさせ、沙織は驚いた。

 理恵は言葉を続ける。

「詳しくはまだわからないけど……たぶん、あなたとユウさんの熱愛が報じられると思うわ」

「熱愛って、そんな! 私、食事に行っただけで……」

「真実がどうかじゃないの。読者はゴシップを望んでるから……うちの事務所はつき合いを規制することはないけど、あなたはまだ新人だし、心配なの。こっちも手は打つけど、相手は人気歌手グループのリーダーだからね……スキャンダルとして、しばらくは出回ると思うわ」

 沙織は言葉を失った。顔面蒼白で、どうしたらいいのかわからない。

「こっちも出来るだけのことはするけど、少し覚悟しておいてね。ましてやあなたは、まだ学生なんだし……」

「……ごめんなさい」

「いいのよ……今日は幸いお休みだし、ゆっくりしてちょうだい。あとで何か買ってくるから。念のため、今日は家から出ないこと」

「はい……」

「じゃあ、起こしてごめんね。また来るから」

 少し疲れた表情で、理恵は去っていった。

 沙織はその後、あまりの反響の大きさに、辛い思いをすることになる。雑誌には、“BBリーダー・ユウ、熱愛発覚”の文字が躍り、相手として沙織の実名まで出ていた。


 その日から、沙織の携帯電話が引っ切りなしに鳴った。同級生や知人からの電話やメールは、真相を確かめるものが多く、中には中傷的なものもある。

 人気歌手の恋話ということで、芸能ニュースにも取り上げられ、沙織は一躍、違う意味での有名人となってしまう。スキャンダルを嫌う仕事からは、断りの電話を入れられた。

 沙織はどうしていいのかわからなくなった。



 数日後。リビングに放置された携帯電話が、また震えた。沙織は一瞬躊躇したが、尚も鳴り続ける携帯電話を手に取る。画面には、ユウの名前があった。

「はい」

 相手がユウとわかり、沙織はすぐに電話に出た。

『あの……沙織ちゃん?』

 間違いなく、ユウの声が聞こえる。

「はい」

『ユウです。今、大丈夫?』

「はい……」

『ごめんね、こんなことになって。もっと早くに電話したかったんだけど、それどころじゃなくて……本当にごめん……』

 ユウの言葉が心に沁みる。沙織は静かに口を開いた。

「そんな。ユウさんだけのせいじゃないです」

『でも、元気ないね。本当にごめん……』

「大丈夫です。本当に……」

 そう言うものの、沙織は正直参っていた。鷹緒がいないため、心から支えてくれる人が近くにはいない気がする。

 沈黙の後、ユウが口を開いた。

『沙織ちゃん。こんな時にあれだけど……僕とつき合わない?』

 突然のユウの言葉に、沙織は驚いた。

「えっ?」

『この報道はしばらく冷めないと思うんだ。だったら、ちゃんとつき合って公表すれば、今よりは君を守れる。堂々と、君と一緒にいられる』

「ユウさん……」

 そんなユウの言葉に、沙織は驚きを隠せなかった。まるで夢でも見ているのかと思う。

『僕は本気だよ。気付いてなかったみたいだけど、僕は君と出会った時から、君に惹かれてたと思う。最近君に会って、やっぱり好きなんだって気付いた……』

 ユウの声は本気であった。

 沙織は嬉しさを噛みしめながらも、突然の告白に、今は何も考えられない。

『突然だし、こんな時期だけど、僕は本気だよ。事務所には何も言わせない……君が好きだよ。君さえよければ、僕たちつき合おう』

 ユウはそうつけ加えた。

 沙織の気持ちは複雑だった。ユウのことが嫌いなどではない。むしろ好きである。けれど、鷹緒への恋心が冷めたわけではないのだ。

「あの……ごめんなさい。私、びっくりしてるんです。こんな大きな反響にも、ユウさんがそういうふうに私のことを想ってくれてたことも……だからびっくりして、今は何にも考えられないっていうか……」

 正直に沙織はそう言った。いくらユウのファンといえど、二つ返事でつき合うことなど出来ない。

『うん。ごめん、こっちこそ……なんか突っ走っちゃって』

「いえ……」

『じゃあ、また連絡するよ。しばらく迷惑かけちゃうと思うけど……何かあったら言ってね』

 優しいユウの言葉が包む。沙織は嬉しいような恥ずかしいような、そんな感覚を覚えた。

「はい、ありがとうございます……」

『じゃあ、また……』

 そこで電話が切れた。

 ユウからの告白はとても嬉しかった。しかし、今の沙織は何も考えられないほど、心身ともに疲れきっている。

「はあ……どうしたらいいんだろう」

 沙織はそのままベッドに寝そべると、携帯電話を見つめた。壁紙にしている写真は、鷹緒の送別会の時に撮った集合写真だった。人数が多いため、主役の鷹緒さえも小さく映っている。鷹緒の写真は、これしか持っていない。

 その時、持っていた携帯電話が震えた。

「メールだ……」

 沙織はメールを開くと、すぐに起き上がって、食い入るようにメールを見つめる。

“先日はどうも。元気そうで安心しました。沙織の頑張りは聞いています。これからも頑張ってください”

 送信者は、鷹緒であった。

「た、鷹緒さん!」

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