表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/125

96:デート

「どう? 芸能活動は」

 食事をしながら、ユウが尋ねた。沙織は苦笑して口を開く。

「芸能活動ってほどじゃないけど……でも、楽しいです」

「モデル業が多いんだよね。タレント業はしないの? 女優とかさ」

「私、あんまり機転利かないから……トーク番組とか、いくつかオファーはいただいているみたいなんですけど、あんまりうまくしゃべれないと思って、事務所の人もまだって感じで言ってます」

「じゃあ、女優さんでいいじゃない。台本見て覚えるだけ。演技は大変だけど、大して機転はいらないよ」

「演技なんて出来ないですよ……あ、ドラマと言えば、この間までやってたドラマ、見てましたよ。ユウさん主演で、すごいよかったです」

 沙織が言った。

 ユウは照れながらも、嬉しそうに微笑む。

「見ててくれてたの? 恥ずかしいな、下手っぴで……」

「そんな! 最終回なんて私、泣きっぱなしだったんですよ」

「本当? 嬉しいなあ」

 二人は会話を弾ませていった。


 食事を終えると、ユウが沙織を家まで送り届けてくれた。

 沙織は夏休み中だけ、事務所近くで寮代わりに使っているワンルームマンションで暮らしていた。同じマンションに数人の所属モデルやタレントが暮らしている。最近は事務所が忙しいため、鷹緒のマンションスタジオは休みなく撮影などに使われているようだ。そのため、今年はそこで暮らすことは出来なかった。

「ここでいいの?」

 ユウの質問に、沙織は頷く。

「はい、あのマンションなんです。数部屋、事務所が押さえていて、上京したての子とかが暮らしてるんですよ。たまたま空きがあったんで、私も夏休みだけお世話になることになってて……」

「そうなんだ」

「じゃあ……今日は本当にありがとうございました!」

「いいえ、こちらこそ。また一緒に食事でもしようね」

「はい!」

 沙織は深々とお辞儀をすると、車から降りる。ユウは軽く会釈をして車を走らせていった。

 それを見届けると、沙織はマンションへと入っていく。恋心に似た胸の高鳴りを覚えていた。



 次の日。沙織は早朝に目を覚ました。今日は午後から雑誌の撮影があるが、起きてしまって暇ということもあり、早くに事務所へ行くことにした。

「ああ、届いたよ」

 沙織が事務所に入るなり、大声で広樹が電話をしているのが見えた。電話の受話器を肩と耳で挟みながら、大きなダンボールをこじ開けている。

「それよりさ……あ、沙織ちゃん」

 突然、話の途中で広樹が沙織に声をかけた。沙織は軽く会釈する。

「おい、沙織ちゃん来たぞ……よくないよ。ちょっと待ってろよ」

 広樹は受話器を差し出す仕草をしながら、沙織を手招きする。

「え?」

「沙織ちゃん。鷹緒だよ、鷹緒」

「え!」

 沙織は驚いた。今まで事務所宛てに鷹緒からの連絡はあったようだが、それはいつも沙織がいない時間だった。あまりの偶然に、沙織は広樹に駆け寄り、素早く受話器を受け取った。

「た、鷹緒さん?!」

 震える声で、沙織が尋ねる。

『おう……元気か?』

 少し遠めだが、変わらぬ声がそこにあった。一年ぶりの、鷹緒の肉声だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ