85:シンデレラのゆくえ
「それでは、準グランプリの発表です」
着々と発表される中、後は準グランプリとグランプリだけとなった。
「準グランプリは……エントリーナンバー十六番。小澤沙織さんです!」
その言葉に、沙織は一瞬、わけがわからなくなった。
「えっ……」
「一度に二つの賞を取ったのは、今回が初めてだということです。さあ沙織さん、どうぞ」
信じられないといった様子で、沙織が前に出た。
グランプリではないものの、準グランプリだ。ベストフォト賞でも満足していた沙織は、大きな目を一層開いて驚いている。それをかき消すかのような、目眩がしそうなほどのスポットライトを浴びて、沙織はゆっくりと前へ出た。
「さあ、史上最多の賞獲得、並びに準グランプリになられた感想はどうですか?」
マイクを向けて、司会者が尋ねる。
「あの。本当にびっくりしてて……でも、本当に嬉しいです。ありがとうございます!」
頭の中が真っ白といった様子だが、素直に沙織が言った。客席から大きな拍手が沸き上がる。
「やってくれたよ……」
鷹緒も信じられないといった様子で、拍手をしながらそう言った。
グランプリは予想通りだった。駆け出しのタレントである。おかげで無名ながら準グランプリを取った沙織が、実質上のグランプリといっても過言ではない。人々の目は沙織に向いていた。場慣れし過ぎていない沙織の素朴さが、シンデレラコンテストの真の意味を見出していたのかもしれない。
コンテストが終わると、沙織は記者陣に囲まれた。カメラのフラッシュが絶え間なく沙織を襲う。その中に鷹緒もいた。インタビューが続き、さまざまなカメラとマイクが沙織に向けられている。
沙織が解放されたのは、三十分ほど経ってからであった。
「おめでとう!」
理恵とともに、広樹や茜、更には沙織の母親までもが沙織に駆け寄った。その様子まで、テレビカメラで追い続けられている。
「お母さん!」
驚きながらも嬉しそうに、沙織が母親を見て言った。
「来てたの?」
「うん。でも本番前だと動揺しちゃうと思って、ずっと客席にいたのよ。おめでとう! やったじゃない!」
満面の笑みで、涙まで浮かべた母親が言う。沙織もつられて涙ぐんだ。
「ありがとう。なんだか夢みたい……」
「よくやったわよ。今日は盛大にお祝いしなきゃね」
一同は事務所へと帰っていった。
その日は事務所で盛大なパーティーが行われた。事務所の人間が揃い、もちろん鷹緒もいる。大騒ぎの中で、沙織が鷹緒に近付いた。
「鷹緒さん……覚えてる?」
沙織が言った。突然の言葉に、鷹緒が首を傾げる。
「なにが?」
「ほら。シンコン終わったら、話があるって前に言ったじゃない」
前から決めていた、沙織から鷹緒への愛の告白である。鷹緒もそれを薄々感付いてはいた。
「ああ、うん……」
「聞いてくれる? 後ででいいから」
「うん。わかった」
鷹緒の言葉に、沙織が微笑む。
「約束だよ」
「ああ……」
「鷹緒さん。ヒロさん、また酔っ払っちゃうよ」
その時、茜が鷹緒に声をかけた。視線の先には、すでにフラフラな様子の広樹がいる。
「ああ。またあいつ、あんなに飲みやがって」
「そうじゃなくて、ほら。あの話……」
「ああ……おい、ヒロ。まだやることあんだろ」
鷹緒がそう言って、広樹の腕を掴む。広樹は酒で顔が真っ赤で、そろそろダウンしそうだ。
「大丈夫か?」
「もちろんだよ」
そう言うものの、広樹はすでに酒臭い。
「ヒロ。あの話」
「ああ、あの話……」
急に広樹が真面目な顔に戻った。そして小さく溜息をつくと、手を叩いて注目を仰ぐ。
「みんな。お楽しみ中悪いけど、聞いて」
広樹の言葉に、一同が注目する。
「突然ですが、この諸星君が、しばらく日本を離れることになりました。詳しいことは、鷹緒、よろしく」
簡単な言葉だが、一同はそれを聞いて固まっている。椅子に座った広樹に反して、鷹緒は一歩前に出た。