08:バイト終了日
「沙織。あのBBの後に入ってきた人、誰だよ」
篤が、鷹緒を見ながら言った。
「あの人が、親戚の諸星鷹緒さん。お母さんの従兄弟だよ」
「マジかよ。すげえ背高いし、カッコイイじゃん」
「そ、そうかな」
沙織が、少し照れて言う。
「ああ、それより夢みたいだよ。マジでBBじゃん!」
興奮しながら、篤が言う。目に映るものすべてが新鮮なようだ。
「当たり前でしょ。信じてなかったの?」
「ちょっとな」
「ひどーい」
二人が笑っていると、鷹緒が近付いてきた。
「あっ。お、おはようございます!」
慌てて沙織が、お辞儀をして言う。
「おう。君が彼氏?」
鷹緒が篤を見て言ったので、篤は頭を何度も下げた。鷹緒は静かに微笑んで、篤を見つめている。
「はい、遠山篤といいます! 無理言ってすみません。俺、本当にBBのファンで……」
「まあ、こんなもんでいいなら、どうぞ……」
「……鷹緒さん。あの人は?」
突然、沙織が尋ねた。
「誰?」
「ほら、一緒に来た男の人」
「ああ……初めてだったか。おい、俊二」
鷹緒がそう呼ぶと、鷹緒と一緒にやってきた男性が、こちらに走って来た。
「こいつ、俺の親戚の沙織と、その彼氏の遠山君。沙織には今日まで手伝ってもらうから、勝手に使ってくれ」
「わかりました」
鷹緒の言葉に、男性が笑顔で頷く。初々しさが残るような、爽やかな笑顔の青年である。
「こいつは、俺の助手の木田俊二。年末年始は海外の仕事でいなかったけど、また戻って来たから。おまえ、今日はこいつの下で動いて」
鷹緒はそう言うと、別のスタッフのもとへと向かっていった。
「よろしくお願いします」
俊二と紹介された男性に、沙織が挨拶をする。
「こちらこそ。指示はその都度するんで、よろしくお願いします」
「はい」
俊二はそう言うと、スタッフたちのもとへと去っていった。
「みんな優しそうな人ばっかりだな」
「鷹緒さんは、そっけないけどね」
篤の言葉に、沙織が苦笑して言う。
その時、BBのメンバーが、衣装に着替えてやってきた。
「BBさん、入ります」
「よし、始めよう」
一気にスタジオは緊張に包まれた。
夕方。篤が沙織に話しかける。
「沙織。俺、これからバイトなんだ。もう行かなきゃなんないけど、今日はありがとう。おまえのおかげで、貴重なもの見せてもらってさ……あの鷹緒さんって人にも、お礼言っといてくれな」
撮影中のため、静かに篤がそう言った。そんな篤に、沙織も頷く。
「じゃあ、こっち終わったらメールするね」
「ああ。じゃあ、これで」
篤はアルバイトのため、スタジオを後にした。
「はい、撮影終わります。お疲れさまでした」
それからしばらくして、そんな声が聞こえ、撮影が終わった。
BBたちが楽屋へ戻ると、スタッフたちは早々に機材の片付けに取りかかる。沙織もそれを手伝った。そんな中、鷹緒だけは端のスペースで、パソコンに向かっている。
片付けが着々と進む中で、着替えを終えたBBのメンバーが出てきた。
「お疲れさまでした」
そう言いながら、BBのメンバーは沙織のもとへと近付いていく。
「え……えっ?」